4 / 120
凌久
キュッ
シャー――
「…はあっ~。どんだけ溜め込んでんだか」
ヤった後、悠悕は、死んだ様に寝るので
俺はその間にシャワーを浴びる
高3の時一緒になった悠悕は、クラスの人気者だった
どっから見ても爽やかイケメン
その優しさから、男女問わず好かれていた
そして…俺のドストライクでもあった
中学に入る前に、自分の恋愛対象が男だと知った俺は
恋愛を諦めた
女とだって付き合えるか分かんないのに
男となんて無理だろ
だってまず、男を好きな男を見付けらんないんだから
そう思ってたら、中学の先輩に告白された
すげぇカッコいい先輩で好きになった
そして、めちゃくちゃ優しかった
あの先輩とが初体験なんて
かなり恵まれてる
まあ…
付き合えないなら、遊ぶ人生にしようとか思ってたから
人生の運を全て
使い果たしたんじゃないだろうかと思った
でも、先輩が卒業してしばらくすると、それっきりで
最初で最後の彼氏だったのかなぁ
なんて思ってた
高校に入ると、ドラマとかアニメとかの影響で、普通にそういう話を聞く様になった
じゃあ、俺もなんです~!と言えるかと言えば、そんな訳もなく
適当に彼女が欲しいとか言って、話を合わせてた
高2の時、仲良くなった友達が居た
2人で遊んだ時、彼女は居るのとか、ヤった事あるのかという話になった
なんとなく、そういう雰囲気になって
一緒にオナった
何度かそんな事があって
もしかしたら、こいつも男好きなのかなとか思った
ある日、キスしようかと言ったら
そんなんしたら気持ち悪いだろと言われ
ほんとに遊んでるだけなんだと分かった
紛らわしい事しないで欲しい
高3になり悠悕と同じクラスになる
ビジュアルが好き過ぎて
恋愛なんて求めないから1回位
どうにかしてヤらせてくんないかな
そう思ってた
バスケ部の水無瀬 君
バスケ部の水無瀬先輩
しょっちゅう女に群がられてるのに
女の気配が全然なくて
それがまた更に人気を上昇させてた
それは、たまたまだった
休日、街中で悠悕を見かける
カフェのテラス席で、俺達より年下の男と楽しそうに話していた
弟?
いや…
楽しそうに話してるのは悠悕だけだった
もう1人の男は、さほど笑うでもなく、よく頷いていたが、あまり話してはいなかった
まるで、しょうがなく付き合ってるかの様だ
弟だとしたら、一方的に溺愛する兄の図だが…
違うとしたら……
いや、まさかな
バスケ部の水無瀬君が、ただの水無瀬君になった頃
放課後、先生に呼ばれた
大学の資料
水無瀬にも持ってってくれなんていう、素敵過ぎる用事を頼んでくれた
教室から出てきたところを捕まえると、教室に戻って、資料を受け取ってくれた
「ありがと、楠 。俺、さっき職員室行ったんだけどな」
今日しか、まともに話せるチャンスないかも
資料を丁寧に重ねている
「同じ志望校なんだよな。凌久でいいよ。俺、この前、水無瀬のデート現場目撃しちゃった」
重ねた資料を、驚く様子もなく鞄に入れる
「え~?それは、人違いじゃないかな」
これは、ほんとに居ない…か
居るけど、そいつじゃなかったか
「駅前近くの、カフェのテラス席で、楽しそうに話してたよ?」
一方的にだけど
ん?
手止まった
「…楽しそうに…見えた?」
うわ~っ…
なにその、きらっきらした笑顔
はい、彼氏~
男だから隠してただけか
「うん。羨ましいなって思って見てた」
「…あれね、あの時一緒に居たの、俺の弟なんだ」
…は?
まだ言うか
もう教室誰も居ないのに
「いや…俺、男同士とか、全然大丈夫だから。ってか、俺も男好きだし。彼氏なんだろ?」
「……男…同士…彼氏…か…彼氏?!」
みるみる顔が赤くなっていく
「違うのか?」
「ちっ…違う!弟!」
弟でその反応ヤバくね?
