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第47話✿

 悪役は倒れて、ヒロインはヒーローと幸せになりました。めでたし、めでたし。 「……ハッピーエンド、か」  泡沫の夢のように、ぱしゃん、湯舟に浮かんだ泡を手のひらで弾いて潰した。  ひとり用のバスタブのふちに足を伸ばしてかかとを引っ掛けて、ぷかぷか浮かぶ白い泡を手持ち無沙汰に叩いたり弾いたりする。  月明りに照らされたこの小さな浴槽がお気に入りだ。広々とした浴室もいいけど、たまにはこの小さな空間で一人の時間を楽しんだっていいだろう。  デズモンド家はその名を名乗ってもいいが貴族としての立場は失われ、領地も没収、きょうだいは済む場所も行く当ても無くなった。  だが、俺とノアはもちろんアデルとカインが保護すると声を上げ、アレクシアはアリスが「うちにおいでよ!」と独断で決めた。なんとセドリックがリチャードを保護すると言ったり、なんだかんだできょうだいたちはエインズワース家とミラー家に分かれて保護されることになった。  ミラー家には俺とノア、三男のリチャード、一番下の妹のエイダが保護されて、セラフィーナはおっかなびっくりエイダのお姉ちゃんをしようと頑張っているとノアが教えてくれた。  水に濡れた前髪をかき上げて溜め息を吐く。  月の光をぼんやりと眺め、ポチャンと落ちる水滴の音に耳を傾けた。  リチャードは「セシルの分まで生きろよ」と俺に言った。  終ぞセシルが誰なのかわからなかったけど、『月の輝き』と名付けられた俺と、『星の輝き』と名付けられた誰かは、きっときょうだいだった。どうして俺が忘れているのかはわからない。思い出すつもりもない。  腑に落ちない点はいくらでもある。でもそれは、(モブ)の役割じゃない。  きっとアリスとくっついたアレクシアあたりが解決してくれるんだろう。そう、弔いの儀式で、明らかに足りなかった柩の数とか。ベアトリーチェとサーシャは、どこにいるのかとか。 「ハッピーエンドで、いんだよなぁ……」 「むしろ、ハッピーエンド以外の何だと?」 「カイン、いつの間に」 「私もいるよ」 「アデルも。それ……ワインか?」  銀盆にワインボトルとグラスを三つ乗せたアデルに目を瞬かせている間に、手際よくカインによってバスタブから引き上げられた。  ザパリと水しぶきを上げて泡を洗い流されて、ふわふわのバスタオルに包まれる。水を拭き取られるんじゃなくて、腕を広げるみたいに広げられたバスタオルに包まれるんだ。ぎゅう、とカインに抱きしめられて、髪をかき上げられて晒された額にキスをされる。 「長湯はあまり良くない」 「月が綺麗だったから、つい」 「体が冷えてしまっている。風邪を引いたらどうするんだ」 「そうなったら、お前らが看病してくれるんだろう」  それはそうだけど、と溜め息を吐いた双子にクスクス笑う。  思考を止めることは、人間をやめるのと同じだ。このふたりといると、つい、考えることを放棄してしまう。ただ本能のままに、剥き出しの俺をさらけ出してしまうのだ。 「ハムとチーズもあるんだろ?」 「もちろん用意しているよ」 「でもその前に、体を温めないと」  濡れた低い声音が囁かれる。  ズグリ、と熱を持った下腹部を手のひらが撫でていく。体を重ねた回数は多くない。片手で数えられるくらいだ。ふたりから与えられる暴力的なまでに気持ち良い、頭がおかしくなってしまうほどの快楽を教え込まれた俺の体は、もとからそういう才能があったんじゃないかと思うほどにすんなりと教えられたことを飲み込んでいった。  タオルの中に包まれた体を、肌を手のひらが撫でていく。ただそれだけなのに、カインに触れられているのだと頭が理解するたびに体温が上がって吐息が熱を帯びて、ビリビリと腰骨が痺れる快感が背骨から這い上がってくるんだ。  