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最終話 事なかれ主義の多忙なる学園生活R18

触れるだけの冴えないキスに夢中になる。啄ばむことも舌を絡め合うこともなく、何度も角度を変えて、音も立てずにキスをする。 どんなエロいことをされるより心から興奮してる。 早川みたいに。俺が。 「部屋いこ」 あんまし聴いたこのないような低い声で誘われる。指を絡めて誘い返す。 ぼうっとする頭で、公衆電話を仕切るパーテーションの中から抜け出すと、一気に現実に引き戻された。 部活帰り。汗だくの中島くんが、バレーボールの入った袋を引きずりながらこちらを見ていた。 「……………………え?」 「…………………………………えっ?」 お互い咄嗟に目を逸らしたが、この現実からは逸らし切れない。口火を切ったのは、男・中島くんからだった。 「オレハソウイウノヘンケンナイデスカラ!!!」 「う、うん」 「オツカレサマァッシタァ!!」 「お、おつかれさまぁ」 運動部員らしい、溌剌とした挨拶をして中島くんはバレーボールを引きずったまま去っていった。 「どおおおおおしよおおおおお!!!」 俺の叫び声が部屋に響く。叫んでも叫んでも叫び足りない。黙ると、中島くんのオツカレサマァッシタァが聴こえてくる。 「ど、どう、したの……?」 余りにも煩かったのか、同室者のレアキャラ南雲あきらが自分の寝室から顔を出した。ちょっとみないあいだに髪の毛が伸びて幽霊みたいになっている。もうこの部屋おばけ屋敷だよ。叫び声は響くし、幻聴も聴こえるし、おばけも出てくるし! 「まといちゃん、俺たちがキスしてるのを後輩に見られてどうよ」 「勝手に説明してんじゃねーよ!!」 急いで早川の口を塞ぐが、完全に手遅れ。そう、なにもかもが手遅れだ!!中島くんにも南雲にも知られるし。なんなら明日には学園みんな知ってるかも知れない。だってほら、もしかしたら中島くん以外も見てたかもしれない。 「ふ、ふたり、は……つきあってる、の……?」 「うん、そう!!付き合ってるの!!付き合いたて!!イェーイ!!みたいな!?俺ですけど!?何か問題ありますう!?」 俺が早口にまくし立てると、南雲はその髪の隙間から驚いた顔を見せた。 自暴自棄になって、自爆する。他人も巻き添えにして。泣きたくなってきた。 「よ、よかった、ね!」 「ウン、ありがとー」 南雲がかつて頭上にツボを落とした相手に向かって小さく拍手する。それを受けて早川が礼を述べた。 「ま、マンガ、みたい……。イケメンとふつ……ゴホッゴホッ」 今、普通って言いかけなかったか?南雲は咳払いしながら、自室の中へ戻った。 早川が俺の真向かいに立ち、俺の頭に手を置いた。 「誰もさ、きもーいとかどんびきーとか、言わないでしょ?どーでもいーもん」 「でも中島くんは目が点になってた」 「そりゃ知り合いが公共の場でキスしてたら、なんだこの淫乱ってなるでしょ」 「なんねーよ!いや、なるのか!?なったからオツカレサマァッシタァって言ったのか!?」 「こんな顔してまさかあんなに淫乱だったとは」 「ちょっとキスしただけだろ!!くそー!!もうしない!!絶対しない!!」 頭の上の手を払って、くるりと180度反転しようとしたら、肩を押されてそのまま360度回されてしまった。ついでに、一秒にも満たないキスをされた。うっかり、数十分前のトキメキが蘇りそうになる。 「ハイ、もうした。とんだ淫乱だネ」 「わかった。俺は淫乱だ。早川菌に侵されてしまったんだ」 「まだ犯してないんだけどなー。今からちゃんと犯していーい?」 「ヤダ。俺は淫乱だから、オーシャンビューで魚に見られながらじゃないと満足できない」 「ど淫乱じゃん」 鼻で笑った早川の胸ぐらを掴む。