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第45話 旅先、二人の決意
あれから、すぐに行き先と日程が決まった。
有希也は毎日、その日は晴れますようにと願った。
巽と一緒に砂浜を歩いて、波の音を聴きながら素敵なコテージで過ごす事を考えるだけで幸せだった。
「橋本君、なんか心ここに在らずだけど、どうしたの?いい人でもできたの?」
同期の田口の言葉で現実に戻された。
「いや、まぁ…」
有希也はニヤけ顔を隠しきれなかった。
「あぁっ!香水もらった人とうまくいったのね。いいなぁ。ねぇどんな人?写真とかないの?」
有希也は、そういえば巽とのツーショットは撮ったことがないなと気付き、今度の旅行でいっぱい撮ろうと思った。
「写真はないよ」
でも実物を見たら田口はどんな顔をするかなと想像したら可笑しくなった。
田口が何か言いかけようとしたら、都合よく田口の内線が鳴った。
有希也の願いが通じたのか、旅行当日は抜けるような青空だった。
「有希也 おはよう。いい天気だね」
「おはよう 巽さん。俺、毎日晴れますようにって願ってたんだから。通じてよかった」
助手席に乗り込んだ有希也に、晴れにしてくれたお礼とばかりに、巽は早速キスをした。
有希也はこの旅行で俺達は何回キスをするんだろうと楽しい予想をした。
昼前に今夜泊まるコテージの近くまでやって来た。
昼食を海鮮物にするか、夜にとっておくか
なかなか決まらなかったが、巽の提案でテレビで取材された事がある店に行って、鰺フライを食べる事にした。
コテージのチェックインは数時間後の為、辺りを散策しながら、リカーショップを探した。
今晩の酒は、ワインではなく日本酒にしようと二人で決めていた。
「巽さん、手繋いでもいい?」
通り過ぎる人も少なくはないが、有希也はそう言って、巽の手を繋いだ。
「嬉しいな。有希也からそうしてくれるなんて」
「だって、巽さんの事が好きなんだもん」
有希也は自分でも驚くほど素直に、今の気持ちを言葉にして伝える事ができた。
有希也が気に入った日本酒も買う事ができ、コテージのチェックインができる時間になった。
巽はオンラインでセルフチェックインが出来るようにしていた。スマホでキー操作ができるよう予め暗証番号が巽に送られていた。
コテージの中はタブレットでやり取りが可能だった。
非対面での手続きは、少しのストレスもなく宿泊利用ができる。巽は男二人で泊まることを気にされないよう有希也を気遣った。
コテージの中は、写真で見るより広かった。海に面した窓は大きく、そこからテラスへ出る事ができた。
壁側にはガス暖炉が設備され、その前にカウチソファが置かれていた。
窓を開けると、波の音が聞こえた。
「巽さん、ありがとう。素敵なとこ見つけてくれて」
有希也は巽の背中に抱きついた。
「今日の有希也は積極的だな。嬉しいけど」
「巽さん、ずっと我慢してたでしょ?」
と言って、有希也は巽の正面に回ってキスを請う顔をした。
「あぁ、もう、どうしたんだよ」
巽は有希也の可愛くすぼめた唇を、強く吸い続けた。
「巽さん。大好き」
「俺もだよ、有希也」
巽は有希也を強く抱きしめた。
「ねぇ、巽さん。俺、巽さんとならいいよ」
有希也は巽の甘く優しい顔を見て言った。
巽は、そういう事だったのか、と有希也の頭を自分の胸に押し付けた。
有希也はこの旅行で自分と結ばれようとしていたんだと気付いた。
いつに無い積極的な言動も、旅先ということを差し引いても、有希也らしくなかった。
有希也自身、気持ちを高めて巽に向き合っていたのだと。
あの時もそうだった。
初めて巽を射かした時も、なりふり構わず必死の様子だった。
巽は踏み出せない自分の不甲斐なさを痛感した。
「有希也、ありがとう。愛してるよ」
更に強く有希也を抱きしめた。
「有希也、少し俺の昔話しを聞いてくれるか」
巽は有希也をガス暖炉の前のソファに連れて行き、腰かけると有希也の肩を抱いて、ゆっくりと話し始めた。
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