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変化する日常 2

「君が種田くんだよね? あれ、種っちだっけ? 種ちゃん?」 「種田巴です」  駆け寄ってきた弟くんにとりあえず名乗ると、「俺のことは(すず)って呼んで」と握手をされた。意外とがっしりしている手からして、中学生よりかは少し年上かも。 「ふふふ、そっかー。話は聞いてるよー。ご飯美味しいんだって?」 「えっと、普通くらいだとは思うけど、良かったら食べてきますか」 「え、メニューなに?」 「今日はグラタンです」 「えええ食べたい!」  柾さんにベシャメルソースの作り方を聞いて、自分でもできるんだと知ったから最近それに凝っている。  そしてそこにどうやって野菜を混ぜ込んで食べさせるかという使命にも燃えていた。今なら世の中のお母さんたちがどうやって子どもに野菜を食べさせるか悩んでいることに共感できる気がする。なんならそういうレシピをよく見ている。食に関してはみんなお子様だと思っているから。  だから上々の反応をくれた鈴くんもお兄さんとご飯どうですか、と誘いたかったのに。 「でも、残念だけどもう帰らなきゃいけないんだ。また今度ね」  どうやら鈴くんは鈴くんなりに忙しいようで断られてしまった。まあ、お家のご飯があるだろうから無理強いはしちゃいけない。 「ヨシくん、ゲームよろしくね」 「あ、はい、あ、うん」  明るく頼む鈴くんと対照的に疲れたような顔をしているヨシくんの様子からして、代わりにクリアすることを頼まれでもしたのだろう。手伝えたらいいんだけど、たぶん邪魔にしかならないだろうな。 「じゃあ、また」  少しばかり大人びた仕草で挨拶をして、鈴くんは颯爽と外に出ていった。そういえばどうやって帰るんだろう。近くまで送った方が良かったかな。 「ええっと」 「……とりあえず俺は、もう少ししたらスタジオ行くんで」  鈴くんのことをもう少し聞いてみたいような、あまり踏み込まない方がいいような。  考えながら振り返ると、のっそりとヨシくんが立ち上がった。体が重そうだ。 「大丈夫? なんかすごく疲れてるみたいだけど」 「ちょっとその、パワーというか、圧がね……。いや、なんでもない。それより種田くん、なんか最近雰囲気変わった?」 「え? そう?」 「なんとなく。その……可愛くなった気が」 「それは、どういう……」 「いや、俺の気のせい。ごめん、変なこと言って。じゃあ部屋戻るから」  話の切り替えが急すぎて、ついていけない間に早口で切り上げたヨシくんはソフトを持ってそそくさと階段を上っていった。  アズサさんも紫苑さんもたまに言うけど、男が言われる「可愛い」は果たして褒め言葉なのだろうか。全員身長が高いこともあって、どうにも扱いの話の気がしてならない。  でもヨシくんがそんな態度取ることはないだろうから、きっと変わったって言うのはいい意味だと思いたい。  とりあえず今できることは買ってきた食材を冷蔵庫に詰め、夕飯を作ること。と、それより先に、ヨシくんが外に行く前に、軽くつまめるものでも作るか。

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