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暗闇に光る星 2

「巴って結構のめり込んで見るタイプなんだね」  結局また集中して見てしまって、ポップコーンはほとんど残ったまま。  そもそも映画自体あまり見たことがなかったから、面白い映画だと見入ってしまうらしい。それこそ時間があっという間に過ぎるほど。 「いやなんか映画館で見た話との繋がりがこういうことだったんだと」 「いいよね。これでもう1回映画館で見るとさらにいいよ」 「そんなこと言われたらまた見たくなるじゃないですか」 「うん。また行こ。で、せっかく買ってきたからこれも食べて」 「あ、はい、いただき……あむ」  意外と映画を薦めるのが上手いアズサさんに映画好きの部分を垣間見て、感心していたというのに。  最後まで言う前に口の中にポップコーンを放り込まれた。あーん、なんて前振りなしで、直接食べさせられる。しかも食べたらもう1つ、咀嚼してもう1つと、親鳥がヒナにエサをやるように口に放り込まれる。  美味しい。美味しいけど、そのたび触れる指がなんだか恥ずかしい。 「また今度違うの見よ。今度はエッチなシーンがないやつで」 「ごほっ!」 「目そらしてたの可愛かったけど、気まずい思いすると没入感薄れるから」 「……見てたんですか」 「どうするかなって思って」  危うくポップコーンを盛大に噴き出すところだった。慌ててウーロン茶で流し込みながら問う。なんでそんなところを見ているんだ。一緒に映画を楽しんでいると思っていたのに、裏切られた気分だ。 「洋画って油断するとすぐ入るからね、セックスシーン。激しいやつはやめとこ」  気を遣われたのかからかわれてるのかわからないけど、とりあえずその綺麗な顔でそんな直接的な言葉を言わないでほしい。むせて大変なことになるところだった。  そりゃあ、色んな人たちと浮名を流しているアルファの人には馴染みのある言葉なのかもしれないけど。こちらとしては、少なくとも日々の生活の中にさらっと出てくる言葉じゃないんだ。  こういう話題は苦手。 「女の子2人が自分たちだけの家を手に入れて、周りの不思議な住人たちと楽しく暮らす話とかどう?」 「……それって、面白いから薦めてるんですか、それとも僕が子ども扱いされてるんですか」 「ん-、どっちも」 「どっちもかー」  どっちかにしてくれれば僕も態度の決めようがあるのに、いつも通りの顔で両方選ばれたら諦めるよりない。  というか、そんなこと言われたら気になってしまうじゃないか。 「のんびりしてて癒されるよ。巴と世界観が合ってる」 「どんどん気になること言わないでくださいよ。次それ見ますから」 「うん。一緒に見よ」  あ、嬉しそう。  テレビからの光の中だけでも小さく微笑んだのが見えて、本当に映画が好きなんだなと思った。他の人だったらなんとなくわかるんだけど、アズサさんが映画好きなのはなんだか意外だ。  まあこの人だってエンタメ業界の人なんだから全然おかしくはないんだけど。 「あ、一緒に見ると言えば、あれ試しましょう。プラネタリウム。楽しみにしてたんです」 「なんだ、1人で見なかったんだ」 「アズサさんが取ってくれたものなので、どうせ見るなら一緒に見ようと思って」 「巴って本当可愛いこと言うね」 「わかってますよ、もう、アズサさんの言う可愛いが子どもっぽいって意味なのは」 「わかってないじゃん」  さすがにこれくらい明かりがあれば歩けるくらいには慣れたリビングの端に持って来ておいた箱。アズサさんにクレーンゲームで取ってもらった家用のプラネタリウムができるおもちゃ。  せっかく電気を消したし、このまま使ってしまおう。  電池で動くものだからどこにでも置けるけどどうしたものか。 「どこがいいですかね」 「ここらへんでいいんじゃない」 「じゃあちょっとテーブル退かしますね」  電灯を避けて天井に投影するため、テーブルを少し脇に寄せてそこに置いて寝転がることにした。ソファーで玄関からの光も遮られるからいい感じに暗くていい。  ぼんやり見える中でセッティングをし、テレビを消して真っ暗にすると、電源を入れて寝転がった。 「お、わ、すごーい、思った以上に綺麗ですね!」 「あー……」  ぱっと明かりをつけるように広がった星空。  壁も天井も白いから映し出された星がよく見える。もっとチープなものだと思っていたから、部屋全体に星が現れて驚いた。  たぶん星座なんかがわかるほど精密なものじゃないんだろうけど、頭上に広がる星空は十分テンションが上がる。  ただ、1つすごく気になることがあって。 「……結構音響きますね」 「段々面白くなってきた」 「ふ、ふふ、気になると、もうそっちばっかりで」 「ていうかうるさい」 「はははっ、ダメですよ、言わないようにしてたのにっ」  中のモーターの音なのか、とにかく中で動くなにかの音がうるさくて、その振動が床に伝わって微妙に震えてる上に音も余計響いている。ロマンチックなムードとは無縁の機械音がとにかくおかしい。  それでもせっかくのプラネタリウムだからとできるだけ触れないようにしていたのに、アズサさんのはっきりとした言葉に笑いが止まらなくなった。意識したらもう機械音しか聞こえない。  ゲームの景品とは思えないくらい綺麗なのに、それ以上にうるさくて面白い。 「もーアズサさんが……」  おかしくて、笑いながら横を向いた瞬間、アズサさんもこちらを見ていて、思わず言葉を飲んだ。   暗闇の中で星の光を受けてきらめく瞳は見たことのない色をしていて、魅入られたように動けなくなる。全部吸い込んじゃう宇宙みたいな目だ。 「巴」  その手が僕の頬に触れる。体温が少し低い、骨ばった手。  近づいて気づいた香水の香りはやけに甘く、頭がふわふわしてなにも考えられずに目を閉じて。

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