背伸びして唇に噛み付いた。強引に唇をこじ開けて、舌先で彼の舌を奥から手前に向かって舐めあげる。そのまま口を離す。 そしてダッシュで自室に逃げ込む。 ドンドンと二回ドア叩かれたが、俺が絶対開けない事を早川は理解していた。 「さっきのまといちゃんおかずに3回シコってやる!」 「すくねーな5回はシコれ!」 「6回シコる!」 早川は、最後に一回ドアを叩いて、自分の部屋に戻って行った。 俺はベッドにたどり着く前に、床の上に座り込んだ。 やり直したい。戻れるなら、数十分前に。だめなら、 3分前に。鼻で笑った早川に、おやすみと言って自室に戻る。さもなければ1分前に。ドアを開けて、もっとマシな事を言って、キスして。 「寝みぃ」 突然睡魔が襲ってきた。現実逃避の眠気だ。 シャワー浴びて、とっとと寝よう。 それで自室を出たつもりが、床に押し倒されていた。何が何だかわからないうちに、両手をなにかの布でひとまとめにされる。あ、ネクタイか、と思った時には、時すでに遅し。 「帰れるわけないよねー。あんなことされといて。さてと、まといちゃん6回イこっか」 「早まるな、早川!!俺が悪かった!ごめん!!ムシャクシャして、つい」 「別に俺は怒っているわけじゃないんだよ〜」 謝罪は受け入れられずに、慣れた手つきでパンツごとスウェットを膝ぐらいまでずらされる。そうされる事で足の自由も奪われた。 首から耳にかけてキスをされる。もうやだ。これまでの経験を全て活かして俺の快感スイッチがONになっていく。そんなスイッチがあることも知らなかった。唇のキスは触れるだけ。左手で俺を押さえつけ、右手でよしよしとむき出しになったアソコを撫で付ける。 「あ、マジで」 「やるよ」 やる気だ。舌先で唇をこじ開けられる。さっき俺がしたやつだ。舌の付け根から、舌先をゆっくりと舐めて、絡めて、吸う。ここまではやってない。 「ん、はぁ」 息継ぎついでに角度を変えて、もっと深く。右手は上下に扱き始めて、もうすでに、いっぱいいっぱいだ。 「ほらガマン汁いっぱい出てるよ」 「あっ」 親指でそり勃つ亀頭を撫でられて、全身が震える。そんな俺を見て早川が満足そうに笑う。 ガマン汁のせいでぬるぬるになって、馬鹿みたいに気持ちいい。 「腰、浮いてる。えろすぎ」 「ういてな、ふうっ、はやかわぁ」 「まずは1回目、出し過ぎないようにね」 「へぁあ!?ヤバ、イク、イ、あっあー」 出てる。出ちゃった。ちょっと早く手を動かされただけで、あっけなく果てた。途端にたまらなく恥ずかしくなる。早かった。5分も経ってない。 仰向けからうつ伏せにさせられる。 「あと5回」 「ば、ばかが、い、イけるわけ、ねーだろ」 「わかんないよ、試してみなきゃ」 ギョッとした。試すって言葉にじゃない。ケツに指が添えられてる、その中心にふれるように。 「まっ、まって、早川、それはまだ、俺」 「うん、指だけ」 「えっ、ちょっと、やめ、うわ、ッッツ」 嘘だろ!と叫びたかったが、声にならない。痛え。 少しずつだろうと、痛え。くねくねと動く指。変なかんじ、てか気持ち悪い。 「痛い?まといちゃんの精液使ってるんだけどなー!あ、ローション持ってない?」 「はあ!?うっ、もってるわけ、ねぇつか、ぬいて、マジで」 「じゃあ、しょうがないね」 ぐるりと、中で指が動いた。その時、痛みや異物感とは違う感覚がせり上がった。ネクタイでまとめ上げられた両手で、上から押さえつけてきている早川の手を握りたくて、指を必死に動かす。でも掠るだけだ。 「んあっ、あ」 「ごめんね、怖いよね、ここ?気持ちいいとこ」 「ない、そんなの、おれ、知らない」 「あるよ。チューする?」 「する、する、はやく」 「でもまといちゃん、この体制じゃあチューできないよね。