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間宮
時々…悠兄から、いつもとは違う匂いがする
それは、いつも同じ匂いで
多分…シャンプーかボディソープだ
きっと悠兄には彼女が居るんだと思う
でも、俺に気を遣って居ないフリをしてるんだ
おかしいのは俺
なんとか悠兄から離れなきゃ
大切にしてくれる人じゃないと安心出来ない
多分…父さんや母さんでもいいんだろうけど
そんなの出来る訳ない
「…どうしたらいいんだろう」
「とりあえず、移動教室だから行こう?」
気付くと間宮 が覗き込んでいた
教室には、俺達しか居なくなってた
「ごめん、間宮。もう皆居なくなってたんだね?」
「何か考え事?」
「うん…ちょっと…」
「俺で相談乗れる事?」
間宮は優しい
席が俺の前だってだけで
俺に話し掛けたり、こうやって世話をしたり
ほんのちょっとだけ…
悠兄に雰囲気が似てる
間宮と移動教室に向かいながら話してみる
「…いつもとは別のシャンプーか、ボディソープの匂いがして、それがいつも同じ匂いなら、その人は彼女が居るって事だよね?」
「……え?あ...そう…かもね?」
「……やっぱり…そうだよね…?」
「え?あ...あれ?水無瀬…その人の事…好き…なの?」
「うん……」
凄く大切な人
そう言うと、間宮が立ち止まった
「…間宮?」
「あ...ごめん。俺…そうだとは思わなくて、無神経に言った…分かんない。彼女が居なくたって、バイト先がシャワー付いてるとか…お気に入りの銭湯があるとか…時々姉ちゃんの使っちゃったとか…色々他の理由…あるかもしんないからっ…!」
「うん…?」
何で間宮…
そんな一生懸命…
「水無瀬…あのさ、水無瀬の都合のいい時でいいから、今度一緒に遊ばない?」
「……え?」
「あっ...乗り気じゃなかったら、全然無理しなくて大丈夫なんだけど…」
誰かにこんな風に言われたの初めて…
どうすればいいんだろう
俺とでいいの?
いいよって言っちゃっていいの?
俺…誰かと遊んだり出来る?
「……あっ...ごめん。まだそんな仲良くなってないもんな?行こ。チャイム鳴っちゃう」
「……うん」
ごめんって謝られた
俺がちゃんと返事出来なかったのに
こんな時…
うん、じゃなくて
何て言えば良かったんだろう
「じゃあな~」
「おう。明日~」
もう、放課後になっちゃった…
ずっと考えてたけど答えが分からない
何か…言った方がいいよな
でも、何て言えばいいの?
もう俺を誘った事なんて忘れてるかもしれない
間宮は、沢山友達いるんだから
もう全然気にしてなかったら
変に声掛けない方がいいのかな
でも…
ごめんって言わせたのは事実だし…
どうしよう…
いくら考えても分からない...
なんか…頭痛くなってきた……
「じゃあな、水無瀬。またあし…た……」
何か…
間宮が、びっくりしてる
「間宮?」
「水無瀬!お前、熱あるんじゃない?」
「熱?…ああ…それで頭痛いのか」
「頭痛いのに、熱あるの気付かなかったのか?」
「頭痛いのに、さっき気付いたから。でも原因が分かって良かった。気付いてくれてありがとう、間宮」
今日は、もう帰ろう
こんなんじゃ、ちゃんと考えられない
「……良かったって…水無瀬…具合悪いんだろ?」
「?…頭痛いだけだよ?」
「……ほ…保健室行こ」
「え?…もう帰るからいいよ」
「だめだよ!帰る途中で倒れたらどうすんだよ!」
雰囲気だけじゃなくて
心配性なとこも似てる
「……心配してくれてありがとう間宮。でも、熱くらい平気だよ。帰って解熱剤飲んで寝れば、すぐ良くなるから大丈夫」
「じゃ…じゃあ…俺、水無瀬ん家まで送ってく」
「……え?」
「中に入ったりしないから...ちゃんと水無瀬が家に着いたら帰るから」
何で...
家族じゃないのに、そんなに…
理由がないのに優しくされるのは……
怖い
「あ...ありがとう。でも…ほんと大丈夫。家に帰って寝てれば、兄ちゃん帰って来るから」
「そっか…でも、帰るまでが心配だからさ。結構顔赤いし、熱高そうだよ?」
そう言って…
俺の目の前に立ってる間宮が、おでこを触ってきた
ビクッ!!
「えっ?」
あ...
体が…勝手に……
だめだ...
