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第35話 巽の嫉妬、再び

 有希也は、健留から話しを聞いた後、巽と陽彦がどんな話しをしていたのか気になった。  それぞれがペアを別れて同じ時間帯に話しをしたことが、抱えている問題の解決の糸口になればいいと思った。  ポケットのスマホが鳴った。  巽からだった。 「巽さん?こんばんわ」 (有希也?今どこ?)  巽にしては珍しく拙速な言い方だった。 「さっきまで、健留君と焼き鳥屋にいて、健留君なんか酔っ払ったみたいで、タクシー乗り場に送って、今、駅前にいるよ」 (俺も近くにいるんだけど、今から会えないかな)  有希也は自分がいる場所を伝えて通話を切った。  10分もかからないうちに巽が来た。 「ごめん、急に。ちょっと込み入った事があってね。今からうちに来ない?」  初めて、家へ誘われた。  巽の言う込み入った事というのは陽彦の話しだろうと思った。が、うちでしか話せないことなのか、それとも話し以外の事もあるのか、少し考えたが、すぐに、いいよと答えた。  巽は有希也が一瞬迷いを見せたのには気付いたが、拒んでいるのではないと思った。  駅の側でまだ開いているリカーショップを見つけた。 「ワイン買って帰ろうかな。有希也はワインはどう?」 「白はたまに飲むかな」 「俺はいつも赤でね。今日は赤飲んでみない?」 「うん。飲んでみようかな」  有希也は巽と会えて、やっぱり楽しくなっていた。  巽は手頃な価格のミディアムボディを1本選んだ。  巽の自宅は4階建のマンションにあった。  玄関を開けると、ふわっといい香りがした。   有希也は自分が付けている香水とどこか似ていると思った。 「いい香り。なんか俺が付けているのと似てるような…」 「よくわかったね。ベースの精油が同じだからね」  そう言って、有希也を部屋の奥に招いた。  リビングとキッチン、もう一部屋はおそらく寝室。窓際のフロアライト、落ち着いた色目の大きめのソファ。有希也はなんとなく想像した通りの部屋に、やっぱりなと思った。  巽はワイングラスを用意して、早速ボトルを開けようとしていた。手慣れた様子でオープナーのスクリューをコルク栓に入れた。  有希也はじっとその手元を見つめていた。  軽い音がしてコルク詮が開くと、有希也のグラスにゆっくりとワインが注がれた。 「じゃあ、乾杯」 有希也は一口飲んで、意外な顔をした。 「なんか、赤ってもっと渋みがあると思ってた。」  巽はミディアムボディを選択してよかったと思った。が、本当なら、有希也の好みの白を選ぶところを、敢えて自分に合わさせようとした心根はまた嫉妬からくるものと、わかっていた。 「有希也。聞きたいんだけど」  巽は真剣だった。 「なぁ、有希也。俺達の、お互いへの認識を確認したいんだけど。俺らは恋人同士、だよな?」  そう言って、巽はワインを飲み干した。  有希也は、真剣な巽の顔を見ると、照れてる場合じゃないと思い、直ぐに返した。 「そうだよ」  巽は有希也を強く抱きしめた。  有希也は巽に何があったのかはわからないが、抱きしめた巽の力強さに幸せを実感した。  胸の中の熱いものが、それから先の言葉の邪魔をした。  ワイン味のキスの後、有希也は巽が話した込み入った事とは、あの扉の向こうの寝室での事になるのかと考えていた。  すると、少し落ち着いた巽が 「今日電話で言った通り昼休憩の時間に、ハル君がうちの会社に来てさ、『SATH』を辞めるから自分の代わりに誰か働ける人が俺の知り合いにいないかって。それと、健留君と別れたいそうだよ」    と、有希也と健留の間違った関係性以外のやりとりを話した。 「そんなことがあったんだ。健留君も昨日急にハル君に店を辞めるって言われて困惑してたよ。いくら理由を聞いてもハル君は話してくれないんだって」  有希也はグラスに残っていたワインを飲んだ。 「ゆっくり時間をかけて話し合ったらって言ったけど、健留君には話してくれないから、代わりに俺にハル君から話しを聞いてほしいって言われて、さすがに断ったけどね」  巽はいずれは有希也もわかる事と思い、陽彦が別れることを決めた一番の理由を話した。  有希也の表情は見る見る変わり、言葉を失った。    そして陽彦の冷めた視線の意味がわかった。  自分の存在が別れたい原因だっと思いも寄らない事実に有希也は困惑した。  しばらく沈黙が続いた。  有希也は、巽のさっきの恋人確認もこれが関係しているのかと理解した。 「巽さん、俺どうしたらいいんだろ。俺のどこがいけなかったんだろ。ほんとに、ただしゃべって、2回ご飯行っただけなのに」    空のグラスを見つめながら有希也は心底困っていた。 「まぁ、それだけだったら、まだよかったんだろうけどね」  巽は嫉妬心が混ざった意味深な言い方をした。 「ハル君が言うには、有希也を見かける度に、有希也は幸せオーラ全開で、いつもニコニコしてて楽しそうで、艶っぽくて色っぽくなっていってたってさ」  有希也は、嫉妬はしないと言ったのに突き放すような言い方をする巽を睨んだ。 「じゃあ言わしてもらうけど、それって…」  有希也はそっぽを向いて言った。 「それって、全部巽さんのせいでしょ」  (巽さんもわかってるくせに…)  巽はそっぽを向いた有希也を抱えて自分の脚の間に座らせた。 「本当にそう思っていいの?俺のせいで有希也は幸せそうで艶っぽくて色っぽくなったの?」 「本当なんだから…」  巽は背後から有希也を抱きしめた。 「わかっているのに…有希也の事になると俺はこんなにも動揺してしまう。その度に有希也を悲しませて…ごめんな」  有希也は巽の腕を強く掴んだ。 「ハル君が言うように俺がそうなっているのなら、巽さんが変えたんだよ…」 「じゃあ、もっと、有希也を変えたい。もっと有希也に触れて、俺だけのものにしたい。なぁ、有希也。もう少し先に進んでもいいか?」  有希也は巽の熱情にコクリと頷いて応えた。  巽は有希也を抱きかかえると、隣の寝室に入り、そっとベッドへ下ろした。  巽は有希也に覆い被さると、シャツのボタンを外しながら首すじを舌でなぞった。  有希也はビジホで初めて巽に触れられた時の事を思い出していた。  あの時も抱きかかえられてベッドに下ろされ、ボタンを一つ一つゆっくりと外され首すじや胸にキスをされて。  それ以上、有希也の追想は続かなかった。  巽の手が有希也の股間に触れ、そして優しく握る。  有希也はあっと小さな声を出した。 巽はその声すら逃さないよう、有希也の唇を覆った。  有希也の背中と巽の胸が密着する横向きの体勢になり、後ろからの巽の手の動きが早くなっていった。  有希也はシーツを固く掴んで、声を押し殺そうとしていた。   「あっ…たつみさん…あぁ」 「いいよ有希也、俺の手のなかで射って」  巽が耳元で囁くと、有希也は顎を上げ仰け反りながら射精した。  有希也の肩にキスをしてから、ティッシュの箱を引き寄せた。 「俺の有希也…」

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