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効能は「運命」 4

「荷物後ろに放っておいて。寝たかったら寝ていいから」  運転するからか、この前とは違う薄いグレーのサングラスをして、スムーズに発進するアズサさん。普段も目立つけど、サングラスをすると余計芸能人感が強くなる。  しかも髪は短いし久しぶりだし車の助手席だしと緊張する要素がいっぱいだ。 「大学、休ませて悪かった。どうしても今しか時間取れなくて」 「大丈夫です。びっくりはしましたけど」 「体調、悪くなさそうで安心した。それ、してくれてるんだ?」  走り出して少しして、アズサさんが口を開いた。  ちらりとした視線で示されたのは、僕の首元にあるグレーの首輪。 「あ、そうだ。これ、ありがとうございました。僕、こういうの全然思いつかなくて」 「俺の代わりのお守り」  大きな表情の変化はなくとも、口元がちょっとだけ微笑んでいる辺り満足げな様子が見て取れる。  ただ、横から見ると首元がすっきりしている分、元々小顔のアズサさんが余計引き締まったように見えた。 「アズサさん、最近すごく忙しそうですね。ちょっと痩せました?」 「あー、正直忙しい」  僕と違う意味で首元に違和感があるらしいアズサさんは、首筋を撫でて小さく息を吐く。 「普段の仕事と、今ずっと映画撮ってて、それ関連の仕事も増えてるし、あとセンパの仕事も」 「あ、千波さんの」  確かあの後千波さんのブランドである「センパ」が、アズサさんをイメージモデルとした「泥沼」というシリーズを新たに作るという発表があった。  アズサさんがモデルとなって服を着るというよりか、シリーズすべての服がアズサさんをイメージして作られるらしい。すごい話だ。あの時千波さんがアズサさんを見てなにを感じたのかはわからないけれど、それだけ大きなプロジェクトを動かすんだからよほどの影響だったんだろう。  ただそのシリーズ名からして、課金がはかどってしまわないかが少し心配ではある。 「そうだ。主演おめでとうございます。映画、すごいですね。けど、ちょっと意外でした」  首輪のお礼も言っていなかったし、映画のこともお祝いしてなかった。少し会わない間に言いたいことがたくさん溜まっている。  久々に会うアズサさんは変わらずかっこよくて、僕の気持ちの変化もあってどうしても緊張してしまうけど。運転中のアズサさんは前を向いたままだから、視線が飛んでこなくてだいぶ喋りやすい。  それにしても、高速に乗ってどこに行くんだろう。あまり遠いと1泊2日じゃ帰って来れないだろうから、そこまで遠方ではないとは思うけど、どうだろう。 「うん、俺も意外だった。演技仕事、巴が言ってくれなきゃ断ってた」 「この前言ってた苦手なことって、やっぱり演技のことですか?」 「そ。モデルしかやってこなかったし、いきなり主演の話持ってこられても、違うんじゃないかって思ってた」  アズサさんも運転の方に意識を向けているからか、いつもより素直で饒舌な気がする。 「でも、巴がすごく熱心に映画見てる姿を横で見て、そういうのいいなって思って。挑戦してみることにした。せっかく俺にって来たオファーだし」  アズサさんってやればなんでもできるわりに、自分は顔だけみたいな変な謙遜をするところがあるから、こういう挑戦はポジティブでとてもいい感じだ。  人のことなのになんだか嬉しくて、にこにこしながらその横顔を眺めていたら、ちらりとこちらを見た視線とかち合った。 「……巴ってさ、俺の写真集のイベント、来てたよね?」 「お、覚えてるんですか、そんな昔のこと。ていうか気づいてたんですか」  気を抜いていたタイミングを突くように、アズサさんは突然最初の出会いを口にする。  こちらは当然覚えていたことでも、アズサさんからしたら大勢のうちの一人だ。気づいていないだろうし、覚えてるはずないと思っていたのに。 「ん、だから巴って、俺のファンなんだと思ってた」 「あれはいとこに頼まれたんです。行けないから代わりに行ってって」 「……だから名前違ったのか」  サインをもらったのもいとこの名前。だから当然僕の名前ではないわけで、それも認識してるって……一体アズサさんはいつから僕を僕として認識していたんだ?

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