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第32話 日焼け止め追加で

 翌日。  有希也は『SATH』に行った。  その日は週末で、いつも以上に高校生やそれ以上の年齢の男達で店内は賑わっていた。  入り口近くで陽彦が品出しをしているのを見つけた。   「ハル君 こんばんわ」  有希也は挨拶した。  陽彦は有希也をチラッと見ると、無言で会釈した。 「忙しいとこごめん。健留君いるかな」 「あぁ。今休憩中で」 「そっか。この間もらった日焼け止めなんだけど」  と言った後ろから有希也を呼ぶ健留の声がした。 「ごめん。休憩中だったね」 「いや。これ買いに行ってただけだから」  と言って2本のペットボトルを見せ、1本を陽彦に渡した。  陽彦は店内に戻って行った。  有希也は陽彦には良く思われていないなと思った。忙しい時間帯ばかりくる自分を疎んでいるのだろうと。  健留に促されて店内に入った。 「ひょっとして、今日も日焼け止めのお買い上げ?」 「当たり」 「うわっ、マジか。有希也君の会社に出張サービスに行こうかな、爆売れしそうだな」 「本当はさ、この店を伝えて自分で買いに行ってもらおうとも思ったんだけどね。健留君の店への思いを聞いたら、騒がしい女子が行くのもなぁと思って、俺が買い出しに来ました」 「もう、有希也君めっちゃいい奴じゃん。巽さんが惚れるわけだ」  健留は有希也の肩を揉んだ 「あっ、巽さんから宜しく言っといてって」 「はぁい。承りました。なんか有希也君て会う度、いい感じになってるな。愛の力か?」 「もう、やめてよ。忙しそうだから買ったら直ぐ帰るよ」  有希也は日焼け止め3本頼んだ。 「毎度あり、今後ともご贔屓に」  陽気に言う健留の後にいた陽彦の冷めた視線に気づいた。    「ありがとう。じゃまた」  有希也はしばらくここに来るのは控えようと思った。  週明けの朝。  健留から、どうしても相談したい事があるから今夜時間をとってほしいと連絡がきた。  昨日の夜遅くに巽から出張から戻ったと連絡があった。土日の休日出張であったため、今日は午前中出勤し、午後から休みをとるらしい。  明日は祝日ということもあり、おそらく有希也の仕事が終わる頃に迎えに来るだろう。  切羽詰まった様子の健留を思うと、無下に断るのもと困った。    朝から頭を悩まされる事になった。  有希也は昼前に、SNSで健留に仕事の都合で返事はもう少し待ってと連絡した。  健留を優先したとしても、相談内容もわからない状況では、巽になんて言えばいいのか、嫉妬はしないと言ってくれたから、尚更疑われるような事はしたくない。  巽は昼過ぎには帰る事になっている。  その時、スマホが鳴った。  巽からだった。 (何て言おう…) 「もしもし巽さん。お疲れ様でした出張」   (有希也、ありがとう。実はさっきウチの会社にハル君が来たんだよ。ちょっと深刻な感じでさ、で今晩有希也と会いたかったんだけど、ハル君の相談にのらないといけなくなって) 「巽さん。実は俺も今朝、健留君からどうしても相談したい事があるって言われてるんだ」 (なんなんだよ、二人揃ってか。有希也は健留君の相談にのってあげて、もう嫉妬はしないから、じゃあまた明日にでも会おう) 「うん、わかった。俺も嫉妬しないよ」  電話口の向こうで巽は笑っていた。  有希也は巽との通話を切ったあと、健留にSNSで大丈夫、と連絡した。  店の閉店時間は21時と聞いていた。  時間を潰すには長過ぎる為、一旦家に帰って出直すことに決めた。

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