「いや…弟ではないだろ。まだ、付き合ってないの?水無瀬の片想い?」
羨ましい奴め
「ほんとに…弟。でも…弟に見えないかもしれない。2年前に…弟になったばかりなんだ」
あ…
これは、なんか
聞いちゃダメなやつだった
「ごめん…俺がしつこくしたせいで、余計な事話させた。悪い」
「…ううん。当たり前だけど、なかなか慣れなくて…ようやく最近、一緒に外食行けるようになったんだ。嫌じゃないって言ってくれたけど、ほんとは無理してるんじゃないかなって、思ってたから。楽しそうに見えてたなら…凄く嬉しい!ありがとう、凌久!」
え―――――
何この子?
可愛い過ぎじゃない?
全然弟君楽しそうに見えなかったけど
もう楽しそうって事でいいよ
こんな喜んじゃってるもん
「水無瀬、いい兄ちゃんなんだな?」
「っ…!」
え?
喜ぶと思って言った言葉に
物凄く、辛そうな顔を見せた
「俺は…全然してあげれる事も少ないし...それに…全然いい兄ちゃんじゃないんだ」
何か…
あるんだろうけど
初めてまともに話したのに
これ以上、突っ込むのもな…
「なあ、水無瀬。俺も下の名前で呼んでいい?」
「あ…うん。悠悕:(はるき)」
「悠悕、一緒の大学受験、頑張ろうな」
「お邪魔します。わぁ…結構いいとこ住んでるね」
「俺ん家、結構金持ちなのよ」
「1人暮らしなのに、綺麗にしてる」
「俺、こう見えて、結構しっかりしてんのよ」
「ふっ…そう見えてるよ」
うっ…
不意に笑うと、心の準備が…
「そっかあ?久しぶりの弟君不在の生活はどうよ?」
「……寂しい」
「長年ずっと弟居なかったのに?」
「…そうだよね…でも…ご飯食べる時も、テレビ見る時も、1日何回も暁の顔見るのが習慣化されちゃったから…」
「弟君、あきって名前なの?」
「うん…あかつきって漢字であき。あんまり…いい親じゃなかったんだろうけど…綺麗な名前だよね」
聞いても…
いいのかな
「親戚の子とかなのか?」
「ううん…施設に…入ってたんだって。施設に居た時期は短かったみたいだけど…うちの親、世話好きだから、噂を聞きつけて、すぐ見に行ったみたい。母さんが…昔そういう仕事してたとか…なんか、そういうのもあるみたい」
「…へぇ。なんか、そういうとこから引き取られるのって、ちっさい子ってイメージ。中学生だったんだよな?」
「……中学生なのに、何にも喋んない子が居るって聞いたみたい」
喋んない…
あっ!
あれは、喋りたくないんじゃなくて…
喋れなかったのか?
「今も?まだ喋んないの?」
「ううん。だいぶ喋ってくれるようになったし、少しなら、笑ってくれるようになった」
「…なるほどね」
つまり、光源氏と紫の上状態
「でも凄いよな。俺だったら、突然3つ下の、何も喋んない弟ができるってなったら、絶対反対したな」
「ああ…俺、凌久みたいにちゃんと考えてなかったからさ。でも…確かに暁じゃなかったら、どうだったか分かんないかも…」
いや、話聞いてる限り
暁で無理ですけど
「じゃ、お互いに、いい兄と弟に巡り合えた訳だ。良かったじゃん?暁だって、悠悕が兄ちゃんで良かったって思ってるだろ」
「……それは…どうかな」
「何言ってんの。ほんとの兄弟だって、こんなに思ってくれる兄ちゃんなんて、どんだけ居るか」
「……それは…そうかもしれないけど」
「何でそんな自信ないの?暁、懐いてくれないの?」
ここまでして貰って懐かないなら、もう我が儘だろ
「…いや...そうじゃないんだけど…」
「懐いてくれてんの?良かったね」
「……~っ…凌久っ…」
「……え?…えっ?泣い…えっ?何…」
綺麗な顔からポロポロ涙が落ちる
「…っ…どうしよう…俺…っ!…取り返しのつかない事…っ…しちゃった」
「と…取り返しの…つかない事?」
「暁…安心させたくて…っ!…どう言ったら…伝わるのか…分かんなくて…キス…しちゃったんだ」
キス…
ああ…ファーストキス奪っちゃった的な…
「まあ…そりゃショックかもしんないけど、家族はノーカウントだって言っとけよ。泣く程の事じゃないだろ?」
俺は泣きたいけど
もっと、すげぇ事起きてんのかと思ったわ
「暁…キスすると、安心するって思っちゃって…」
「ああ…何回もしてんのか。まあ、悠悕が嫌じゃないなら、落ち着くまで付き合ってやれば?」
俺は嫌だけどね!
