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第9話

「モテたって、そんないいもんじゃないよ。僕さ、オメガっぽく見えるらしいんだよね。学生時代は今よりもっと、頻繁にオメガに間違われてた。実際親戚にオメガ多いし、叔父さんに顔、激似だろ? でもベータだし」 「透さんは名前は体を表すとおり。硝子玉みたいに色素の薄い瞳も髪も、肌も光の中に立つと儚く透けそうで、見つめてると心が痛くなるほど綺麗です。あと面倒見が良くて、とにかく優しい」 「べた褒めありがとう。恥ずかしい……。だけどさ、この容姿、あまりいいことなくて、ベータだって分かっても男から学校の中でも外でもしつこく付きまとわれることが多くて。あいつはそんな時、僕のことを助けてくれたんだ。付き合うようになってから、『アルファの精を受け続けると、ベータでもオメガに身体が変化する』んだっていわれてね。そんなん聞いたことないだろ? アルファばかりで婚姻を繰り返してきた家系に生まれたアルファだと、なんたらかんらって。僕、馬鹿だからさ。頭のいいあいつが言うならそうなんだって、馬鹿正直に信じちゃったんだよね。愛してくれる彼の番になりたいって本気で願ってた」  その頃の記憶がまざまざと蘇る。抱かれる時は決まって彼の家に数日留め置かれることが多かったから、成績は下がる一方だった。だけど彼はお前は俺の番になるから成績なんて関係ないと、そう言って聞かなかった。学校が休みの日など、朝から晩まで抱き潰されていたこともあった。 「あいつの家で、高校二年から就職するまで散々やられて、後ろされながらでしかイケないように躾られて、結局女の子相手はもう駄目になっちゃった」  すでに父親の仕事を手伝っていた彼が他のアルファの友人や父親の部下たちと話をしている時は、長時間ほったらかしにされて大きな屋敷の中、居場所のない寂しい思いを味わった。アルファ同士のカップルだった彼の両親は仕事で留守にすることが多く、使用人たちには多分、透をセフレの一人のように思っていたのだろう。見て見ぬふりで存在自体を無視された。そんな時は懐いてくれていた彼の小さな弟とゲームをしたり、彼にお菓子を作ってあげたり可愛い彼のお世話をして気を紛らわせていた。 「ベータだからさ、うなじ何度も噛まれても傷が痛いだけで意味ないの。シャツの襟、夏でも緩められないから変な目で見られるし、オメガと違って中だしされると腹痛くなんの。そうすると『オメガならそんなことにならないのに』って言われてさ。だって僕、ベータだもん。しょうがないだろ? 痛くて、恥ずかしくて、情けなくて」  思い出すと本当に碌でもない思い出ばかりで、切ない気持ちが込み上げてくる。 「それでも好きだから耐えてたんだけど、でも結局、僕を捨てて別の人と結婚しちゃった。あいつもさ、結局他の奴らとおんなじだったってこと。僕は見た目だけ気に入られた、ただの玩具。飽きて捨てられるまでの期間が少しだけ長かったってだけ」  涙が滲みそうにかるからわざとそんな風に吐き捨てた。 「自分のことをそんな風に卑下しないでください。貴方は充分に素敵な人です。俺には眩しく見えるから」

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