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カミングアウト
「お…なんだ水無瀬。体調は大丈夫なのか?」
この先生は、俺のクラスの担任で、国語教師
柿内 先生
皆にカキピーと呼ばれている
そして、若くて、格好いいのに、親父くさいよな、と言われている
職員室に居た先生が、教室まで付いて来てくれて、柿内先生に説明してくれる
「さっき、お兄さんが連れて来てくれて、熱は一応下がったし、本人行きたがるのでって、連れて来てくれてました」
「俺は全然大丈夫だったんですけど…」
「兄ちゃんに可愛がってもらってんだな。まあ、具合悪くなったら、すぐ言えよ?」
「はい」
と、教室に入ろうとすると
「ちょ~っと待った~!」
柿内先生に腕を引っ張られる
?
「はて?って顔してんじゃない!布川先生にここまで連れて来て貰って、説明して貰ったんだろ?お礼は?」
「あ...すいません。ありがとうございました」
ペコっと頭を下げる
「はい。じゃ、行きますね」
そう言って、布川先生は去って行った
「先生、お礼忘れてて、ごめんなさい」
柿内先生にもペコっと頭を下げる
「ん~…水無瀬は、素直でいい子なんだけどなぁ。そういうとこ気を付けないとだなぁ」
「はい。ありがとうございます」
今までの先生は、俺が見えてない様だったのに
柿内先生は、ちゃんと色々教えてくれる
「今時珍しい程、素直だなぁ」
柿内先生が不思議そうに
片手は顎を触りながら片手で俺の頭をガシガシと撫でる
嬉しい
「せんせ~い。セクハラで~す」
「今すぐ水無瀬から手を離してくださ~い」
「えっ?!セクハラ?!」
先生がパッと手を離す
離れちゃった
「み…水無瀬…セクハラじゃないぞ?」
「じゃ、パワハラで~す」
「パワハラでもない!違うからな?」
柿内先生は、色々教えてくれる
「先生、それは、どういうものですか?」
「…えっ?それって?」
「セクハラとパワハラです」
「えっ...えっ?水無瀬…知らないのか?」
知ってて普通の事なんだ…
「…すいません。知りませんでした」
ペコっと頭を下げると
「そ…それは謝らなくていいってか…それは…だな、間宮が教えてくれるぞ」
「……は?!」
「先生が教えたら、実際なっちゃうかもしれないでしょ?!怖いんだからね?!先生、満員電車だって、両手上げるタイプだからね?!」
「いや、実践しなくていいでしょ?!」
なんか…分かんないけど
皆困ってる
「あの…先生」
「何?!怖い?!」
怖い?
「帰ったら、兄ちゃんに聞いてみます」
「えっ?!兄ちゃんに?学校の先生に、セクハラとパワハラについて、聞けって言われたって?!水無瀬!俺を…若くして社会的抹殺しようとしてんの?!怖い!」
だめなんだ
「カキピーうるせぇ!」
「さっさと水無瀬座らせろ~!」
「え?あっ...そうだった。水無瀬、席に着け」
「はい」
よく…分からないけどいいのかな
間宮…
「おはよ」
「お…おはよ」
あ...
思いっきり視線逸らされた
やっぱり怒ってるのかな?
