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ターニングポイントは凸然に 3
「俺らは友達だよ種ちゃん」
「俺も友達いないっすけど、種田くんは友達だと思ってるから」
そしてこちらはこちらでなんだか慰められている。
様子を窺っていた2人となんとなく友達の握手をしてから、今電話していたスマホを見てふと首を傾げる。
なんで棗さんが週刊誌の内容を知っていて、電話をかけてきたんだろう。
「……あの、棗さんはアズサさんの事務所の方なんですか?」
「あれ、知らないんだっけ?」
シェアハウスの管理をしていて、仕事は秘書だとは聞いている。けれどアズサさんの仕事まで関わっているんだろうかという疑問に、空木さんがまばたきを繰り返して驚いた顔をした。
「棗さんは、アズサの所属している事務所とかを束ねている会社のボスの秘書だよ」
「え?」
「ちなみに俺の所属してる事務所もそのグループ」
「うちの出版社は提携って形だったかな? アレのホストクラブも傘下だし、柾さんの働いてるホテルも、別の部門だけど同じグループだよ」
「……すごい人なんですね、棗さん」
なんとなくやり手の人だとは思っていたけれど、規模が違った。そんなに偉い人なのか。仕事のできるお兄さんくらいにしか思っていなかった自分の見る目のなさにため息をつく。
すると空木さんもヨシくんも一緒にため息を洩らした。
「すごい人だけど面倒見がいいと言うか世話焼き体質すぎて俺らみたいのを放っておけなかったから、忙しいのにしょっちゅうここに来てたんだよね。いいって何回も言ったんだけど心配だからって」
「だから種田くんが来てくれて本当に助かったんだと思う。……俺らが言うのもなんだけど、それは本当に」
「それって、みなさんがそれだけ大事にされてるってことですよね」
なんでこのシェアハウスに別々の職種の才能ある人たちが集まっているのかと思っていたけれど、ある意味会社の寮みたいなものなのか。なんだかすごく納得できた。
「種ちゃんは本当にいい子」
思ったことを素直に伝えただけなのにしみじみと言われてハグされた。空木さんは僕のことを赤ちゃんだと思っている傾向がある。
「ていうか種ちゃんも大事にされてるんだよ。棗さんが直で電話かけてきてるんだし」
それはアズサさんの話だったからだろうし、それだけ大事なことだったからだとは思うけど。
そう思うと、余計今回のことにへこむ。せっかく棗さんが僕のことをここに使ってくれたのに、迷惑をかける一端になってしまった。
「とりあえずまあアズサのスキャンダルは初めてじゃないし、しばらくすれば世の中は飽きるし忘れるから。棗さんが怒ってなかったなら大丈夫だよきっと」
「そういえば前の時もここに来た記者っぽい人たちいましたよね。相手の女性はここに来たことがあるのかとか会ったことがあるかとか、ついてきて聞かれたっけ。ちょっと睨んだだけですぐに逃げたけど」
「まあ種ちゃんが相手だとバレるとちょっと面倒かもね」
「僕どうしたら……」
どうやら2人は対応に慣れているようだけど、僕としてはうろたえるばかり。とりあえず棗さんが言った通りにするけれど、そこまで落ち着けない。
「まあ、大学に行くときはせめて駅まで誰かついていって……ね?」
「俺っすか。いや、いいですけど」
「で、帰りは車持ってんのに迎えに行かせればいいか」
「いえあのそんな迷惑は……」
「ああいうのはね、恐い人が傍についてると逃げるけど、少しでも弱みを見せるとズケズケ来るもんなんだよ。種ちゃん明らかに狙いどころだし、普通に危ないからね」
「そうそう。外にいたの、明らかにその手のタイプだったし種田くんたぶん目つけられてる」
「嫌だったらタクシーで行き来しな。払いは全部アズサにさせればいいよ。目立ったのはアズサなんだから」
実を言うと元々かぶっていたキャップを僕にかぶせたせいで金髪がむき出しになったのだし、その経緯は僕がヨシくんのグッズをかぶっていたからで。説明の難しい事態を上手く話せる気がしなくて、首を振ることしかできない。
ヨシくんや紫苑さんにもそんなに迷惑をかけるわけにはいかないけど、そうしないとかかる迷惑もあるわけで。落ち着いて対処するのはさすがに難しい。
さすがに今の今で、1人で対処できますと言えるほど無謀ではない。
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