どうしよう」 「ぬいて、ね、チューしよ、うっ」 指が抜かれた。両手を拘束していたネクタイも解かれる。俺は自力で仰向けになると、早川に飛びついた。何度も何度もチューする。よくわからない快感をキスだけで解決しようとした。早川は途中で手を挟んでそんな俺の口を覆った。 「脱ぐから、待っててね」 俺の上で繰り広げられるスーツ男のストリップ。雰囲気ありすぎだろ。目が離せない。途中で目が合うと珍しく早川が目を逸らした。 「……お前いま照れたの?」 「まといちゃんが血走った目でみてくるからさあ」 「ち、血走ってねーよ!」 「好きなんだなと思って」 「へ」 「俺の事が」 うわ。うわー! 急いで顔を隠す。その間に早川は俺のズボン(パンツ込み)も剥ぎ取った。 「脱いで、まといちゃん。ベッドいこ」 恥ずかしさと、期待感の狭間で、Tシャツの袖を握りしめて、めくりあげた。めくりあげたTシャツを早川に脱がしてもらう。 ベッドに登ると押し倒された。俺より広い背中に腕を回す。肌と肌柄触れ合ってなんかやっとこれで正解なのだと思えた。今までが不正解だったわけじゃない。 俺もはやくこうやって抱き合いたかったって答えにたどりついただけだ。 そうなんだよ。 好きなんだよ。 「好き、ヒカル」 「好きだよ、まとい」 「……なんか変だな」 「やりなおす?」 「好きだ、早川」 「愛してるよ、まといちゃん」 もしもだ。 時間が巻き戻せるとして、じゃあ俺が巻き戻すべき日はいつなのか。 俺は何度でも巻き戻す。何日経っても、何年経っても、今日、今、この瞬間を。 「いやー楽しーねー、これがおにいちゃんの学校の文化祭だよ!たのしー、あー、楽しすぎて胃がいてぇ」 「ハッ、クソクオリティじゃん。さっきの焼きそばなんだよ、ゴムかと思ったぜ」 いぐさの機嫌は最高潮に悪かった。全く当たらない射的でもクソまずい焼きそばのせいでもない。 「まといちゃん、お腹痛いのってさ昨日俺のセー」 「うおおおお、あそこに綿菓子があるぞ!!!いぐさ、お兄ちゃんのために買ってきて!!はい、五千円!!お釣りはあげるよ!!」 「は?仕方ねーなー」 好きでもない綿菓子を買いに行かせたいぐさの背中を見送って、早川の揉み上げを引っ張った。 「弟の前で何言いかけてんだよ殺すぞ」 「いたいいたいよ、まといちゃん、でも大丈夫?セーエいたいいたい」 「殺す」 「ごめん、もう言わないから、髪の毛離して。でもいぐさくんには付き合ってるって言ったから、俺とまといちゃんが精液飲み合うような仲だってわかって、イたたたたたた」 「飲みあってねえ!!俺は、飲んでない。……不味すぎて吐き出した」 「えー、ショック。今度は喉の奥に、イッテェ!!!!」 何本か揉み上げを引き抜いたところで、早川のお兄ちゃんがやってきた。今はお姉ちゃんになっている。 「塩谷くん、あと15分で交代だよ!さあ、こっちにおいで」 メイド(ミニスカ)姿の佐伯が腕を広げるが、誰もそこへは行かない。腕をひろげたまま近づいてくる佐伯と適度な距離を保ちながら、ポケットの中に入れていた予定表を取り出して確認した。 「あと15分か。やべ、江藤のメイド姿見なきゃ」 「オエ、アイツも着てんのか」 「大人気だよ、江藤くん。偏った性癖の子たちに群がられていたよ」 いったいどんな性癖を持った奴らなんだ。不良のデカイメイドにトキメクなんて。 「すみません、佐伯先輩!写真一緒に撮ってくださあい」 3人組の可愛い系男子たちがスマホ片手に佐伯に近づく。佐伯は困ったように笑って、丁寧にお断りをする。写真を撮りたければメイド喫茶に行ってお金を払わなければならないのだ。 「ナニアレ、キモいんだけど」 綿菓子を買ってきたいぐさが爽やかメイドお兄さんを指差してディスる。