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第15話 有希也への下心?
水平線を見てた時に言ったあの言葉、『潮の香りがすると今日の事を思い出すのかな』なんて、よくもあんな事が言えたもんだと、有希也は思い出す度に首を横に振っていた。
キラキラ輝く海と心地よい潮風が俺にそうさせたんだ、海は偉大だと、自嘲気味に笑った。
(俺はいつから詩人になったんだ)
「お待たせ」
久瀬元が声をかけてきた。
「ううん。俺も今来た」
先日の男7人の飲み会で、久瀬元が転職をして、勤務先が有希也の会社のすぐ近くということがわかり、昼食の約束をしていた。
「皆んなと会ってから海に行きたくなってさ、この間、海に行ってきたんだ」
「例の彼女と、か?」
「違うよ。別のひとだよ」
「橋本、お前いつからそんなモテるようになったんだ」
「俺は前からモテてたよ」
「嘘つけ」
二人は笑いながら定食屋に入った。
「で、何本潜った?」
「いや、ただ海を見てました」
「はぁ? 潜ってないの?」
「だからさ、また皆んなで行きたいなと思ってさ」
「そうだよなぁ…あの時は週一くらいで行ってたもんなぁ」
唐揚げ定食を食べながら、二人のダイビング話しは尽きることがなかった。
「さっきの店美味かったな」
久瀬元は満足そうに言った。
「だろ?」
「ここら辺、まだよくわからんから、また教えてくれよ」
「了解。じゃまた」
一年以上振りに会っても、毎日会ってるような感覚で話せる友達はやっぱりいいものだと、有希也はしみじみ思った。
有希也は横断歩道を渡って、会社のあるビルの方へ向かった。歩道を歩いていると
「有希也君」
と、後ろから声をかけられたが、誰だか直ぐにわかった。この辺りで『有希也君』と呼ぶのは巽だけだ。
有希也は直ぐに振り向き、
「あっ巽さん、お疲れ様です。この間はありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったよ」
巽に会うのは海以来だった。
「昼飯に行ってたの?」
「はい。この間のダイビング仲間の一人と。そいつの職場が近いことがわかって」
「そうなんだ。俺は社に戻って、それからだよ」
二人並んでしばらく歩いた。
有希也はもう一度、海へ行った時のお礼を言った。
巽は車を出してくれたばかりか、食事代まで出してくれた。
会社があるビルの付近までくると、前方から白髪混じりで銀縁のメガネをかけ、いかにも神経質そうな男が歩いてきた。その男は二人をじっと見ると、わざと有希也の横をすれ違った。
そして振り向き様
「おい、巽。俺の腕をお前の下心を満足させるために利用するんじゃねぇよ。」
周りも聞こえるくらいの声で言い放った。
「ちょっと、宮さん」
巽は呆れた様子でそう言うと、振り返りもせずにとっとと行ってしまったその男の後姿に溜め息をついた。
(?…今、下心って言ったよな)
「ごめん。今の、うちの社の人間なんだ」
としても、何故巽にあんな事を言ったのか有希也は疑問に思った。
「しかも調香師でさ、有希也君の香水を作った人なんだ」
「えぇっ!?」
有希也の声で周りの人の視線を集める事になった。
慌てて両手で口を塞いだ。
「うぅん…まぁ、その、下心って気になるワードもあったと思うんだけど。ごめん、今時間なくてその意味の説明が出来ないんだ。今日の夜、予定空いてたら時間もらえるかな」
「いい…ですよ」
「じゃあ、遅めなんだけど19時にここでいい?」
「わかりました」
「俺、ちょっとコンビニに寄ってくから」
巽はまたビルの外へ行き、有希也は一人でエレベーターに乗り込んだ。
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