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第39話 F大作戦

 有希也は巽との仲が深まるにつれ、いつも巽の愛の行為を受け入れているだけの自分に気付き始めた。  巽は有希也を求めるが、有希也には求めない。  有希也から巽にしたのは、健留との関係に巽が嫉妬し、それに泣いて怒りながらしたキスくらいだった。他には覚えがなかった。  巽は有希也からするのを待っているのか、それとも、そもそもされるのは好まないのか。    巽に愛されている時、有希也は当然熱く硬くなる。そして巽もそうなっている。  有希也はまだ直接触れた事はないが、体を密着させると有希也の腰や臀部に熱く硬い感触がある。  巽はいつも突然だった。  抱きしめるのも、キスをするのも。  そして抗う事なく有希也はいつも受け入れて、果ててしまっていた。  今まで思いもつかなかった。  有希也を射かせた後、巽の性欲はどこにいってるのだろう。  巽が有希也を求めたように、今なら有希也も巽に触れたいと思える。巽を感じて、行方不明の性欲を昇華させたいと思った。  有希也は巽によかったよと言わせたい、そしてよかったでしょう?と言ってみたいと思った。  決行は今週末。場所は巽のベッド。  行動内容は手または口を駆使して巽を射かせる。  有希也はまず土曜日か日曜日か具体的な日にちの設定から始めた。 「巽さん。今週末どうしてる?」  15時の休憩デート中、有希也は聞いてみた。 「前に出張で行った香りのイベントが今週末に開催されるんだよ。俺は土曜日に行って、神崎が日曜日って決まったから、土曜日の夕方には帰ってるけど。土曜日うち来る?」 「うん。そうする」  何の感情もなく即答する有希也の顔を、巽は横目で見た。 「じゃあ、土曜日ね。だいたいの時間がわかったら連絡して。忘れないでよ」  そう言うと、さっさとオフィスに戻っていった。  巽はその後ろ姿を見送った。  有希也の今日の様子には何か違和感があった。  巽の家で過ごすという事は、愛し合うことを意味していた。  有希也は今まで誘われると拒みはしなかったが、さっきの様に誘いに対して拙速した返事をする事はなかった。たいがい、少し恥ずかしそうにする。  俺の気にし過ぎなのか、と思い直し喫煙室へ向かった。     有希也はといえば、慣れない目的を持って行動すると、いつものなんの変哲もない事でも緊張してぎこちなくなるものだと思った。  日程と場所され決まれば、その後の行動は頭の中でのシミュレーションを繰り返せばなんとかなる、と意気込んだ。  土曜日の昼過ぎに巽から連絡があった。  巽はイベント後に一旦会社に戻るため、会社のあるビル一階で18時に待ち合わせをして、食事の後、巽の家へ行くことになった。  土曜日の夕暮れのオフィスビルはいつもより人が少なかった。  有希也は何処にも寄らず、早目に待ち合わせ場所に着いた。      ビルのエントランスを通り抜け、エレベーターが3基あるホールの対面の壁にもたれて待った。  静かなホールに時折りエレベーターの到着を知らせるポーンという音が響く。  巽は3基あるうちのどのエレベーターから降りてくるのだろうと、有希也は当てもない占いじみた事を考えた。  もし巽が1号基から降りてきたら、今晩の目的遂行への手段は口で行う。2号基ならば指で。そして3号基なら、と考えていると何度目かの到着音がホールに響いた。  1号基から巽が後輩らしき男と一緒に降りてきた。  有希也は勝手なエレベーター占いの結果を想像し、巽の顔を見るのが恥ずかしくなった。  後輩と別れて有希也に向かってくる巽に、上目遣いでお疲れ様と言うのがやっとだった。 「お待たせ。…どうした?」    聞かれた有希也は慌てて首を横に振った。  巽は少しニヤついて、有希也の顔をじっと見た。 「なっ…何?」 「今、頭の中で、俺とキスしてただろ」   巽は有希也に否定する暇も与えず、覆い被さるようにして、キスをした。  有希也は巽は本当にいつも突然だと思った。  巽の事だから周りには誰もいないことを確認して、ついでに防犯カメラにも背を向けているはずだと思い、有希也も少しだけ大胆に巽の唇を吸った。   