君のお兄さんもあと15分でああなるんだけど。 「ありがとう、いぐさ。そろそろ俺もあっち側にいくからさ。……早川とまわる?」 「いーや、一人でまわる」 「遠慮しなくていーよ、何でも買ってあげるよいぐさくん」 「じゃあ唐揚げ買ってきて。あとコーラ。ホットドッグもくいてーなー」 「お前、自分でいけよ」 「いいんだよ、貸しがあるから」 「そうそう、俺買ってくるから、いぐさくんはまといちゃんと一緒にメイド喫茶に行って来なよ」 なんか申し訳無いけど、ま、いっか。早川なりにいぐさと距離を縮めようとしてくれているのだ。あとで早川になんか買ってやろう。 「早川、ありがとな」 「トンデモナイ、じゃー、またあとでねまといちゃん」 いぐさとふたりで綿菓子を食いながら、メイド喫茶に向かう。 「いぐさお兄ちゃんとチェキ撮ってくれる?一回千円だけど」 「金取るのかよ。とるわけねーだろ」 「ノルマがあるんだよ。お願いいぐさ」 「とらねーつってんだろ。……まあ。まといがどーしてもって言うんなら撮ってやってもいいけど」 「えー、ありがとうー!うれしい、お兄ちゃんうんとお洒落しちゃう」 「はは、キンモ」 今日初めていぐさが笑った。昔から変わらない笑顔を見て胸がトキメク。俺の大事な、おとーと。可愛いなあ。ずっと俺推しでいてくれよ、なんて、言ったらケツつねられるだろーな。 「おかえりなさいませ、ご主人様。あ、お久しぶりです」 メイド喫茶に入って一番に出迎えてくれたメイドは、中島くんだった。中島くんはいぐさに向かってペコリと頭を下げた。俺に対しては?やっぱ淫乱はお断りなのか?あの日から、オツカレサマァッシタァから、距離を置かれている。なんとか、関係を修復しなければ。 「な、中島くん、かっ可愛いね、へへ」 「え……」 話しかけ方を失敗した。我ながらキモい。中島くんも、どんびいてる。 「あ、ありがとうございます」 と思いきや、耳を赤くして照れた。待って。待って!何そのカワイー反応! 「そんな反応されたら俺通いつめちゃうー!」 「それはちょっと……。先輩、着替えますよね。手伝います。山本先輩!塩谷先輩の弟さんのご案内、お願いします」 「ハァーイ!ご主人さまお待たせしましたぁ」 「えっ!!?」 いぐさが山本くんを見て驚いている。どっからどう見ても女の子!メイド!そんじょそこらのアイドルにだって負けてないぜ。どうだ、これがこの文化祭の本気だ!得意げにいぐさを見るが、すでにデレデレになったいぐさが山本くんとチェキを撮っていた。 「いこう、中島くん。悲しいかな、推し変だ」 「あ、はい」 スタッフの控え室は隣の教室だ。中には赤毛のメイドが大股開いて椅子に腰掛けていた。なんであいつタイツ履いてねーんだ? 「ヤダ、あの子丸見えよ」 「江藤先輩、パンツ見えてますよ」 「うるせー。見てんじゃねーぞ金とるぞ」 中島くんが注意しても股は閉じられなかった。それどころか、もっと開いた。パンツどころじゃなくて違うものも見えてしまうぞ。 「ハイ、これが先輩のです。制服脱いだら声かけてください」 中島くんからメイド服を渡される。ネットで仕入れた、やすーいやつ。(ただし山本くんのだけは手作りだ) 「おい、ソレ、俺がやる」 デカイメイドが椅子から立ち上がり、ご奉仕を申し出た。 「江藤先輩はラスト10分、向こうで頑張ってください」 「そうよ、あんたはあっちよスグ子」 「[[rb優 > すぐる]]だっつってんだろ」 「最後まで頑張れ、すぐる」 江藤は舌打ちしてガニ股歩きで出ていった。背が高いぶん、スカート丈が短くなる。江藤もミニスカメイドだった。そんな江藤を見送って、俺、身長高くなくてよかったと生まれて初めて思った。 制服を脱いで、黒いタイツをはく。