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変化する日常 6
日曜日の日が高い時間は家の中が静かだ。
空木さんは曜日感覚がないからいつでも部屋にこもりきりだし、紫苑さんは世間が休みの日こそはりきって出勤する日だから動き出すのは日が落ちてからで、柾さんも同じくいつも通りの出勤。
ヨシくんは朝からなんかのコラボカフェなるものに行っているらしく、家の中は人が動く気配がない。
共用部分の掃除はしなくていいと言われているし、キッチンも朝から磨いてピカピカ。溜まっている課題もなく、急なバイトの要請も出かける予定も特にないのんびりした休日。なんなら夕飯用のビーフシチューも作ってしまった。
……そういえばアズサさんに勧められた映画があったっけ。
ゆったりした内容らしいし、今見るのにふさわしいかもしれない。その名前を思い出すたびドキドキしてしまうのを抑えるためにも、ぜひリラックスしよう。
家だからこそ、のんびり優雅に見るためにコーヒーなんか入れたりして。
「あ」
ちょうどいいところにチョコレートの箱があった。
たまに紫苑さんがもらったお菓子を持って帰ってきて、お菓子カゴの横に積んでいくんだ。お土産みたいなもので、いつでも食べていいというお許しももらっている。
自分では買わないようなオシャレで高そうなパッケージ。せっかくだから貰おう。
コーヒーを入れてチョコを摘みながらの映画はあまりに優雅すぎる。居心地が良すぎてダメになりそう。そりゃアズサさんも引っ越したというのにここに帰ってきてはだらだらするはずだ。
そんなことを考えながらも見た映画は激しいアクションがあるわけでもないのに意外とハラハラドキドキして夢中になってしまった。言われた通り子どもが頑張る御伽噺のような話だったけど、それだけじゃない部分でしっかり楽しんで満足。アズサさんのチョイスは侮りがたい。
そうやって楽しんで、空になったカップを洗いにいこうとした時に体の違和感に気がついた。
……なんか、変な気がする。
てっきり映画を見た余韻が続いているのかと思ったけど、そういうものではない。それなら見る映画の種類が違う。
だってさっきからドキドキと鼓動がうるさいし、体が熱い。
具合が悪い感じじゃない。そういうものではなく、ただただ熱い。わかるけどわかりたくない疼きは意識したことでどんどん強まっていく。
なんでこんなことになっているのかはわからないけれど、ともかく誰にも会わないうちに部屋に飛び込んだ。カップは後で洗えばいい。
その判断は間違いではないけど正解でもなかった。
部屋はアズサさんの匂いでいっぱいなんだ。家主がいなくなった今でも、まだにその匂いは薄れていない。
その匂いを嗅いだ途端に抗いがたい熱に襲われて、入り口からは見えないベッドの陰に座り込んだ。
「ん……ッ」
耐え切れなくて、下着の中に手を伸ばす。絶対おかしい。今までこんな風になったことないのに。
口を押えながら目をつぶれば、アズサさんの顔が浮かんできて手の中のモノが一気に硬くなる。こんな時に思い浮かべちゃいけないとわかっているのに、じっと僕を見つめる目しか出てこない。
「う、っ……ん」
あの後、あの気持ちいいキスの後、もしも誰にも止められなかったらどうなってたか。流されていたらどんな風に触られていたか。
あの冷たい指に触れられると、そこが熱くなって、じんとして。
「アズサさ……んっ、う、ん……あ」
ベッドに顔を伏せ、ひたすら擦る。早く楽になりたいのに焦れったい熱がぐるぐる渦巻いている。
「……」
なにかが聞こえた気がしたけど、それどころじゃなくて、ただひたすら熱を追う。普段はごくたまに処理するようにしかしないから、こんな時どうしたらいいかわからない。こんな風に、誰かを思い浮かべて熱に翻弄されたこと今までなかった。
アズサさんに触られたい。アズサさんに気持ち良くしてほしい。それしか浮かんでこない。
「巴」
「ッ!?」
その思いが生んだ幻聴かと思った。むしろそうであってほしかった。
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