「…っ…どんどん…激しくっ…しないと…安心出来なくなっちゃって...」
「え…?激しくって…」
待て待て
これ、俺が聞いていいのか?
「暁…ふっ…うっ…そのうちっ…父さんと母さん…出掛けてる時だけじゃなく…お風呂…入ると…っ!…辛かった事…思い出すみたいで…」
「ちょっ…悠悕…大丈夫か?」
「…っ…なのにっ!辛くて嫌だった事が…~っ!1番…喜んでもらえる…からっ…傍に居てもらえる…安心するって…思ってて…」
それって…
つまり…
そっちの虐待されてたって事…
「悠悕…」
悠悕の体を寄せる
「それ…悠悕の両親も知ってるんだろ?ちゃんと相談した?」
ふるふると首を振る
「…っ…俺がっ…あんな事してるなんて…知ったら…」
「安心させる為にって言ったら、キスくらい許してくれるだろ。海外の挨拶だぞ」
「…~~~っ…凌久」
「え?」
悠悕が、俺に縋り付いてきた
「俺…暁の事…抱いてるんだ」
「…は」
は?
抱いてるんだ
抱いている
今の悠悕みたいに
な、訳あるか!
「抱いてるって…暁とヤっちゃってんの?!」
「う~~っ…ごめんなさい」
いや、許さねぇよ!
男とできんなら、先に俺とシろよ!
くそっ!
「なっ…何で…キスからの流れで?」
「家に来て…3ヶ月位の時、両親2人して出掛けた時があって…っ暁…一言も喋らなかった暁が…ソファーでテレビ見てた俺に…話し掛けてきた」
「ヤろうって?」
「…俺が初めて聞いたっ…暁の声っ……自分でっ…脱げばいいですか?」
「……え?」
そ…れは…
ちょっと…重過ぎないか
「全然っ…意味分かんなくて…どっちでもいいとか、暖房下げるかとか…言ってたら…すいませんっ…どうしたらいいのか、教えてもらえますか?って…」
「…うん」
「俺っ…ほんとに全然気付いてやれなくて...っ!暁の…っ好きにしていいよって…言った」
「うん…そりゃ…分かんねぇわ」
「そしたら…一瞬凄く怯えた表情になって…」
「うん…?」
好きにしていいよ…からの怯える?
意味が分からん
「…っソファーから…下りた暁が…俺の足の間に入ってきて…」
「…え?」
「しっ…失礼します…触っても…いいですか?って聞いてきた」
「……え」
足の間…触る…
アレを?
失礼しますって?
今初めて話し始めた子が?
キャパオーバー
「俺…頭、混乱して…」
でしょうね
聞いてるだけで混乱だわ
「暁…じっと待ってるし…触るって?って聞いたら…また、怯えた顔して…焦った様に…っく…咥えていいですか?って聞いてきた」
は…?
「俺…もう頭パニックで…何言ってんの?!って怒鳴っちゃったんだ」
「正解だろ」
「でも…暁…物凄く驚いて…すいません、すいませんでしたって謝って...」
「ようやく目を覚ましたか?」
「あんまり怯えるから、怒った訳じゃないって言おうとしたら…暁…自分のパジャマの下と下着…脱ぎだして...」
「はあ?」
すいませんは、何処行った?
