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恋するランウェイ 3

「わ、冷たい」  気になってフルーツを摘んでいるのとは逆の手に触れた。やっぱり冷たい。  元から体温が低いと思っていたけれど、今はそれを通り越して冷たいくらい。 「もしかして、本当は緊張してます?」 「……わりといつもこう」  ポーカーフェイスというか無表情というか。いつも落ち着いた顔をしているけれど、やっぱりアズサさんみたいな人でもこういう舞台は緊張するのか。  全然顔に出てないのはすごいけど、なんだかちょっと可愛らしい。 「アズサさんは、いつもかっこいいですよ。今日は、特に」  冷たい両手を擦って、少しでも温める。  何事にも適度な緊張感は必要だろうけど、別に手を温めるくらいはいいだろう。  さっき唇に触れて冷たかった指の先までちゃんと。 「巴は、鈍いんだか鋭いんだかわかんないね」  大人しく手をさすられながら、アズサさんはため息を漏らす。 「……これで気づいた?」  徐々に温まってきた指先を僕の唇に押し当て、少しだけ気まずそうに言うものだから、頷きながら手を離してまたさする。 「巴って、体温高いよね」 「……アズサさんが冷たすぎるんですよ」  手はそのままに、こつんとおでこをぶつけられて視線を下げる。なんでこの人はこう簡単に距離を詰めてくるのか。いや、先に手を取ったのは僕だけど、さすがに顔が近い。 「で、誰と仲良くしてたの」 「仲良くって。ヨシくんと一緒に仕事しにきたんで、今どんな様子か聞いてたんですよ」 「『ヨシくん』? いつの間にそんな仲になったわけ?」 「……アズサさん、なんか門限に厳しいお父さんって感じですね」  おでこを押しやりのけぞるようにして距離を取ろうとするけれど、いつの間にか手を握られていて離れられない。おかしいな。僕が主導権を取っていたはずなのに。 「俺も一緒にどっか行きたい」 「いや別に遊びに来たわけじゃないですし」 「どっか行きたい。一緒に」 「わかりましたから手離してください。もうあったまったでしょ」  どうやらイエスの答えを聞くまで離す気はないらしく、今度どこか行きましょうという返事を引き渡し満足げな様子を得た。この距離でこの顔面で頼まれて断れる人なんかいるだろうか。  そもそも忙しい時間でたまたま人通りが少なかっただけで、普通に人が行き来する場所でこんなにくっついていたら変に思われるじゃないか。ただでさえ目立つ人なんだから。 「さて、そろそろ着替えに行くか」 「いってらっしゃい」  身を翻し、控え室の方へ戻ろうとしたアズサさんは、だけど振り返って少しだけ笑った。 「見てて、ちゃんと、俺のかっこいいとこ」  少しキザな、だけど自信のこもったその表情はやっぱりいつものアズサさんと違って、プロのモデルの顔をしていた。  それが、とても、かっこよくて。 「種田くん?」  いつの間にか傍に来ていたヨシくんに話しかけられるまで呆けていたのは、アズサさんに知られたくない話。

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