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華麗なるデートの香り 6

「さて、渡すもん渡したし食べて次行くか」  いつの間にかパフェを食べ終わりそうなアズサさんに気づき、僕も慌ててパンケーキを頬張る。リスみたいと面白がられて、くすぐったく思いながらアイスティーと一緒に飲み込んだ。  ぺろりと言う音がぴったりくらい綺麗に、そしてあっという間にパフェを食べ終わりコーヒーを傾けるアズサさん。プリンの時もそうだけど、こんなに甘いもの食べて体の管理は大丈夫なのだろうか。  かなり自由に生きているように見えるアズサさんに、マネージャーさんの心労が気になるところだ。 「で、今日はどこまでデートする?」  そんなことを考えながら食べていたから、アズサさんの問いかけに応えるのに間が空いてしまった。  カップを持ったまま灰色の瞳を向けられ、慌てて胃から脳に意識を切り替える。 「どこまで? ……あ、仕事の時間ですか? すみません、確認してなくて。それならここまでで」 「じゃなくて」  夜に打ち合わせがあると聞いていたけど、細かい時間は聞いていなかった。一応ある程度写真も撮れたし、だったらお開きにしても、という申し出は軽く遮られた。  その意味がわからず首を傾げれば、アズサさんは口元に彩り程度の笑みを乗せ僕を手招き。  フォークを持ったままほんの少し身を乗り出すと、アズサさんも身を寄せて。 「デートって言ったらやらしいことするでしょ、普通」  そう囁いた。  耳に飛び込んできた予想外の言葉に、思わずフォークを取り落としそうになる。  なんてことをしらっとした顔で言うんだこの人は。 「し、しないですよ。頼まれたのはデートの資料であって」 「デートでしょ。ラブホの中とかいいの?」 「え……いや、そこまでは頼まれてない、と思いますけど」 「やらしいことは?」 「……それも頼まれてません」 「ちゅーもしないの?」 「あんまりからかうのやめてもらえますか。僕そういうの慣れてないんで」 「慣れてるって言われたら俺が困る」  困られても僕も困る。  反射的に言い返そうとして、かなり混乱しているのを自覚した。  そりゃ本当に付き合っている人たちならそういうのもデートの選択肢に入るのだろうけど、今回のこれはあくまで空木さんのための資料集めだ。そこまではさすがに望まれていないだろう。それこそ望まれても困る。  そんなのわかってるだろうに、どこまで僕のことをからかえば気が済むんだ。  それをまた平然とした顔でやるものだから、わかりづらくてタチが悪い。モテるのが当たり前な顔のいいアルファって本当に厄介だ。 「そもそもそんなところ行ってるの見つかったら困るのはアズサさんの方でしょう」 「俺は別に。……じゃあ家来る?」 「良くないですよ、そういうの」  すごくナチュラルに行先を家に切り替える辺り、誘い慣れてるダメな男だ。いや、アズサさん相手だったら普通は嬉しいことなのかもしれない。だけど芸能人の自覚はないのか。ここまで来るとマネージャーさんに同情してしまう。 「巴のまじめちゃん。じゃあ手繋ぐのはいい?」 「それぐらいなら……って、別にしなくてもよくないですかそれも」 「写真撮るんでしょ。恋人繋ぎはデートの資料として必要じゃない? インスピレーションのため」  遊ばれている気がしなくもないけど、この流れだとそれくらいならいいかと思えてしまうのが危険だ。  流されやすい性格なのは自覚している。それにしたってアズサさんには特に乱されまくりだ。  それに遊んでいるところを頼まれたのであって、こういう写真はどうなのだろうか。雰囲気が伝わればいいのかな。それとも、こんな写真からもなにか浮かぶのだろうか。  この場合、付き合いが長いのはアズサさんの方で、言い分も最も。  第一考えたって作家じゃない僕には計り知れないことで、デートがなんたるかも知らない。だから早いところそれっぽい写真を撮って本人に決めてもらうしかない。 「じゃあ今日は手繋ぐとこまで。ちゅーは次回にお預けってことで」  強く否定しなかったことで了承と取ったのか、話は終わりとばかりにコーヒーを飲み干しカップを置いた。  次回。  どこまで冗談なのか、アズサさんはあまり表情を変えないまま平然と言ってのけるから判断が難しい。  お預けする次回なんてないのに。まあつまりそれは実質なしということだからいいのか。  それが言葉の綾なのか本気なのか窺えないままパンケーキを食べ終え、アイスティーで喉を潤した。色んな話題でお腹いっぱいだ。

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