そして、メイド服に袖を通した。黒のワンピースに白のフリフリのエプロンが縫い付けられていて、後ろのチャックをあげてもらえばそれだけでOKという簡単なシロモノ。 中島くんが俺の後ろに立つ。 「あの、先輩。先日は動揺してすみません。なんていうか、ショックで……」 「そうだよね!!!男同士で」 「いえ!違います!本当に、偏見とかではなくて。たぶん俺先輩のこと好きだったんですよ。それが人としてなのか、恋だったのかは分かんないですけど!変な態度をとってすみませんでした」 中島くんはさっと大事な事を言って、ゆっくりとチャックをあげた。俺は中島くんに向かいあって、大事な事を確認する。 「本当?淫乱野郎だなんて思ってない?」 「は?え?いんらん?淫乱なんですか?」 「ううん、何でもない!俺の方こそ、変なもん見せて悪かった。……俺にとって中島くんは、後輩第一号で、大切で、うん、そう、大切な友人なんだ。だから、これからも、よろしくお願いします」 「先輩。こちらこそ、よろしくお願いします」 「もう良い?まといさん貸してくれる?次俺の番」 俺と中島くんの大事な仲直りタイムを邪魔してきたのは、執事姿の成田くんだった。は?ずるくね? 「なんでお前だけ男の格好なの?」 「俺は、執事に男装しているメイドのコスプレです」 「設定がマニアックだけど、一見ただの執事じゃん!ふざけんな!じゃあ俺も男子学生のフリをしているメイドのコスプレがいい」 「いいですけど下着は女性物ですよ」 「いや、やっぱいいや、メイドのコスプレする男子学生で」 「ということで、まといさん。ヘアセットは俺に任せてください」 ヘアセットってなんだろ、フリフリのヘアバンドみたいなやつのことかな、なんて呑気な事を考えていたら、頭に重たいものを被せられた。 「あれ、え!?えええ!?あの時の、女の子!?」 中島くんが俺を指差して驚く。その反応を見て悪い予感がした。まさか。 「はぁーねぇさん、おかえりなさい!!!会いたかったよまといねぇさぁん」 成田くんの反応で確信した。俺が今被っているのは金髪ボブウィッグだ。 「おい!!どういうつもりだ、成田くん!!これじゃあ、映画のヤツが俺だってバレるだろ!?」 「まさか、塩谷先輩だったなんて……」 「安心してください!まといねぇさんには、この猫のお面をつけてもらいます!!」 成田くんから渡されたのは、画用紙に手描きで描いた手作りのお面だった。ピンクの猫なのか豚なのかわからん。絵、下手くそだな。 「これでまといねぇさんだとはバレないし、集客もできます。まといねぇさんにもメリットはありますよ。メイド服着た姿なんて、普通見られたくないですよね。東雲さんのメイド姿みました?糞食らえでしたよ」 「みてねぇけど……酷い言われようだな。そうか、そんな風に言われる事もあるんだよな……。お面か……。なんか良い気がしてきたぞ。よし!つける!」 「あっ、待って!!!その前に写真!!ねーさんのメイド姿。俺のカメラ、カメラ」 「さー、中島くん、行くわよ」 成田くんのことは無視して、豚のお面をつける。膝丈メイド服をなびかせながら俺は戦場、否、メイド喫茶へと向かった。 「終わっちゃうね」 校門の前で、男子学生に戻った山本くんが寂しそうに語りかけた。文化祭が終わる。別に、そこまで楽しみにしていたわけでも、頑張ったわけでもないけど、俺も同じように寂しい気がした。オレンジ色の夕陽と夜空のグラデーションが余計センチメンタルな気分にさせる。 「なんつーか、いい思い出になったよな」 「うん、そうだね」 良い思い出になった。けど、ひとつ足りない。メイド喫茶が思いのほか忙しすぎて、早川とふたりで文化祭回れなかったなあ。いぐさもいるし、早川とふたりで回る約束なんかしてなかったけど、後になって思うのだ。