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華麗なるデートの香り 4
映画館の近くのカフェに場所を移し、気分を新たにスマホを構えた。
頼んだのはそれぞれの飲み物と、デートっぽい写真のためのパフェとオシャレなパンケーキ。家で作るのとは違う、ふわふわで分厚くフルーツとアイスとたっぷりのクリームがかかった写真映えするお皿を前に、とりあえず写真。アズサさんと撮るとなんでもポスターみたいになるのがすごい。これが「映え」というやつか。
「スマホ貸して。……はい、巴。あーん」
「え」
「えじゃなくてあーん。写真のためでしょ」
カメラを構えた前にパフェを1すくいしたスプーンを差し出され、戸惑いながら口を開ける。写真映えするアズサさんだけでいいと思うんだけど。
あーん、という声とともにスプーンに食いついて1枚。たぶんエサに食いついた魚みたいに映っている。
「ついでに上向いて」
そのスプーンを咥えたまま、指示に従い上を見れば、アズサさんの長い腕の先にスマホ。アングルを変えて上からまた1枚。色々考えつくなぁとしみじみ感心してしまう。
「すごいなぁ。アズサさんに来てもらって本当に良かったです。僕だけだったらこんな写真思いつかないですもん」
「でしょ」
あ、得意げ。こういうところは謙遜せずに誇るアズサさんにスマホを返してもらい、写真をチェック。自分のスマホの中だとは思えないくらい色鮮やかな写真がたくさん出てきてため息が出た。
「ただ、そもそも求められている写真がこういうのでいいのかどうか……。デートの資料って、どういうのがいいんでしょう?」
「わかんないけどまあだいじょーぶでしょ。あの人なにからでもインスピレーション沸く人だから」
自分のスプーンでパフェのクリームをすくって口に運ぶアズサさんにカップごと押しやりながら考える。あのシェアハウスの住人はみんな甘いもの好きなんだな。お菓子ばっかり食べているわりにはみんな身長高くて細いのが世の理に逆らってると思うけど。
「でもスパイスいっぱいのカレー作ってましたよ?」
「まあ、でもそれで毎回なんとかなってるし。15とかでデビューしててずっとそういうやり方で生きてっからなんとかするでしょ」
「そんな早く作家デビューしてるんですか?」
一般的な作家のデビューがどれくらいが普通なのかわからないけど、明らかに早いだろう。高校に入ったばかりの年だ。なんなら僕が親戚に頼まれてアズサさんにサインをもらいに行っていた年齢。その時にすでにサインをする側だったとは。
その上今も、何本も同時に仕事を抱えるくらい売れっ子なんだから、今までどれだけ書いているのか想像もつかない。
「ちなみにアズサさんはいくつからモデルを?」
「あー14? 早く家出たかったから。でも俺撮られてるだけで顔だけだし、使い物になるまで時間かかってるから比べないで」
「十分すごいんですけど……まあ、でも納得です。目立ちますもんねアズサさん。中学生でもきっと注目を集めてたんだろうなっていうのが目に浮かびます」
こんな子がいたら誰だってスカウトする。妙な謙遜をしているけれど、すごいことには変わりない。
むしろ周りの人がみんなすごくて、改めて自分がなんと平凡なのかを思い知らされる。
「それって俺のこと好きってこと?」
「アズサさんって、自分に自信あるのかないのかどっちなんですか」
垂れ下がってくる髪を掻き上げつつ灰色の瞳に見つめられると、問われてることがどうであれ照れてしまうからやめてほしい。
これだけスタイル良くてモデルとして成功している人が自分のことは顔だけだと言ってみたり、そのくせこうやって口説くみたいなからかい方をしてみたり。
相変わらずなにを考えているのかわからない人だ。
ちなみに、窓から見える向かいのビルの側面にアズサさんの顔を大きく載せた看板があって、目の前には本人がいるから感覚がバグりそうになっている。
……そういえば、キャップをかぶっていないから見えているこの綺麗なプラチナブロンドは染めているのだろうか。瞳の灰色と合わさってミステリアスな雰囲気を作っているから不思議に思ったことはなかったけど、外国のルーツがあるんだろうか。
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