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第10話 35歳のオジサン?
有希也は早速、大学時代の連れ何人かに連絡をした。それぞれが社会人となり、日々忙しくしているが、久しぶりということもあり、二人と今週末に居酒屋で飲む事になった。
飲み会の時に、香水をつけているのを気づいてもらえるように、午後の時間のどこかであらためて付ける必要があるなと、まだ先の話しではあるが有希也は考えていた。
連れとの飲み会までは、まだ数日ある。
男友達の香水の感想を持ち合わせていなくても、いつもの15時の休憩の時に、巽はわざわざ話しかけにきてくれるのか。
有希也とただのたわいもない雑談をすることを巽はどう思うだろう。
喫煙室の中であれば、もっと気さくに話しができたかもしれないと思った。
(この歳で、タバコデビューもなぁ…)
数日後。
有希也はいつもと変わらず、15時になるとエレベーターに乗って、28階に行こうとしていた。途中20階で止まって、この間みたいに巽が乗り込んでこないかと淡い期待もしたが、何事もなくあっさりと到着した。
ラウンジのソファのレイアウトが変わっていた。
窓から少し離して置かれている。景色を見る人のためか、清掃の加減なのか、定期的に置き場が変わっていることに気付かされた。
喫煙室に巽の姿はなかった。
巽が来たとしても、有希也に声をかけてくれるかはあやしい。じゃあまたは、あくまでも社交辞令みたいなものだと思っていた。
そして連れの感想を聞けたとして、巽にどう声をかけようかと考えていた。
「何かお悩みがあるのかな」
不意に後ろから声をかけられ、頭を軽くポンと叩かれた。
巽だった。
有希也は巽の登場には驚かされてばかりだと思った。
「なんか、真剣な顔してたから。よかったら、35歳のオジサンが相談にのるけど」
驚きと嬉しさと戸惑いと少しのすまなさの、ない交ぜ状態になった有希也はまず挨拶をした。
「33歳の巽さん、お疲れ様です」
「お疲れ」
と片眉を上げて言うと、有希也の横に座った。
「仕事忙しいの?」
さすがに本人を前にして、声の掛け方を考えていましたとは言えなかった。
「今の季節は特に色々あって」
と誤魔化した。
「ところで、有希也君は何の仕事に就いているの?女性が多いって言ってたけど」
「人材派遣の会社です。そこで人材の登録や顧客のデータ管理業務です」
「そうなんだ。じゃあ内勤なんだね」
「たまに打ち合わせで出る事もありますが、ほぼ、オフィスでパソコンに向かってます。巽さんは?」
「俺は半分半分かな。特に販路拡大みたいな営業職ではないからね」
有希也が望んでいた、たわいもない会話が続いた。
「あっ、昨日巽さんが言ってた香水の男性の感想ですけど、今週末に大学時代の友達何人かとと久々に会う事になって、その時に聞いてみますね」
「ありがとう。助かるよ。でも面倒かけたんじゃない?」
「いえ、いいきっかけをもらったくらいです。いつでも会えると思いながら、もう一年も会ってなかったんだなって、電話で話してて」
「そっか。じゃあ、その感想、是非聞かせてよ。待ってるから」
と言って立ち上がりかけた巽に有希也は
「あの、巽さん。今度、メシ行きませんか?」
何かが、有希也の背中を押した。
「あぁ、いいね。行こうよ」
迷う事なく、巽は即答した。
「じゃあ、その友達の飲み会の後がいいね。ゆっくり感想を聞かせてもらおうかな」
巽はそう言うと、スマホを出した。
「連絡先交換してもいい?」
携帯の番号を交換した後、更に巽は
「店は俺が決めてもいいかな?」
「いいんですか?ありがとうございます。俺から誘ったのに」
「いいよ、エスコートするよ。35歳だからね。また連絡するよ」
巽は軽く笑いながら、喫煙室へ向かった。
有希也は『じゃあまた』から『連絡するよ』に代わったことがたまらなく嬉しかった。
先延ばしにしていた仕事を今日中に片付けようと意気込んだ。
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