今、終わりそうになって、ちょっとだけ後悔する。 「いぐさくん、楽しかった?」 「いやー、ちょーたのしかったっす。山本さん、俺の推してるアイドルに似ててー、すっげえ感激しました〜。アイドルやりません?絶対人気でますよ、あ、俺ちゃんと推しますよ」 なんだその喋り方。調子こきすぎだろう。まあ、なんだかんだ、いぐさには喜んでもらえたようなので良かった。ありがとう山本くん。 これからいぐさと俺は母さんの迎えの車に乗って実家に帰る。山本くんも、あのリムジンが迎えにくるらしい。 他にも招待した家族とともに帰る生徒がたくさんいて、渋滞ができていた。 「あ、アレかな?」 山本くんが自分の迎えの車を見つけた。どんな車よりも見つけやすい。 「じゃあ、お先に失礼するね。塩谷くん、また学校で!いぐさくんも、またね!」 ふたりで坊っちゃんを見送る。車に乗り込んでも、窓を開けて俺たちに向かって手を振ってくれた。 その車が去ると、いぐさが俺の手を握って来た。 「えっ?どうしたんだよ」 「にいちゃんが、遠くに行っちゃうそうな気がして」 えええええ!!!突然のデレーーー!!!!あまりにも不意打ち過ぎたので、手を握り返してモミモミする。 「ここにいるぜ、にいちゃんは」 「うん、でも、俺のにいちゃんじゃなくなっちゃう」 「んなわけねーだろ。俺はずっとお前の兄貴だよ」 「じゃあ俺と早川ヒカルどっちが好き?」 「えっっ!?えーっと……えっと、えーと、え?どういう意味で?」 「俺と早川ヒカルが海で溺れてたらどっちを助ける?」 なに言い出したんだ。いぐさは俺の手を信じられないくらい強く握った。なにも不安になることなんて無いのになあ。 「ふ。ふたりとも助けるだろ」 「あーくそだわーーやってらんねー。マジで好きなんだ、アイツのこと!くそう、くそう、まといなんか、まといなんか!」 「いてててててて、やめろ、お前も好きだよ!」 「お前、も?も?」 ケツをつねりあげられる。絶対痣になる。ケツがとれる。なんとかいぐさの手を俺のケツから引き剥がした。 「ムカつくけど、両想いなら、応援してやるよ」 「あ、ありがとう」 なんかジンと来ちゃった。いぐさからそう言われるのは、誰よりも嬉しいかもしれない。 その時、整髪剤の匂いが鼻をかすめた。 「ありがとう、いぐさくん」 早川がいる。見間違えでもなんでもなく、隣に立ってる。 「なんで早川がここに」 「もらいにきたんだよ、まといちゃんを」 早川に手を引かれて、タイミングよく空いた車のドア。後部座席にふたりで乗り込む。え?いぐさは? 「いぐさくんはこれからアイドルのライブ。お母さんにも連絡は入れておいてもらったから。あんしんしてね、ライブが終わったら事務所の人がいぐさくんを家まで送り届けるから」 「どういうこと?全く理解できないんだけど!」 「んで、俺とまといちゃんはこれからふたりきりで後夜祭。何処に行くと思う?」 ガチガチにセットされた髪の毛。 グレイのスーツに紫のネクタイ。 行き先なんて一つしかないだろ。 「色々考えたんだけど、最終的に初体験は3Pでイこうって決めたから」 「は?」 初体験はオーシャンビューで。 とても良い雰囲気だった。大きくて真っ白なベッドの上で気持ちいいキスをして、互いに弄(まさぐ)りあって、心も体も準備満タンだった。のに。 「聞き間違いか?初体験は、え?何て言った?」 「3Pでイこう」 「誰呼んだんだ!?」 シーツを手繰り寄せて股間を隠す。突然見知らぬ人物が入ってくるんじゃないかと焦ったが、早川は首を横に振った。ベッドから降りると、カバンの中を漁って、何やらペットボトルを持ってきた。 「嫌がるまといちゃんと、ノリノリなまといちゃんと3Pしよーと思って」 とてもつもなく嫌な予感がする。