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第48話 傍にいたい

 有希也は泣いていた。  巽の過去にそんな辛い事があったなんて知る由もないが、自分の浅はかさが情けなかった。  ただ、結ばれたいという自分の欲望だけで、巽をまた辛い過去に引き摺り込んでしまった。 「巽さん、ごめんなさい…本当にごめんなさい。俺、何も考えてなかった。巽さんはいつも俺の事を思ってくれているのに。辛い事を話させてしまって、本当にごめんなさい…俺は巽さんのそばにいられるだけでいい…それだけでいい。巽さんの気持ちも考えずに、巽さんとならいいよなんて言って…本当にごめんなさい」  巽は泣いている有希也の顔を両手で挟んで涙を拭った。 「有希也、聞いて。謝る事じゃないんだ。俺が踏み出せないだけなんだ。有希也は謝るような事は何もしてないよ。有希也が俺のために一生懸命になってくれてるの、すごく嬉しいんだよ。有希也に触れていると、俺自身も勃ってしまう。でもその欲情を有希也に向ける事で有希也を傷付けてしまうんじゃないか、いやそうじゃない、俺自身が俺を傷付けたアイツになってしまうんじゃないかって。俺に傷つけられた有希也に俺自身を重ねてしまうんじゃないかって。有希也は有希也で、俺は俺なのに」  巽は話した事がない胸の内を、初めて晒した。晒す事ができた。  有希也は巽がこのまま遠くへいってしまうのではないかと、不安で急に心細くなった。  そして巽の胸にしがみついた。 「巽さん。俺は巽さんのそばにいてていいよね?俺は巽さんを苦しめてるの?でも俺は巽さんと離れたくない。そばにいたいよ、ずっと」  有希也の涙は止まらなかった。 「有希也、いいか?お前は俺を苦しめてない。俺はお前を離さない。これからもずっと一緒だ。だから俺から離れるな。ずっと俺のそばにいろ。お前を愛してるんだよ」  巽は自分の中で何かが変わりそうな気がした。  有希也を愛しているから、自分の思いを、自分のエゴをぶつけても、今は許される時で、有希也は受け入れてくれると自然に感じる事ができた。  今ようやく、あの時のハイボールグラスの蓋を開ける事ができた。  そして、空っぽのグラスの中を見る事ができた。 「有希也。その時が来たら、俺を受け入れてくれる?」 「……」  有希也は泣きじゃくり過ぎて口を開けても言葉が出なかった。  巽の腕の中で、何度も何度も頷いた。

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