「もう、ほんとに俺…頭真っ白みたいになって…何にも理解出来なくて、何したらいいのかも、分かんなくなっちゃって」
「それで、襲ってしまったと。まあ、そこまでされたらな。ムラムラしても、おかしくないんじゃない?」
全然許せないけどな!
ってか、よく男とできたな
あ…暁が知ってんのか
ん?
悠悕が、俺の服をぎゅっと掴んできた
ムラムラしちゃうよ?
「暁…っ!」
「悠悕?」
俺にしがみ付くと
「暁…俺の目の前で…っ…自分の後ろに指入れて…」
「はっ?」
「その時俺…男同士のとか全然知らなかったから、ただただ暁が…俺の分からない事をして...苦しんでる様にしか見えなくて…」
いや…いやいや
男同士のを知らない悠悕が見たら
フリーズ通り越して吐くか、気絶だろ
「何かもう…分かんないし…怖いし…暁に…何してんの?って聞いたら、すいません。もうすぐ大丈夫ですって言われて…何が大丈夫なのかも…何も…分かんなくて…」
「うん…そうだよな?」
悠悕の背中を擦る
そりゃ…怖いわ
「暁っ…ソファー上がって…四つん這いで…後ろ向きになって…っ…」
「うん...」
「もう俺…限界過ぎて…何してんの!って、怒鳴っちゃったんだ」
「うん…」
「そしたら…暁っ…驚いて振り返って…何度も謝って…お願いします…っ…どうすればいいのかっ…教えて下さいって…」
「うん…」
「~~っ…何でもします…何でもしますって…うっ…顔の前っ…ふっ…うっ…両腕でっ…ガードしてっ…震えてた…」
「悠悕…分かった。もういい。分かった」
頭を撫で、背中を擦る
3つ下
13歳で、自分で準備して…
恥ずかしいとかも…分からないんだ
それより...相手を喜ばせないと…
自分が生きていけないと思ってたんだ
生きてく為に…必死だったんだ
気に入られる様にしないと…
何をされたのかは知らないけど…
だから悠悕の言動1つ1つにびくついてたんだ
こんなに、そういう事に対して可哀想に思って泣いてんのに
どういう経緯かは知らないけど
自分が理由は違っても
いくら優しくしても
暁とそういう事してんなら
そりゃ……
こいつ…大丈夫か?
暁を救ってるうちに、自分が死ぬんじゃないか?
「悠悕…辛かったら逃げてもいいんだぞ?暁が可哀想なのも、お前が大切に思ってるのも分かったけど…お前も大事。お前だけ、どうでもいい訳じゃない」
「…うっ…ん...ありがとっ…けどっ…やっぱり…暁の事っ…好きだからっ…どうにかしたいっ…何かっ…いい方法ないっ…かなっ…」
好き、ねぇ
どういう意味で好きなんだか
悠悕は、優しさだけでも、なんかいけそうな気はするが
暁は、そんな過去があって…
また家族とシたいとか
思うもんなのかね…
「ま、どっちにしても、来年は離れるだろうし、そん時また考えれば?」
「…っく…離れないっ…一緒にっ…住む」
は?
「いや…だって、俺達大学…」
「暁っ…頑張って…俺の大学っ…結構近いっ…高校…受験するっ…から」
………はい、アウト~
暁は、絶対そういう意味で悠悕の事好きだろ!
いや…
どういう経緯で、そうなったのか
そんなの知らんけど
そこまでして離れる気ないって…
まあ…そういう奴の事…よく知らないけど…
結局、その後も
ちょいちょい、そういう話を聞く様になり
俺はもう、完全に暁はクロだと思っている
が、未だに目の前で寝ているこいつは
気付いていない
自分の気持ちにも
そして俺は…それを利用している
ともだちにシェアしよう!