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効能は「運命」 2

 さっきまで疲れた様子を見せていた2人は、目が覚めたのかテレビの前に移ってゲーム機を用意し始めた。どうやらそれで時間を潰すらしい。  僕も近くで見ていていいだろうか。今は空木さんがいるからヨシくんといても大丈夫だろうし。  一応ダイニングテーブルの方のイスに座って2人がゲームを始めるのを見ていたら、ソフトのパッケージに見覚えがあることに気がついた。 「あ、それこの前鈴くんが持ってきたゲーム?」 「えっ? これはす……あ、そう。そうそう。その時のやつ」  この前紫苑さんの弟さんが来た時に、ヨシくんが受け取っていたゲームの1つだ。僕が覚えていると思わなかったのか、ヨシくんは一瞬目を丸めてからすぐに肯定するように頷いた。代わりに不思議そうに首を傾げたのは向こう側のクッションに座った空木さん。 「すずくん?」 「紫苑さんの弟さんです。この前来てて。ね、ヨシくん」 「あ、あーうん。うん、そう。ゲームをね、持ってきて。ね」 「すずくん? 弟さん? あれに弟いたっけ?」 「いたらしいです」  どうやら空木さんも知らなかったらしい。ヨシくんも仲良さそうだったけど、その言い方だとあまり詳しくないんだろうか。  まあ一緒に住んでいるとはいえ、お互いの家族のことを詳しく知っていたりもしないか。この前だって僕がたまたま会っただけだし。 「鈴くん? ……あ、あーあーあー。そっか。鈴くんね。はー、来てたんだ」  眉間にしわを寄せ、腕組みをして考えていた空木さんは、すぐに思い当たったのかしきりに頷いて合点がいったように表情を和らげた。忘れてたのを思い出したとか? 「種ちゃん会ったんだ? なんか言われた?」 「えっと、ご飯が美味しいって聞いてるって。食べてくかって聞いたら忙しいからまた今度って断られちゃいました」 「ほー」 「グラタン食べたかったってめっちゃ悔しがってました」 「ほぉー」  僕の言葉にもヨシくんの付け足しにも、腕組みのままなにか感心している。もしかして普段はもっと気難しい子だったりするのだろうか。ただ空木さんはそれで納得したようで、それ以上話は広げなかった。代わりに僕を手招きする。 「せっかくだから種ちゃんやってみる? こっちおいで」 「でも僕ゲームとか全然やったことないですよ?」  テレビの正面に座っていたヨシくんを脇のソファーに追い出し手招き。興味はあったから、ヨシくんとは反対の方へ座る。  とはいえこういう文化に全然触れてこなかったからできる気がしない。 「そこに上手い人がいるから大丈夫。ほらヨシくん。種ちゃん『初めて』だって。優しく教えてあげなよ」 「……空木さん、そうやってオタクをからかうの良くないっすよ」 「ゲーム初心者にゲームの楽しみ教えてなにが悪いの。慣れてない人でも遊べるって大事な要素だと思うけど」  クッションに座るヨシくんがじとりとした目で空木さんを見ているけど、どこ吹く風のお兄さん。  身長がある分、ヨシくんが膝を抱えて座っていても大きいのがちょっと面白い。 「いたいけな青少年にいきなり正論パンチしてくんのやめてもらっていいっすか。しくしく泣きますよ俺」 「ええっと」  とりあえず2人が意外と仲がいいのはわかった。けど、会話のテンポが速すぎるのと、いまいち内容についていけずにおろおろしていると、気づいたヨシくんが自分の持っていたコントローラーをくれた。 「あーとりあえずこれ。コントローラー。ボタン、こっちの十字キーと、これとこれしか使わないんで、そんなに難しくないから」 「これと、これ?」 「そう。で、最初は操作するタイミングでそのボタンが出るから押して」  言われた通りスタートさせて、画面を見ながら指示通りのボタンを押す。するとキャラクターがジャンプしたりしゃがんだりするから、それを組み合わせて進んでいくらしい。ただまっすぐ進むんじゃなくて、迷路とパズル要素が合わさっているから一筋縄ではいかないとか。  2人にアドバイスをもらいながら仕掛けを解いて徐々に進んでいく。  学校を休んで朝から3人で大きなテレビでゲームだなんて、すごく悪いことをしている気分だ。だからこそなんだか特別な気分で楽しい。 「あ、クリアー。おめー種ちゃん」 「すっげーいいペースだけど、どう? 楽しめてる?」  一旦キリのいいところまで来たらしく、ほっと一息。  いい感じに促してもらって、悩みながらも自分で解けるようにうまくフォローしてもらったから、より一層3人でクリアした感じだ。 「ふふふ、みんなでやると楽しいですね」 「だってヨシくん」 「ぼっちに染みる言葉っすね空木さん」  なにかちょっと飲みましょうかと立ち上がってソファーを離れたタイミングで、がちゃりと鍵の開く音がした。キッチンに向かおうとした足がそちらへ向く。  迎えるより先にホールとリビングの間のスライドドアが開き、金髪が覗いた。

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