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暗闇に光る星 9

「一応聞くけど、1人で寝れる?」 「うぅ……」  ドライヤーまで済ませたお風呂上り。  部屋の前でアズサさんに問われ、情けなくも頷けなかった。  天井とかベッドとかクローゼットとかの恐い話は絶対ルール違反だと思う。しかも幽霊も実際の人も織り交ぜての恐い話は絶対ダメだ。自分たちはどうせ朝まで寝ないからって、本当に反則だと思う。  そして一度聞いてしまった手前、思い出したくなくても勝手に思い出されて、どこもかしこも恐い。なんならドアを開けるのさえ恐い。 「……一緒寝る?」  今さっきお風呂であんなことがあった手前、それをお願いするなんておかしいんだけど。 「あの、じゃあ僕床に寝るんでアズサさんはベッドに」 「怯えてる相手に手出すほど飢えてないって」  そういう形で一緒にいていただければ、と申し出たら呆れられた。 「怯えるというか……」 「てか、単純に眠い」  ふわ、とあくびするアズサさんは、確かにまぶたが落ちそう。いつも以上に灰色の瞳がとろんと揺れている。  結局大人になれなった僕は、アズサさんに一緒に寝てもらうことにした。  アズサさんのベッドは広いし、そこに人がいると思えば安心できる。ただ、アズサさんである安心感と緊張感がちょうど半々。  背中を向けて、できるだけベッドの端に寄って目をつむる。  大丈夫。アズサさんの気配で大抵の恐い話は無効化されるし、その当人は半ば夢の中。さっきみたいなからかいはもうされない。  ……と、思いきや。 「あー忘れてた……」 「え?」  ぼんやりした呟きに振り返った瞬間、寝ぼけながらこちらを向いたアズサさんが、僕の額に唇で触れた。 「!」 「おやすみ」  お預けになっていたチューだとすぐ気づいた。  映画は「次回」のお家デートだったんだ。  不意打ちのキスにばくばくと心臓をうるさくさせているのは僕だけで、アズサさんはそのまま寝入ってしまった。  半分抱き枕状態で、そのくせ本人はもう気持ちよさそうに寝ていて。  そういえば最初も、アズサさんが僕の寝ているベッドに入ってきて寝てたんだったっけ。  ……ちょっと考えて気づいた。  別にこの人は誰かと寝るのが特別じゃないのか。隣に誰かいる状態で寝るのはある意味当たり前というか、不思議な光景ではないってことか。  恋人がいて当たり前の人なんだ。僕と寝るくらいなんでもないか。 「緊張して損した……」  触れ合いに慣れていない僕は、これだけでもひどく緊張したのに。経験値が違いすぎるアズサさんは、もうすでに夢の中だ。  僕の日常とはかけ離れた毎日を過ごしているんだろうアズサさんに、僕は一体どんな感情を抱いていいやら。  難しすぎて、とりあえず明日以降に持ち越し。

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