「なんだ~?間宮。水無瀬と喧嘩か?」
「してません!」
「随分、堂々とした苛めだな?間宮。先生、苛めは許さんぞ」
「苛めてません!」
「先生…俺が、悪いので…大丈夫です」
「ん~?水無瀬が悪いのか?」
「違っ...水無瀬は悪くない!俺が悪い!」
「なんだ~?やっぱ喧嘩じゃねぇか。ちゃんと帰りまでに、仲直りしとけよ!」
柿内先生
喧嘩じゃないんです
そういうのは
ちゃんと仲良くなった人達がするやつだから
そして昼休み
「どうしたんだよ間宮?」
「ほんとに水無瀬と喧嘩したのか?」
「ま、喧嘩出来る位、仲良くなってたって事か」
間宮は、全然話す様子もなく…
間宮が悪い訳じゃないから…
「喧嘩じゃないよ」
「お、水無瀬話してくれるのか?」
「せっかく間宮が仲良くなろうとしてくれたり...心配してくれたのに...俺が……拒否したから…」
「え?そうなの?水無瀬嫌だったのか?」
「間宮が、しつこくしたんじゃないのか?」
上手く…話せるかな
でも、せっかく俺の話…聞こうとしてくれてる
ここに居るのは…怖い人達じゃない
「ううん。俺が悪いんだ…俺…友達とか…居た事ないから...どの位…大丈夫とか...分かんなくて...……あの…理由もないのに…優しくされると…怖くなっちゃって...…あの…嫌いとか…迷惑とかじゃ…なくても……...ごめん…上手く…話せない…」
自分でも
もう何言ってんのか分かんない
間宮がくるっと振り返ると
「…えっ?間宮…泣いてる」
「ごっ…ごめん!そんなの…突然っ...遊びにっ…行こっ…とか……家まで送るっ…とか...おでこ触っ...ごめっ…怖かったよね…ごめん!」
「………………」
「水無瀬?間宮、謝ってるぞ?」
「うん…俺が…謝ろうとしてたのに...なんで間宮が謝ってるの?」
間宮が俺に謝る理由が分からない
「だっ…だって!俺っ!水無瀬とっ…仲良くしたいって…思ってっ…っく…水無瀬が怖いとっ...思う事ばかりした!」
「だって…俺…言ってないもん。間宮が知る訳ないし、俺が勝手に怖いだけで、間宮が謝る必要ないよ?」
全然…この状況が分からない
1番近くにいる長谷 に聞いてみる
「長谷」
「何?」
「なんで、間宮は泣いてるの?」
「え?」
あれ?
皆が…驚いた様にこっち見てる
「…ごめん…俺、なんか悪い事言った。ごめん…」「水無瀬…」
長谷が、隣の席の椅子を引っ張ってきて座る
「間宮がどうして泣いてるのか、謝ってるのか理解出来ない?」
「……ごめん。分かんない」
「謝らなくていいんだ。じゃあさ、水無瀬にとって、大切な人って誰?」
大切な人は…
「今の父さんと母さんと、はる…兄ちゃん」
「…っ!」
「?…長谷?」
「あ、いや...じゃあさ、例えばその兄ちゃんにとって、凄く怖い事があったとする」
「うん…?」
「水無瀬は、それを知らずにやって、兄ちゃんを怖がらせてしまった」
「えっ?」
「水無瀬、どうする?」
悠兄の怖い事ってなんだろう
もし…知らずに怖がらせてたら…
もしかしたら、今だって言わないだけで
怖いだけじゃなくて
嫌な事とか
色々…きっと…我慢してる
「……水無瀬?あの~…答えは?」
「…っ!どうも…出来ないっ...!」
「えっ?…は?!」
「俺がっ...出来る事なんてない…俺はっ…全部貰ってる…俺は…ただ…迷惑かけてばかりで…何も…返せてない…ごめんなさい」
「いや...そんなとこで正解使われても…っつ~か…水無瀬!!」
ビクっ!!
「ごめんなさい...!」
思わず顔の前をガードすると
「…っ!…ごめん、水無瀬。怖がらせて」
「そうだそうだ!水無瀬を怖がらせた罪は重いぞ、長谷。な?大丈夫だぞ、水無瀬」
神田 が、ポンっと肩に手を置く
何でだろう?
怖くない
「そうそう。今後、水無瀬を怒鳴った奴、俺に昼飯奢る事~。な~?水無瀬」
そう言って古谷 も反対側の肩に手を置く
何で...怖くないの?
こうやって...連れてかれて…
怖い事する人居る…のに...
だって…神田も古谷も、そんな事しないって分かってるから
長谷も…間宮も…このクラスの人達は…
「み…水無瀬?!何?!泣いてる!」
「えっ?」
顔を触ると
涙が付いてくる
「お前に触られたからじゃないのか?手どけろよ、古谷!」
「んな事言ったら、神田もだろが!さっさと、どけやがれ!」
なんで…
今、泣くとこじゃなかったのに…
でも、目から出てるし
やっぱりこれは涙…
「水無瀬」
「長谷…何?」
「何が嬉しかった?」
「え?」
「嬉し涙だろ?それ」
「嬉し…涙?嬉しい時…涙出るの?」
「出るよ。今、何が嬉しかった?」
「…神田と古谷に触られても、怖くなくて...そっか、怖い事する人じゃないって知ってるからだって思ったら、長谷も間宮も…このクラスの人皆…怖い事する人じゃないって思った」
「…そっか。俺も嬉しい」
長谷が、凄く嬉しそうに笑って
なんで、長谷がそんなに嬉しくなるのか、理解出来なかったけど
「ふっ…」
あんまり嬉しそうなので
つられて俺も笑った
すると、長谷が少し驚いたと思ったら、みるみる顔が赤くなっていった
急に…
「古谷…長谷の顔…」
え?古谷も赤い
何?
