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暗闇に光る星 4
「家が原因じゃないんじゃ待つしかないのかな。やだなぁ」
「まあ、どうしようもないんで」
そうなると復旧を待つ以外できることはない。
せっかくみんな集まっていて暗くても、残念ながら映画鑑賞というわけにはいかなそうだ。
とりあえずなにか飲んで落ち着きますかと提案しようとして思い出した。さっき詰めたばかりの冷蔵庫の中身。
「あ、お肉!」
「肉?」
「特売だったんで買い込んでしまって。……えっと、冷蔵庫開けなければ大丈夫ですよね?」
確か開けなければ何時間かは冷たさが保たれると見た気がする。でもそれも長くはなかった気もする。
氷や保冷剤と一緒にクーラーボックスに移した方がいい? そもそもクーラーボックスはあるのだろうか。収納に入っていた気がしなくもない。それよりもやっぱりできるだけ触れない方がいいのか。
「あー俺の酒もあるなぁ」
「アイスもあるねぇ」
しかも問題はお肉だけじゃない。
大型の冷蔵庫だから入っているものだって色々あって、当然電気が止まっている間それらは冷やされないわけで。
「でもたぶんすぐ点きます、よね?」
僕の言葉に誰も頷かないのは、今遠くを行くサイレンのようなものが聞こえたからだろうか。
「……なんか、変電所の方で火花散ってたって言ってる人がいるんすけど」
「しばらくは無理かもね」
情報収集してくれているヨシさんがスマホを見ながら恐いことを言い、空木さんがため息混じりに諦めを吐く。
寝るにはいまだ早い時間。夕飯もまだだし、お肉はそう簡単に使いきれる量じゃないし、さてどうしたものか。
「よし、バーベキューしようぜ」
こんな時の鶴の一声はやっぱり紫苑さん。行動力があるところがナンバーワンのゆえんか。
さっきみたいにソファーの背もたれに座って決断を下す紫苑さんはある意味とても頼もしい。
「ダメになるくらいなら肉焼いて全部食っちまおう。懇親会だ」
「懇親会はいいけど、バーベキュー?」
「なんだよ、いいだろ。肉焼けばいいんだから。ほら。用意すんぞ。やったことあんだろ、バーベキューくらい」
「そんな陽キャの極みみたいなイベント俺がやるとでも?」
「同じく。苦手っす」
空木さんにヨシさんが続く。確かに2人とも見るからにインドアって感じだもんな。
さっさと動き出そうとする紫苑さんとは反対に、全体的に反応が鈍いのはバーベキューという行事に対してか。
「待て待て。アズサは? 外国行った時に頻繁にそういうのあったとか言ってなかったか? 仕事上の付き合いには必要だろ?」
「参加しろって言われたからしただけ。なんか焼けた肉みんな持ってきてくれた」
アズサさんはどうやら海外に仕事に行ってもマイペースさは変わらないらしい。それで上手く渡ってきているんだからそれも才能なんだろう。
「種っちは」
「……小学生の時に学校でやったくらいで」
もちろん僕だって、そんな知り合いが大勢いなきゃできないようなことしているわけがない。学校行事が精々だ。
それを聞いて、紫苑さんは深々とため息をついた。
「お前ら本当社交性ってものがねぇな。しょうがない。俺に任せておけ」
「任せるって」
「ホストの懇親会っつったらバーベキューに決まってんだろ。どれだけやったと思ってんだ」
本当にそういうものなのかはわからないけれど、確かに紫苑さんは人に囲まれてわいわいしているのが似合いそうだ。
ともあれ、バーベキューをやるのは決定事項らしい。
まあ他にできることもなければ夕飯もまだだし、みんなで冷蔵庫の中身を消費できるのなら一石二鳥どころか三鳥だろう。
「あ、そういえば玄関脇の収納に道具があるって」
思い出したのはこの家に来た時に棗さんに説明されたこと。バルコニーでバーベキューできるように道具も用意してあるけれど、誰もしてくれないと言っていたっけ。
あれが輝く日が来るのか。これは後で棗さんに報告しないと。
「バルコニーに持ってくの?」
「やだよ。どうせ持ってくの俺だろ。庭だ庭」
「にわぁー?」
「敷地内だから家だし外からは見えないだろ」
「……まあいいけど」
微妙に渋る空木さんに、そういえばこの人が引きこもりだったことを思い出す。玄関の外へもほとんど出ないくらいだから、庭も抵抗があるんだろうか。嫌なのかな、外。
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