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効能は「運命」 1
しばらく悩んでいたかったけれど、答えを出すときは思ったよりも早く来た。
今日の朝ご飯のメンバーは珍しく2人いた。
相変わらず徹夜をこなしてこれから寝るらしい空木さんと、ゲームで夜が明けたヨシくん。一気にクリアまでする配信をしていたらしく、疲れと空腹でぐったりとテーブルに伏せっている。
そんな2人のために、朝ご飯は消化のいいリゾットにした。
柾さんのお土産のスペシャルスープに、残っていたご飯を入れて炊いた上にチーズをかけただけのお手軽リゾットだけど、元の味がいいから立派な一品だ。毎度ありがたいお土産。
お世話になっているしお土産返しでもしたいところだけど、そもそもお土産を買うにはどこか行かなきゃいけないし、旅行なんて修学旅行以外したことがない。
そんなことを考えながらそれぞれのペースで朝食を食べていたら、スマホが鳴った。そういえばさっき天気予報を見てたんだっけと何気なく画面を見て。
「え?」
「なに、どうした?」
「いえあの、アズサさんから」
意外な時間の意外な人からの連絡に思わず声を上げると、素早く空木さんが反応する。
そこに表示されていたのはアズサさんの名前。食事中にお行儀が悪いけど、なにがあったのか気になって手を止めてメッセージを開く。
「なんだって?」
「『今日は家にいて』って」
「帰ってくんの?」
朝から仕事だろうか。前までだったらこの時間なんてまだ寝ていたのに。
家にいて、ということは大学は休めってこと? その時間に帰ってくるんだろうか。
それを問う前に、また短いメッセージが届く。
「『あと、1泊分の用意』……?」
「わお、お泊りの誘い?」
説明がなくてよくわからないけど、空木さんはなにか盛り上がっている。徹夜のせいかいつもより若干テンションが高い。
1泊。空木さんの言う通りどこかに泊まる話なんだろうけど、なんで急にこんなこと。というかこれって、2人でってこと?
「食べたら用意してきなよ。片付けは俺がやるから」
「あの、でも」
「……断るなら早い方がいいよ」
そこで、お皿を抱えるようにして食べていたヨシくんがのっそりと体を起こす。
夜通しゲームをしていたために目が疲れているんだろう、いつもより剣呑な目つきで見られて、まばたきを返す。
言われて気づいた。戸惑いはしたけど、断ることなんて考えていなかったことに。
「……用意してきます」
最後の1口を口の中に放り込んで、行儀悪くそのまま立ち上がる。今すぐじゃないのかもしれないけど、聞くには疑問がありすぎて上手く返信ができる気がしない。だからとりあえず言われたことからする。
でも、1泊分の用意って、なにをしたらいいんだろう。学校の旅行の時は、なにを持っていったんだっけ。旅のしおり?
あまりに旅行に縁がなさ過ぎて、なにを用意していいかもわからない。
とりあえず部屋に戻っていつも使っているリュックに着替えを詰め、スマホの充電器を入れて、思いつくものは終わってしまった。
そもそもどこになにをしに行くのかもわからないから、なにが必要なのかわからない。もしかして、アズサさんの家? でもそれだったら別に学校を休まなくてもいいだろうし。
そういえばファッションショーの時にどこか行こうという話をしていたけど、もしかしてそれだろうか。
アズサさんに聞くにしても、なにから聞いたらいいんだろう。どこに? どうして? なにをしに? そもそもアズサさんは今どこに?
「電話じゃないってことは、電話しても出られないってことかな」
この時間に連絡があったってことは、普通にいったら仕事中だよな。じゃあやっぱりメッセージを入れておいた方がいいのか。だから、なんて聞く?
どこから質問しようか考えながらスマホの画面を睨みつけていたら、『昼前に着く』という必要最低限のメッセージがぽんと現れた。
どうやら今すぐではないみたいだし、忙しそうだし、洗い物でもして待ってよう。ついでに夕飯もなにか作っておかないと。
「お、もう来るって?」
「お昼前に着くって来ました」
「そっか。じゃあもうちょっと起きてよ」
「んじゃ俺も」
リビングに戻れば、食べ終わった2人が待ち構えていた。疲れてるんだろうから早く寝た方がいいのに、どうやら二人とも待っているらしい。
まあ、アズサさんに会うのも久々だしな。
とはいえ紫苑さんが言うには元々アズサさんはそこまで頻繁に帰ってきてなかったらしいけど。最近はほぼ毎日のようにいたから、みんなだってアズサさんに会えなくて寂しいはず。
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