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暗闇に光る星 7
その後はアイスを食べながらなぜか怪談大会になった。
暗くて他にやることがないと、人は自然とそういう話をし出すらしい。
最初は普通にどこかで聞いたことのある恐い話をしていたんだけど、いくらでも出てくる空木さん以外はそれほどストックがなく、自然と自分が体験した恐い話に移行していった。
「で、『後ろ……』って震えた声で言われて振り返ると、そこにその子が包丁持って立ってて、『あたしだけの物にならないなら殺す!』ってぐさーっと」
「えっ!? 刺されたんですか?!」
「いいなー種っち。いいリアクション。他のみんなも見習って」
「いやもう聞き飽きたから」
「鉄板だしな」
どうやら紫苑さんは毎回この話をしているらしく、空木さんも柾さんも平然とお酒を飲んでいる。こんな恐い話が鉄板ネタになるなんて、どういう日常を過ごしているんだ。
しかも他のみんなも次々とその手の実際あったリアルな恐い話をし始めて、小さいクッションを抱いて聞いていたら、気づいたアズサさんが寄り添ってよしよししてくれた。
子どもじゃないですよと言ったものの、その体温で安心したのも事実。
どうしてみんな語りが上手いんだ。
それからアズサさんに寄りかかってみんなの話を聞いていて、恐さを紛らわすのに飲み慣れないお酒を飲んで……覚えているのはそこまで。
目を開けると、眩しい光が飛び込んできてくらくらした。
続いて同じように眩しいアズサさんの横顔が見えて、そこでやっと電気が点いていることに気がついた。周りを見れば他には誰もいない。
「あれ、電気……ていうかみんなは」
「さっき点いたから、各々片付けて部屋戻った」
なんでこんな近くにアズサさんが、と思ったら、いつの間にか、僕がアズサさんにしっかりしがみついていた。どうやらそのせいでアズサさんだけが取り残されたらしい。とても申し訳ない。
というか無意識のうちの行動とはいえあまりに近すぎる距離に、恥ずかしくてそっと体を離す。
「すいません……僕が寝てたからアズサさん帰れなかったんですね」
「別に」
さっぱりとした言い方はいつも通りで、大して気に留めてないようだからありがたくも気恥ずかしい。そりゃあ子ども扱いされるはずだ。
「もしかして巴って恐い話苦手だった?」
「いや、そんなじゃないと思ってたんですけど、みんな恐い話が上手すぎて……」
まあ、恐かったのは嘘じゃない。そう、きっとそれでしがみついてたんだ。恐かったから。
実際、みんな恐かった。語り口調が上手いからか、引き込まれてしまったしなにより実話なのが一番恐い。
「とりあえず、すいませんでした。もう帰りますか? それとも泊まって……」
「風呂とか大丈夫?」
「え?」
「さっき、風呂の恐い話あったから。なんだっけ、風呂に入ってる時に後ろ……」
「わー! やめてくださいよ思い出すじゃないですかっ」
見送ろうとしたアズサさんに言われて震え上がった。そうか。それがあった。
シャワーは明日の朝浴びてもいいんだけど、煙と肉の匂いが髪にまでしっかりついている。できれば落として寝たい。
たださっき聞いた恐い話の数々を思うと、今お風呂に入るのは遠慮したい気持ちにもなる。お湯を浴びるだけ浴びて出てくるか? でも、なんならシャワー中が一番恐いんじゃないだろうか。
「えーっと……」
「んじゃ、恐くなったら声かけて。風呂の前にいるから」
「え?」
「さっさと入ってきな」
よいしょと立ち上がったアズサさんがスマホだけ持ってリビングと廊下のドアを開ける。
どうやら僕がお風呂に入っている間、外にいてくれるらしい。どれだけいい人なんだ。いや、そこまでしてもらうのはどうなんだ。
とは言っても大丈夫とは言い切れず、厚意に甘えてシャワーを浴びる間外にいてもらうことにした。
「アズサさん?」
『いるよ、ここに』
声をかければすぐに応えてくれる。
シャワーのコックを捻ったら、という話を思い出して声をかけ、鏡を見て声をかけ、いよいよ頭を洗う時になって背中がぞくぞくしてきた。
「あ、あずささーん。なにかちょっとだけ話してもらえませんか。頭洗う時だけでいいんで」
シャンプーが目に入りそうになって目をつぶったらもう開けるのが恐くて、そんなお願いをしたら反応がなくなった。
「アズサさん……?」
なにか音はする。だけど声がしない。
……まさかなにかあったのでは? お化け? それとも不審者?
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