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効能は「運命」 3
「おかえりなさ……っ!?」
思った通りの相手に声をかけたけど、言い切る前にいきなり抱きつかれた。ソファーの2人からひゅーひゅー茶化す声が上がる。
「あ、アズサさん……?」
「ちょっと充電させて」
久しぶりの声を耳元で聞くとそわそわしてしまうし、その姿を2人に見られているのはなんとも気恥ずかしい。とりあえずやり場に困った手をアズサさんの背中に回してさすってみる。身長差のせいかこうやって抱きつかれているとまるで抱き枕になった気分だ。
それに、視界になんだか違和感がある。
「一応俺らもいるよー」
「だからハグで我慢してる」
気づいていないわけではなく、ちゃんと2人を認識してる上でこの行動らしい。
しばらくそうしていたアズサさんは深く息を吐いてからやっと体を起こした。そこでさっきまでの違和感の正体がわかる。
「アズサさん、髪切ったんですね」
「ん、役に合わせて」
「あー長さばっちしー」
「すげー再現度っすね。さすが」
原作者さんからお墨付き。ヨシくんも小説を読んでいるらしく、ぱっちぱっちと拍手をしている。
前も後ろも肩くらいまであった伸ばしっぱなしの金髪がばっさりと切られ、後ろ髪さっぱりの爽やかイケメンになっている。
本人はまだ慣れていないのか、短くなった毛先を摘みつつ僕を窺うように見てきた。
「巴はどう思う?」
「前もかっこよかったけど、この髪型もいいいですね」
というかぶっちゃけアズサさんならどんな髪型をしても似合いそうだけど。
そう素直な気持ちを告げたらもう一度ハグされた。
「巴はいつも可愛い」
そしてお返しみたいな褒め言葉。いや、褒められてるのかはわからないけど、ついでに頭を撫でられたからたぶんいい意味だと思う。
「俺の方が種ちゃんのこと可愛いと思ってる!」
「確かに種田くんは可愛い」
「あ、ありがとうございます……?」
なぜか2人まで乗ってきて、首を傾げつつお礼を言ってみる。すると一瞬むっとしたアズサさんが「俺が一番可愛いと思ってる」と囁いてきて、そのくすぐったさに飛びのくように離れた。なにを恥ずかしい対抗してるのか。
「で、荷物は?」
「あ、今持ってきます」
ただ離れた時にはもうしれっとした顔をしていて、言われた通り荷物を取りに部屋へ戻る。
相変わらずペースが掴めない。久しぶりでもアズサさんは全然変わってないのに、髪型が違うせいか僕の方がなんだか緊張している。
荷物と言ってもいつもと変わらないリュックを持って取って返すと、3人の会話が聞こえてきて足が緩む。
「……アズサ。種ちゃんの意思はちゃんと尊重するんだよ。ちゃんと話して、焦らないこと」
「言われなくても」
「オオカミになっちゃダメっすよ」
「それは巴次第かも」
「首輪はアズサの方に必要かもね」
「あ、空木さんウマイ」
なんとなく恥ずかしさに首輪をいじった。まだ慣れない、アズサさんからもらった首輪。
とりあえず若干大きな音を立ててリビングと廊下の間のドアを開けると、アズサさんがこちらを振り返る。
「ん」
こちらに向けて手を出されて、なにかと思ったらリュックを取られた。そして空いた手を繋ぐ。
「わ、あ、アズサさん」
「じゃあ、巴借りてくから」
ナチュラルに手を繋がれ慌てる僕をよそに、アズサさんはそのまま歩き出した。
「夕飯は適当に出前でも取るから気にしないで」
「そうそう。寿司でも取るよ、紫髪のお財布がいるし。だから楽しんできて」
今すやすや眠っているだろう人をさらりと財布扱いする2人は、たぶんこれから睡眠に入るんだろう。
妙にほがらかな笑顔に見送られ、家の前に停められていた車に乗り込んだ。紫苑さんが乗って来たような派手な車じゃなくて良かった。というかアズサさん運転できるのか。本当になんでもできる人だな。
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