ペットボトルをよく見てごらん。あれはペットボトルなんかじゃなく。早川が、目を輝かせる。爛々と。 「これ、『ノリノリのまといちゃん』!又の名をオナホ!もうね、ほんと俺よく我慢したと思うよ!まといちゃん処女のくせに指だけでイった時なんてさー、もう俺なんの拷問かと思っちゃった!まといちゃんなんて犯そうと思えば死ぬほど犯せたからね?」 「早川…落ち着け……!!ごめん、俺、散々焦らしちゃったよな。ごめんな?さ、それはカバンにもどして、こっちきて……続きシヨ……ね?俺たちふたりっきりの後夜祭だろ?はやくキテ」 何が早川の理性にヒットするかわからないけど、両手を伸ばして一生懸命甘える。早川がオナホを撫でる。それは俺じゃない。 「これじゃあどっちが『ノリノリのまといちゃん』かわからないね」 「まって、それはいいんです!おいてきてください!持ってこないでください!うあああアッー」 「まといちゃん、きもちいーい?」 この状況で気持ちよくないわけが無い。後ろは早川のモノで攻め立てられ、前はノリノリの俺が俺の俺をしごいていた。もうわけがわかんない。極上の快楽を滝のごとく浴びさせられていた。何度も何度もイきそうになって、我慢して。 こんなの拷問だ。 首を振って反抗した。 「あっ、あ、あ、」 「きもちよさそうだねぇ」 後ろから耳を甘噛みされ、俺はシーツを握りしめて、またイクのを我慢した。もういつ絶頂に達したっておかしくないんだけど、耳を噛まれていくのはヘンタイだろ。耳の中に、早川の舌を突っ込まれる。 「はぁっ、はやかわ、もう」 そろそろ我慢の限界。ちょっとだけ精液が漏れる。さっきから、ちょっとずつ、ちょっとずつ。ローションと混ざって、オナホの中に消えて行く。だめだ、もうぜんぶだしたい。 「ねぇ、俺に黙ってせーし漏らしてる?」 「ぁ、あぁっ、でちゃ、あ、ぁっ、あー」 射精は最高だった。 だけど最悪のタイミングだ。まるで早川の言葉に興奮してイッたみたいじゃないか。断じて違う。たまたまだ。すぐ弁解したいが、俺の口からは嗚咽しか出てこなかった。 「よしよし、まといちゃんには、きもちよすぎちゃったね」 オモチャはもう要らない。早川はソレをベッドに放り投げて、両手で俺の腰を掴んだ。ゆっくり、ゆっくり、引いたり出したりして、俺の中をかき混ぜる。イったばかりで敏感になってる体にはキツすぎる。顔をシーツに擦り付ける。 「早川、はやく、イって」 「だめ、ずーっと、やろうねっ」 「やだ、はやく、出して、ね」 「はっ、煽らないでよ」 「はやく、イケってぇ、出せよぉっ」 「そんなに、欲しいの?俺の精子」 頷くと、じわじわと温かいものが広がっていった。あ、出されてる。なんて、気付いてしまったら、イってるのは早川なのに、俺もイってるみたいに、気持ちよくなった。早川は出してる間も腰を打ち付けてくる。 体の奥に、注ぎ込まれるのは、精液なのか幸せなのか、どっちもなのか。 ふたりしてベッドの上に倒れこんで、向かい合う。 早川の後ろに転がってる『白濁が溢れ出す俺』は見なかったことにしよう。視線をずらすと、スイートルームで一番デカイ窓が目に入った。 「あ、カーテン開けるの、忘れてた」 と、呟いて、いやいやそれは違うだろと心の中で突っ込む。海を見ながらやりたかったわけじゃない。ただの言い訳。それをコイツは叶えるなんて、王子様かよ。 早川が俺に覆い被さる。 「じゃあ今のは無かったことにして、もう一回やり直そしちゃう?」 でもカーテンは閉じられたまま。 何度でもやり直せばいい。お前となら、無かったことにしなくたって。 終わり

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