「何、食べに行こうか?」  巽が聞いてきた。 「あの店、夜もやってるかな」  この辺りで有名なカレー屋。  昼食時は長蛇の列で、昼休みの時間だけではゆっくり並ぶ事ができず、なかなか入る機会がなかった。 「あぁすぐそこだし、行ってみようか」   巽も賛成した。  そして、歩きながら有希也の肩に手を回し、耳元に顔を寄せて小声で聞いてきた。 「さっきさ、俺が来るまで何想像してたの?」 「教えない…。」 (もう、キスしたからいいでしょ) 「ふぅん、仕方ないな。カレー食ったらさっさと家に帰って、丸裸にして、問い詰めるか」 「…変態」  巽は有希也にお得意のベッドロックを仕掛けた。  家に帰る前に、有希也好みの白ワインを買った。  家に着くと、巽は上着とネクタイをソファに放り投げ、ワインを冷やそうとキッチンに立った。  その様子を見ていた有希也は、冷蔵庫を開けようとした巽の手を掴んだ。    急に掴まれた巽は、どうしたと言わんばかりに有希也の顔を見た。  「こっちに来て」  有希也は掴んだその手を離す事なく、巽を寝室に連れて行った。  巽は唐突で不自然ではあったが何も言わず有希也に従った。  有希也はいきなり巽の首に手を回してキスをした。  そして、巽のズボンのベルトとボタンを外しファスナーを下げた。 「有希也。ねぇ、どうしたの」 「お願いだから、何も言わないで」  有希也は巽のズボンと肌着を膝下まで一気に下ろすと、巽の肩を押し下げてベッドの縁に座らせた。  いきなり下半身を脱がされた巽はたいして戸惑った様子もなく、この行為の真意を測ろうと、自分の前でしゃがみかけた有希也の肩を掴んだ。 「有希也。ねぇどうしたいんだ?」 「巽さん。お願い。俺もどうしていいか分からないけど、今は俺にさせて」  有希也はそう言って巽のシャツをたくし上げて、股間でまだ下を向いている巽のモノを手に持って口に含んだ。  加減が分からず喉の奥まで入れてしまい、有希也は一瞬えずきそうになった。 「有希也…」  巽は有希也に一体何があったのかは知る由もないが、愛撫とは程遠い有希也の懸命な行為に身を任せることにした。  巽は有希也の頭を優しく撫でた。    有希也は口の中で、巽のモノが硬くなっていくのがわかると、自分の行為が巽を感じさせているんだと少し浮き立った。  そして巽がいつもしてくれているのを思い出しながら、熱く硬い巽の先端を、舌で擦り上げた。  巽はたまらず声を出した。  有希也は巽の感じている声を初めて聞いた。  そして、丁寧に優しくそして愛おしく巽を愛した。  巽は限界が近くなってきた為、有希也の膨らんだ頬に触れて、口から抜こうとしたが、有希也は一生懸命になり過ぎて、巽の絶頂のタイミングが分からなかった。 「あぁ…有希也…あ」  有希也は巽の陰茎の付け根を握り、頬張り続けた。 「ああっ…ダメだ…ごめん」  有希也の舌の動きが止まった。 「有希也。ごめん」  巽は有希也の口から抜くと、有希也は瞬きもせず、口を閉じていた。  そして有希也の喉仏が上下に動くのが見えた。 「有希也、ごめん。口…濯いできて」  すまなそうな顔の巽に、有希也はくしゃっとした笑顔を見せた。 「うん。そうする」  有希也は洗面所へ行った。  手で水を汲んで数回濯いだ。青臭い匂いが鼻に抜ける。  鏡に映った自分の口元を見て、大きく口を開けた。    (巽さんって、まぁまぁのサイズだな)  有希也は少しニヤついて頬と顎をさすった。  寝室に戻ると、巽はシャツを脱ぎ、裸で枕の上に片肘をついていた。    「おいで。有希也」  肌掛けの端をめくって、マットレスをポンポンと叩いた。  有希也も裸になって、巽の横に潜り込んだ。  しばらく見つめ合った後、巽は有希也の下唇を摘みながら 「この可愛い唇は、いつあんな事を覚えたのかな」   「えぇ?…巽さんが俺にしてくれたのを真似したんだよ」  巽は声にならない笑いの後 「ありがとう、有希也。よかったよ、とても」  巽のその言葉を受けて、有希也も言いたかった言葉を言おうとしたが、巽に唇を塞がれてしまった。 (よかったでしょ?巽さん)

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