この、ちょっとの間に何があったの?
見ると、周りの人達皆赤い
どういう事?
俺も赤くなってるのかな?
「長谷…」
「な...な、な、何?」
「俺の顔も赤くなってるの?」
「なっ…!…ってない」
俺だけ?
皆…赤くて?
分かんないけど…
「先生呼んで来る?」
と、言ったら
皆に止められた
「はい、じゃあ2人共手を出して」
長谷が、俺と間宮に向かって言った
手を?
「…手?」
両手を長谷に出すと
俺と間宮の右手を掴んで
「何があったら知らないけど、1回仲直りの握手」
仲直りの…握手…
握手させられた
間宮の右手は、あったかくて、柔らかくて
この手が怖い事する訳ないのに…
昨日だって、優しく触ってくれたのに...
「…間宮」
「何?」
「せっかく…優しくしてくれたのに、ごめんなさい」
「水無瀬偉い!」
「お…俺も、知らずとは言え、怖がらせてごめんなさい」
「間宮も偉い!仲直り成立!」
パチパチ パチパチ
「水無瀬、また普通に話してもいい?」
わぁっ…
「…うん!」
仲直りって凄い
こうやって皆、喧嘩して仲直りしてたんだ
「長谷、ありがとう」
「お…おう」
長谷はまた、ちょっと顔が赤かったけど
他の皆と一緒に笑ってくれた
そんな昼休みを終えて、帰りのホームルーム
先生に、間宮と水無瀬は、ちゃんと仲直りしたのか?
と聞かれ、2人でしましたと答えて
皆も見てました~とか、長谷が証人ですとか言って
先生に褒められて
そうだ
柿内先生の手も...怖くなかったんだ
高校に来てから楽しかったけど
学校来てこんな楽しい日、なかった
家に帰って悠兄に教えよう!
きっと喜ぶ
そんな事を思って歩いてたら
「水無瀬~!」
「間宮…」
後ろから間宮が、走ってきた
「どうしたの?」
「いやその…ちょっとまだ謝んなきゃなんない事あって...」
謝る?
「もういいよ。仲直りしたもん」
「…っ…そう…なんだけど……」
「間宮?」
「ちょっ…ちょっと、そこの公園寄ってかない?」
「いいけど…」
間宮…変…
公園のベンチに間宮と座る
ちょっと薄暗くなってて
子供達が、次々と帰って行く
間宮はと言うと…
下向いて、何かブツブツ言ったり
周りをキョロキョロ見たり
「間宮?」
「あっ!えっと…あの…」
俺が声を掛けると、更に挙動不審になって
「み…水無瀬は、彼女居た事ある?!」
え?
「ない…けど…?」
「うっ……そう…だよなぁ~」
うん
友達も居なかったしね
なんか、1人で下向いたまま、ブツブツ頷いたり、首振ったりしてたと思ったら
「水無瀬!」
「何?!」
びっくりした
え?
ベンチの上に正座しだした
「ごめんなさい!!」
「……え?!」
ベンチで土下座された!
「な…何やってるの?間宮。ちょっと…頭上げてよ!」
子供達も皆帰った後で良かったよ
「いや、これだけじゃ足りない」
そう言って顔を上げると
「好きなだけ殴ってくれ」
な…?
「何言ってるの?間宮」
「俺…水無瀬に、それだけされても足りない位の事したんだ」
「?…でも、俺全然覚えがないよ?」
「だって...水無瀬が…寝てる時、勝手に!したんだ。ごめん!」
そう言って、また土下座をする
「ちょっと…寝てる時?でも俺、別に困ってる事ない…って言うか…間宮の前で、寝た事あったっけ?」
「……うん...だから…言わない方がいいのかなとも思ったんだけど…水無瀬に嘘ついたまま、友達ではいたくないから」
友達…
え?
