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苦悩するオメガ 2

「……あれ」  寝転がったままの姿勢で目に入ってきたのは、部屋の端に置いたプラネタリウムの箱。星みたいに頭の中に考えがきらめいて、そういえばとスマホの中を探る。  そういえば空木さんにデートの資料を頼まれて一緒に出かけた時、待ち合わせをするのに一応連絡先を交換したんだった。  アズサさんが目立っていてすぐに見つけられたから結局使わず、それで忘れていた。けれど、そうか。連絡の方法は普通にあったんだ。 「……いや」  衝動的に連絡しようとして指が止まる。  忙しいなら迷惑だよな。なによりアズサさんはアルファなんだ。僕がオメガになったなんて話をされたって困るに決まってる。より一層ここには来なくなってしまうかもしれない。  正直、わからない。でも、言えるのはアズサさんしかいなくて、散々迷ってメッセージを打った。「時間ある時に電話してもいいですか」と。あまり深刻に見えないようにスタンプでも付けようか、迷っている間にいきなり電話が来た。 「も、もしもし」 『大丈夫? なにがあった?』  あまりの反応の速さに声が掠れてしまったら、すぐさま心配の問いを返された。心配してもらって申し訳ないけどその声を聞いただけでほっと力が抜けてしまう。  どうやらちょうど仕事の合間だったらしいアズサさんに今日の病院の話を端的にすれば、「そっか」とだけ返された。  短いけれど冷たい返事ではなくて、わかっていることを改めて確認したような落ち着いた言い方。トーンの変わらないいつもの声は、それだけで安心感を与えてくれた。 『ごめん、すぐには行けない。けど、不安だったら棗さんとか空木さんに相談した方がいい』 「棗さんと空木さん? でも……」 『2人ともオメガだから。俺に聞くよりちゃんと頼りになるよ』 「え、そうなんですか……?」  あっさりとした言い方からして、別に隠してはいないことだったらしい。けれど僕には初耳だ。  こんな近くにオメガの先輩がいたとは。一つ屋根の下で暮らしていたって、知らないことはまだまだたくさんあった。 「……あの、ごめんなさい。こんなことで電話して。アズサさんの顔しか浮かばなくて」 『それは嬉しい。本当はすぐに行きたい』 「いやダメです。仕事忙しいんですよね? 僕なら大丈夫ですから。2人に聞いてみます。すみません、お騒がせしました」 『頼られるのは嬉しいし、俺は巴に会いたいよ』 「……僕も会いたいです」  僕のことを思ってのリップサービスかもしれないけれど、久しぶりに名前を呼ばれ、心がほどけて本音が漏れた。  当たり前にいる時は考えることもなかったけど、今はとても会いたい。 『え?』 「声聞けて良かったです。ちょっと安心しました。それじゃあ切りますね。お仕事頑張ってください。体には気をつけて」  せっかくの休憩時間を僕の電話で潰したくないし、口早に言って電話を切った。そして深く息を吐く。  電話越しに話すのは初めてだから緊張はしていたのか、気づけばベッドの上に正座していた。いや、久しぶりに話したからだろうか。でも、声を聞けて良かった。ずっと喉に詰まっていたような気持ちが楽になった。  アズサさんが普通でいてくれるから、僕も気持ちが落ち着いた。  なにより、アズサさんからもたらされた情報は、驚きと安堵の材料を与えてくれた。  棗さんと空木さん。2人ともオメガだったなんて。全然気づかなかった。  目の前が壁に塞がれていたような気になっていたけれど、アズサさんのおかげで少し光が差した気分だ。2人にうまくやるやり方を教えてもらえればすぐにここを出なくてもいいかもしれない。  とりあえず誰からも隠れるようにして簡単な夕飯を作り、部屋で待機。それから空木さんがご飯を食べ終わるのを待って声をかけた。 「空木さん、ちょっと相談に乗っていただきたいことがあるんですけど」  その言い方からしてなにか深刻なものだと思ったのか、空木さんは「いいよ。なに?」と請け負ってくれた。そしてすぐに周りを見回し上を指差す。 「……ここじゃあなんだから、俺の部屋行く?」

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