風呂上がりや寝る前に、ふたりがかりでスキンケアやマッサージをしてくれているおかげで、もともと白かった肌はさらに透明感が増して、しっとりと手のひらに吸い付く感触だ。  尻なんて、むっちりと肉付きが良くなった気がする。 「う、ぁ、」  濡れた金髪をかき分けて、うなじに唇を寄せられる。 「ふたりだけズルいなぁ」  するり、と体を滑らせてきたアデルに唇を啄まれる。  ちゅ、ちゅ、と幼い子供みたいな口吸いがもどかしくて舌を伸ばしてその先を、続きを求めた。  アデルとのキスに夢中になっていると、まるで僕もいるよ、とでも言うかのようにカインが全身にキスを降らせてくる。  ふたりのモノを同時には受け入れられないし、俺に無理をさせるつもりもないふたりは俺がぐずってしまうくらい丹念に丁寧にもどかしいほど耐え難いほど優しく触れてくる。  剣を握る無骨な手が、花を愛でるように触れてくるんだ。  指先で、手のひらで乱されて、あられもない声を上げてしまう。浴室だから声がよく響いて、我慢しようと口を噤めば「いけない人」と小さく囁いたアデルが唇にかぷりとかぶりついてくる。 「ぅ、あ、はっ、はぁ」 「ん、かわいい」 「かわいね、僕たちのノエル」 「そうだね、私たちのノエル」  つぷり、と長い指先が双丘の最奥を探り当てて、イイ所ばかりを攻め立てていく。  長い指を二本揃えて突き入れられると喉を反らし、引き抜かれると唇を噛んでその快感に喉を震わせる。  つぶさな仕草も見逃さず、的確にふたりは攻め立ててくる。  奥が、指じゃあ届かない奥がぐぱぐぱとはしたなく拓いてさらなる快感を求めた。  キスをしたままアデルが指の跡がつくくらいに右の太ももを掴んで持ち上げ、ノエルの痴態に固く反り起ち、蜜をしとどに垂らした楔で奥まで貫かれた。 「ヒッ……!! うっあっ、あっ、ア、ァッ」 「ふっ、あ、はぁ、可愛、かわいいよ、ノエル、好き、だぁいすき」  甘ったるい毒が注ぎ込まれる。熱くて太いモノが腹の中を行き来して、内臓を擦られて、飲み込めない唾液が口の端から胸元を汚す。  暴力的な快楽を叩きつけられて、こぼれる涙を赤い舌先で舐め取られる。片足で立っている体勢も限界で震える膝が折れてしまう前にカインに抱きすくめられる。  体を持ち上げられて、自分の自重でより深く奥へと入っていく感覚に意識が飛びそうになった。 「ああ、月明かりに照らされて、よく見える」 「ぁっ!? あ、いやだ、ここっ、外から……!」 「誰も見やしないよ。ほら、こっちに集中して?」  大きな窓枠に腰掛けたカインの上に座らせられて、真っ白い光を受けながらふたりの愛を一身に受け入れる。  アデルは、俺とカインが獣のように交わっている姿を見るのが好きだった。カインは、アデルが理性的であろうと我慢をしながら俺を愛する姿が好きだった。  歪な兄弟愛だ。普通、好きな人を共有なんてできないだろうに。双子特有なんだろうか。 「アデルは僕で」 「カインは私だから」  あたりまえだろう、と微笑む双子は瓜二つの顔で睦言を紡ぐ。  獣のように腰を振り、せっかく風呂に入ったばかりだったのに体は汗だくで、ピンと胸元で主張する芽をしゃぶられて、ナカを擦られて、大きな手のひらが俺の中心を包み込んだ。 「イくよ、ノエル」 「イッて、ノエル」 「あ、あぁッ……や、ら、うんんン――!!」  頭の奥で星が散って、腹の奥に熱が広がった。  息が止まって、全身が強張り、脱力する。カインの胸に体を預けると、男臭い汗のにおいに鼻を鳴らした。  一言、二言、頭の上で言葉を交わす双子にあとは任せてもいいだろうか。 「ノエル、眠い?」 「ん、……あと、やっといて」 「うん。いいよ、まかせて」 「疲れてるのに無理させたから」 「……明日、」  もう意識が落ちかけている。頭を撫でてくれる手が眠気を余計に誘った。 「ん?」 「なぁに?」 「あした、おきれたら、デートしよう」

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