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苦悩するオメガ 5
「そんなこと言われたら余計好きになっちゃうじゃないですか」
「あ、認めた?」
意味がわからなさ過ぎて思わず素直な気持ちが口を突いて出た。それを聞いて、空木さんは口元を笑みの形に歪ませる。
「……アズサさんと同じ気持ちかはわからないですけど、好きなんだと思います、たぶん。誰かを好きになった経験がないのでよくわかんないですけど。ていうかもう全然わかんないんですけど」
「え、もしかして初恋なの?」
「……そういうのわかんないんです。ただ最近ずっとアズサさんのこと考えてて、実際会ったらどうしようとか、考えると耳が熱くなるくらい、ですけどこれってどうなんですか」
「種ちゃんにぶちんで可愛いなぁ」
またよしよしされた。耳が熱い。
好きかどうかなんてどうやったらわかるんだ。好意はわかる。でも、恋愛の意味で好きかとなると、途端にわからなくなる。
頭から煙を噴きそうになって、とりあえず水でも飲もうかとしていたらインターホンの音で思考が途切れた。玄関で宅配便のお兄さんから荷物を受け取り、リビングに戻ってくると空木さんがやってきた。
「俺の?」
「いえ、なんか僕宛てみたいなんですけど……」
大抵こういう小包は空木さんの買い物だ。だからいつもの荷物かと思ったけど、宛て名は僕だった。しかも。
「……アズサさんから?」
アズサさんからの届け物。
なにも心当たりがなくて、首を傾げながら開けてみる。するとそこに入っていたのは首輪だった。
まるでアズサさんの瞳のような深いグレー。触り心地の良いレザーの首輪は、正直とても高そう。「使って」とだけ書かれたメモが一緒に入っている。
「わー独占欲丸出しでこわー。牽制だねこりゃ」
「牽制?」
「他のアルファに向かって、俺のもんだから手を出すなアピール」
「僕が相談したから気を利かせて送ってくれたんじゃないんですか」
「いや、アルファからの首輪のプレゼントって、わりとそういう意味だよ。アクセサリーよりリアルなやつ」
中を覗き込み、とても楽しそうに笑っている空木さん。音で言えばニヤニヤだ。
そういうものなのか。まだアルファとオメガのことはわからないから、それが本当なのかからかわれているのかもわからない。
でも、なんにせよアズサさんがこれを送ってきてくれたってことは変わらない。
僕がまったく考えつかなかった首輪のことに気づいて、買ってくれたんだろうか。忙しいだろうに、あの後、わざわざ。
「きつくない?」
「大丈夫です」
空木さんに教えてもらいながらさっそくつけた首輪は、まだ違和感はあるけれどしっかり守られている感じはした。実際に付けたことで、大事なことなんだなという実感もじわじわ出てくる。
「とりあえずこれでしっかりガードして守ってこう。少し落ち着いたらアズサも来るだろうし。ていうか、実際会った時にどうするかを考えといた方がいいかもね」
「どうするか、ですか」
「アズサはアルファだよ?」
わかっていたことだけど、改めて言葉にされればその意味は重く伝わる。
自分がベータとして見ていた時は、アルファはただただ別世界の優れた人だった。でもオメガの立場からして見ると途端に意味が変わる。
思わずもらった首輪に手を当て、それで隠されているうなじを意識した。
「……わかんないです。正直。だって、番とかそんなの考えたことなかったし」
「でも現実として考えといた方がいいよ。種ちゃんの場合は特に早めにね」
アズサさんのことは好きだと思う。
ただ、番とかの話になるとまだリアリティがない。どう悩んでいいのかもよくわからない。
アズサさんに関してはわからないことだらけだとため息をつくと、空木さんはまたよしよしと僕の頭を撫でた。
オメガのおこちゃまな僕は、一度なにもかも忘れて遊びに行きたいくらいだ。
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