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第3話 仕方がない

 有希也は昨日のソファに誰かが座っていたらいいのにと思った。    そうすれば、ガラス張りの壁全面が見える場所を探す事ができる。  どこの誰かも知らない、たまたま目に入ってそして見惚れた男をまた見たいという、有希也にとっては前代未聞の行動は、誰にも気づかれず密やかに行いたかった。  だが、たとえ有希也がどこに座ろうと、そんな事を一体誰が気にするのだろうと、自嘲した。  エレベーターが28階に止まり、有希也はフロアーにやってきた。  今日は昨日と打って変わり晴天だった。  週末という事もあり、いつもより人が多くいた。  有希也の望んだとおり、いつも座っていたあのソファには女性二人が楽しそうにおしゃべりをしている姿があった。  男はまだ喫煙室には来ていない。  有希也は周りを見渡し、遠目でも喫煙室のガラス張りの壁全面が見えるソファを探した。    結局、その日は有希也の休憩中に男が姿を現すことはなかった。  一昨日や昨日は、たまたまだったかもしれない。  オフィスビルの中の喫煙所。  二日連続で商談に来ていたのかもしれない。     普通にあり得る話だ。  あの男にはもう二度と会う事はないだろう。  急に漠然とした淋しさが有希也の胸を占めていった。  たまたまあの時に出会えただけの事。  仕方がない。

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