さっさと帰ろう
「あ...ほんと…大丈夫だから…」
声が…震える
「ありがとう、間宮。また明日」
「……うん」
そう言って、教室を出た
きっと…
家族じゃないけど
凄く心配してくれてるんだと思う
でも…
そこまで思ってもらえる事してないから
あそこまで優しくされると
怖くなる
震えてるの…気付かれたかな
中1の後半に転校した
何も喋らない無愛想な俺に
最初の数日は、何人も色々と話し掛けてきた
けど…全く反応もしない俺に
誰も寄り付かなくなった
2年になってからは、必要な事は話せる様になってたけど、そんな俺とわざわざ友達になろうなんて考える人が居る訳もなく
俺も、誰とも深く関わりたくなかった
3年になると、皆受験で自分で精一杯になって、俺にとっては居心地が良かった
3年になって、俺に関わってくる人達は居たけど
理解出来る理由だった
間宮みたく、何もしてもらってないのに
優しく関わってきた人は居なかったから……
分からない
間宮の言う通り、結構高い熱なんだ
ちょっとクラクラする
悠兄が帰って来る頃には…
少しでも熱…下げとかないと……
わぁ…力…抜けてく...
鍵…鍵……
あった……ドア……
視界が……暗く...…
待って…薬……
倒れたはずなのに痛くないのは…
気を失ったから?
あれ?
間宮の顔…
夢?
凄く…心配そうな顔……
分かってる
ほんとに…いい奴なんだ
「……ごめん…間宮…」
あと…何言えばいいかな
夢で…練習……
「……優しい人は…怖いんだ...」
これじゃ…分かんないか
間宮に伝えたい事って…
あ...そうだ
「…...ほんとは…嬉しかった…」
これは…伝えなきゃ…な……
おでこ…気持ちいい
ああ…
悠兄帰って来て
冷たいの…貼ってくれたんだ
まだ…目…開けれない
「…はるにぃ…お帰り…」
もう少し寝たら…起きれるから…
?
キス…?
ああ…
不安そうな顔してたのかな?
具合悪いだけなのに...
「…はるにぃ...ありがと」
大丈夫だよ
もう少しだけ…待って
「暁…暁…」
悠兄の声
あっ...!
結構寝ちゃった!
「悠兄…ごめん。少し寝ようと思ってたら…」
「どうした?具合悪い?」
「ちょっと熱があって…解熱剤飲んで寝ようと思ったんだけど…そのまま…」
あれ?
そのまま…ソファーで寝たっけ?
「そっか。熱計ろうな?」
「うん」
「他には?咳とか鼻水とか、体がだるいとか頭が痛いとか…」
「頭は痛かったけど…今はそうでもない」
「そっか…はい、体温計」
「うん...」
体温計…
実は…何かちょっと使うのが嬉しかったりする
俺の家に体温計なんて物が、あったのかは知らない
保健室で計ってもらった事はある
「ふっ…熱計ってる時、そんな嬉しそうな顔してる人居ないよ?」
「そうかな?」
だって、具合悪い時しか登場しないし
これが登場する時は
誰かが心配してくれる
ピピ ピピ
「どれ?38.5℃!なんの熱?!風邪症状全然ないのに、こんなに熱あるなんて!病院行こう」
「行かない」
「出た!暁の行かない。もう病院が、そんなに怖い所じゃないって分かってるだろ?」
「怖いんじゃなくて、面倒なんだもん。あんなに人が居る所で、何時間も座って待つんだもん」
「…そりゃ…そうだけど……」
「解熱剤飲む。寝て起きたら下がってる」
「じゃあ…明日、熱下がってなかったら病院な?」
「うっ……分かっ…た」
これ以上は断わりきれないか…
あれ?
悠兄…出掛ける格好…
「悠兄…どっか出掛けるの?」
「暁が熱出して倒れてるのに、出掛ける訳ないだろ?」
「出掛ける格好してるから…」
「これは、帰って来た格好。今帰って来たら、電気点いてないし、制服の上着とネクタイ脱ぎ飛ばしてあって…暁ソファーで寝てるし…びっくりした……」
今帰って来た?
でも…
おでこに手をやると、おでこを冷やしてた物が貼ってある
「これ…悠兄が乗せてくれたんだっけ?」
「俺は、帰って来て真っ直ぐ、暁のとこ来たんだよ?暁が自分で乗っけたんじゃないの?」
「…そう…だったかな……よく覚えてない」
「多分今より熱、あったしね」
じゃあ…あれも悠兄じゃない?
「悠兄…俺にキスした?」
「…えっ?してないよ?何?!誰かにされたの?!」
「ううん…夢見てた」
「そっか…」
悠兄じゃない…誰か
夢?
そう言えば、間宮の夢見て…
え?
いや…
ここに間宮が居る訳ない
全部きっと…夢だったんだ
熱で意識朦朧としてたから…
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