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第13話
三大貴族。
デズモンド、ミラー、エインズワース。
かつて国を築いた真祖の王の子らに与えられた名。貴族階級に属せず、当主は閣下と呼ばれ、敬われる存在だ。
元を辿れば、この三家は血の繋がったきょうだい同士だった。今は血の繋がりをほとんど感じられないが、稀に、よく似た子供が別々の家で生まれるらしい。
真祖の王の一族であるからか、それとも濃すぎる血族ゆえか、三大貴族が今もなお権力を持っているのは直系の子供にだけ現れる『異能』があるからだ。
珍しく貴重な異能であれば重宝され、異能の力だけでヒエラルキーのトップになることもできる。たとえば『治癒』や『浄化』であれば、王族専属の癒士に抜擢されることもある。
ノアの異能は『慈愛』これだけ聞くとどんな能力なのかわからないが、簡単に説明をするなら感情操作の類だ。ノアが好意的に思った相手は、ノアを慈しみ、愛してしまう。愛情を強制するのだ。
――なんとも、まぁ、悪役貴族 らしい異能だった。
「天使の愛らしさ」と描写されるノアに似合わない異能だと思っていたが、第二章の当て馬 には相応しい異能だと、読者の『俺』は納得した。
「ふかふか! 兄上、このベッド、とってもふかふかですよ!」
「……そうだね。うちのベッドと、どっちがふかふか?」
「こっち!」
ニコニコとはしゃぐ弟に、つい考え込んで、凝り固まってしまった思考を緩めた。
馬車が壊れてしまった俺たちは、エインズワースのゲストハウスで一泊していくことになった。……というよりも、「一泊してこい」という母からの圧があった。
この一晩で、俺がイーディス嬢をどうにかできるとはマリアも思っていない。
何者かに襲われる心配もないだろう。エインズワースのダンスパーティーに招待されて、そこで襲撃にあったとなれば、デズモンドがエインズワースにつけ入れる隙になってしまうからだ。
本来、原作でイーディスを誑かす役目を負っていたのは、マリアの名もない子飼いだった。そもそも、原作では馬車も壊れていないし、一泊もしていない。すでに破綻しかけている現状に頭が痛い。
やっぱり、俺という異物のせいだろうか。
「イーディス嬢が、ディナーも一緒にしましょうって誘ってくれたんです」
いじらしく頬を赤くして、ココアにとろけたマシュマロみたいに笑う。誘ってくれたと、喜ぶ感情に水を差したくなくて、曖昧に微笑んで口を噤んだ。
ノアがイーディス嬢に好意を抱いているから、イーディス嬢は慈しみ愛する気持ちでノアをディナーに誘ったのだ。
ダンスパーティーの招待状だってそう。おかしな話じゃないか。エインズワース家の三女が、どうして個人の名前でデズモンド家の四男に招待状を送るんだ。
素直に喜んでいるノアは、自身の異能について詳しく理解していない。そのほうがうまく事が進むだろうと判断した閣下によって、教えられていないのだ。
憧れ恋い慕う少女が、自身の異能によって強制された感情を抱いていることに、ノアは気が付いていないのだ。
「兄上も一緒に行きますよね」
「いや、せっかくのお誘いなんだから、お前ひとりで行ってきなさい」
「えっ!?」
「俺がいないほうが、きっと話せることもあるだろう」
絶望と書かれた顔のノアに苦笑いして、丸い頭を撫でる。ふわふわで柔らかい毛質は小動物を思わせた。
本当なら、俺も一緒に行きたかったのだが――ディナーは、アデルとカインに誘われていた。
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