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第34話 有希也君ありがとう

一旦家に帰った有希也は、健留には申し訳ないが、出掛けるのが面倒に思った。  明日が休みでよかったと、つくづく思った。  有希也は健留の店のビルの外で待った。  陽彦と会うのは避けたいと思った。  そしてあの冷めた目を思い出した。 「ごめんな、急に呼び出して」  明らかにいつもの健留ではないと直ぐわかった。 「ここのビル、地下の店はまだやってるけど、他行ってもいい」 「いいよ、そうしよう。どこかある?」  健留は近くの焼き鳥屋に有希也を連れた。  生中、二つと、焼き鳥は定番盛りを注文すると、昨日の夜さ、と健留は話し始めた。 「ハルが店を辞めるって言ってきたんだ」  有希也は、陽彦が巽に相談するのはこの事だったんだと思った。  健留はこの事を知っているのかは、定かでは無い為、有希也は言わないでいた。 「で、理由はちゃんと聞いた?」  健留は首を振った。 「最近、ハルが何考えてんのかわからないんだ。何回も聞いても、ちゃんと答えてくれないし、ただもう終わりだって。終わりって別れる事か?」    健留は悲壮な顔で有希也に言った。 「なぁ、有希也君がハルに聞いてもらうってのだめかな」 「だめだよ」  有希也は即答した。 「二人の事は、時間をかけても二人で話し合うべきだよ」 「いいよな、有希也君は」  有希也は健留の顔を見た。 「巽さんは大人だし、こんなわけわからんことで悩む事もないんだろ」 「健留君のそういうとこだと思うよ、ハル君がいいたいのは」  健留は有希也を睨んだ。 「なんだよ。俺だけが何もわからんバカかよ」 「誰もそんな事を言ってないだろ」  二人は黙った。  建留は生中のおかわりを頼んだ。    沈黙の後、有希也から話し始めた。 「事情で店を辞めたとしても別れるって事あるのかな。焦らないでゆっくりハル君の話し聞いてあげないと。ハル君も何か言いたい事があっても言えないんじゃないかな」 「ハルが店も辞めて、俺から離れるなんてこと考えられないし、絶対にそんなの受け入れられるか」  健留は二杯目の生中を一気飲みした。 「じゃあ、冷静になって、ハル君にその気持ち伝えたら?カッコつけずに、ちゃんと素直に向き合ってさ」 「そうだよな。なんか店オープンしてからずっとバタバタしてたもんな。ちゃんと向き合ってなかったもんな…最近キスもしてなかったもんな」  健留は串でお通しの山芋の短冊を突き刺して食べた。 「やっぱり、よかったよ、有希也君がいてくれて。世の中マイノリティだの、LGBTQだの言ってるけど、身近に同性の恋人の相談出来る人って、そうそういないもんな。これからもよろしくな。有希也君」 「健留君、酔ってる?」  「酔っ払って、寝て起きたら、ハルとの別れ話しは嘘でしたなんて事にならないかな」 「まだ、別れたわけじゃないんだから」 「そうだよなぁ。でもハルどこ行ったんだろ。今日はハルが早上がりの日でさぁ…何にも言わずにさっさと帰ってさ」  健留は有希也の肩を組んで 「あぁ、淋しいなぁ。有希也君、俺を慰めてくれよ」 「バカ、何言ってんだよ。明日ハル君とちゃんと話しするんだよ」 「了解しました」 「さぁ。もう、帰ろ」  有希也が会計を済まして、健留をタクシー乗り場まで連れて行った。

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