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リナリアを胸に抱いて13

(透さんの様に真っすぐな人が、そんな不実な扱いを受けることを飲めるわけがない。でももしも……。その前に透さんが本当にオメガになって兄さんの子を孕んだら……)  想像しただけでも、苦しくて堪らなくなった。  胸に灯った炎にじりじりと焼き尽くされそうだ。雷の中にも兄に宿っているのと同じ、深い怒りに支配された感情が芽生える。 (その子はただ透さんに愛されて生まれてくるべきだ。優れているとかいないとか、そんな風に判断されるべき存在じゃない。でも論拠がないと、透さんが辛い目に遭ってしまう)  それは一つの天啓だったのかもしれない。 (学ぶんだ。透さんを護るために)  オメガは何のためにこの世に存在するのかについては諸説あるが、一般的にアルファと番ったのちは優秀なアルファ個体を生み出しやすいと言われている。  過酷な環境化ではそれに適したアルファ個体が通常より多く生まれるらしい。そういう地域はまたオメガ個体も生まれやすいらしい。標高の高い地域で生きる人々も、長く海に潜る能力に優れている一族も、一世代ごとにDNAの突然変異が起こった結果、より強い特性を生み出しいわば進化している。  アルファ個体同士で伝わる優秀なDNAも素晴らしい。だがオメガにはいわゆる解析されていないDNAの九十八%の部分にあるという、両親よりもさらに優れた、環境に即した特性が生まれるように、突然変異を多く起こして我が子に伝える能力があるのではといわれている。 (どちらも同じぐらいに素晴らしいと証明出来たら、このアルファ至上主義の一族にそんなことに拘泥する意味はないって伝えられる。そしたら透さんと子供を護れるかもしれない。そしてベータからオメガになるメカニズムは多分アルファの一部の人間が持つ性フェロモンが、普通はオフになっているオメガ化するDNAスイッチを入れられるのではないかと僕は思う。科学的でも文化人類学的でも、どんなアプローチでもいい。その方法を調べ、解明出来たら、透さんをオメガに……、番に出来る)  色々と小難しく頭を巡らせていたが、シンプルに答えは一つだった。  優しさや、愛のようなものを雷に教えてくれた、透の柔らかな心と彼の健やかな未来を護りたい。  そうすれば雷の人生にも少しは意味が生まれるのではないだろうかと切に願った。

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