じゃあもう…友達って事?
「水無瀬…」
間宮が顔を上げる
「俺…寝てる水無瀬にキ…キ…キスしました!ごめんなさい!!」
ゴッ!!
えっ?
今の音…
「ちょっと…間宮、大丈夫?!凄い音したよ?」
起こそうとするが、ベンチに頭付けたまま起き上がらない
「それから…水無瀬の許可なく、勝手に後付いてって、水無瀬の家の中入りました!ごめんなさい!」
「……え?間宮、俺の家来たの?」
全然…記憶にない
「水無瀬…心配過ぎて……迷惑だって、ダメだって分かってて、付いてきました!」
だから…俺、記憶ないまま
ソファーで寝てたんだ
「じゃあ…間宮が、ソファーに寝かせてくれたんだ?俺…昨日帰った記憶あんまりなくて...何処から運んでくれたの?」
「……え?」
間宮が、ようやく起き上がった
「水無瀬…怒ってないの?」
「怒ってないよ。間宮、俺具合悪いの見て、運んでくれたんでしょ?ありがとう」
「えっ?!違っ…違わないけど!その…階段上がる辺りから、辛そうにしてて、ドア開けたとこで力尽きたから、そのまま運ばせてもらった」
「階段の下じゃなくて良かった」
それにしたって
そんな大柄でもない間宮が、ソファーまで運ぶの大変だ
「あんな風に言ったのに、心配して来てくれて、ありがとう」
「い…いや!待って!初めの謝罪覚えてる?!俺…寝てる水無瀬に…キスしたんだよ?!」
「うん...何でしたの?」
「ゔっ…!ごめんなさい!」
ゴッ!!
「ちょっ…ちょっと間宮、ほんとに頭、大変な事になっちゃうよ」
「お…おぉお…俺…」
大丈夫かな?
「間宮、だい…」
ガバッ
「水無瀬の事…好き…だから…」
え?
「だから……そんなの…分かるだろ?俺だって、我慢した!そんな…水無瀬の許可もなく、しかも、具合悪くて苦しんでるのに……で…でも……汗かいてて…胸元見えてて…って、俺が脱がせたんだけど…苦しそうな声聞いてたら……気付いたら…してた…ごめん……気持ち悪いよね。水無瀬…これは…ノーカウントだから。初めての彼女がファーストキスだから…俺のはっ…忘れて...…なかった事…に…~っ!」
どうしよう
こういう時、どうしたらいいのかが分かんない
間宮、俺の事好きって言ってくれた
でも、なんか俺にキスした事で凄く苦しんでる
「えっと…ごめん、間宮。俺とキスした事が、間宮を苦しめてる?」
「……へ?」
違う?
「ごめん…よく、分かんない。どうすれば、間宮、楽になる?」
「お…俺じゃなくて、水無瀬。水無瀬が辛くて悲しいだろ?」
「?…俺は、辛くも悲しくもないよ?間宮は好きって言ってくれるし、嬉しいよ?」
「えっ...…ぇえっ?!うっ…嬉しいの?!」
「?……変?」
分からない事が多すぎる
「へっ…変じゃない!じゃあ…水無瀬も俺の事好き?」
「うん」
「~~~ぃやったぁ~~!!」
間宮が、右の拳を突き上げた
そんなに嬉しい事なのかな
俺は嬉しいけど
間宮は俺だけじゃないのに
「あっ!!」
今度は何?
「どうしたの?」
「水無瀬…もしかして、好きの意味分かってない…とかない?」
「好きの…意味?」
「うわぁ~!そうだった~!ぬか喜びだ!うお~~!!」
間宮が頭を抱えてる
「えっと…間宮、大丈夫?」
「水無瀬~」
「何?」
「恋って、した事ある?」
「恋…ない…と思う」
「うっ……やっぱり…そうだよね…」
「それが…間宮の苦しんでる原因?」
「俺は…水無瀬に恋をしました。男だけど、恋愛的な意味で、好きです。って、事を…さっき……言いました…恥ずっ!」
俺に…恋
恋愛的な意味で…
それは…どういう事?
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