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TPO
電車に乗って、昨日の事を思い返す
「…っ…ごめっ…悠稀っ...ごめんっ…」
凌久が、どんなに我慢してくれてるのか
少しは分かるつもり
だから、ありがとうって伝えようとしたら…
凌久が、我慢の限界を超えた
俺が…泣かせたのに
凌久は…ごめんって言う
絶対に…俺を責めない
甘え過ぎた
分かってたのに
こんなになるまで
凌久に無理させた
凌久は
泣いて…泣いて...
泣き疲れて寝るまで泣いた
泣かせた
顔も…髪も…グシャグシャ
「ごめんね…」
顔に張り付いた髪の毛を避ける
「タオル…借りるね」
凌久の体を拭いていく
いつも優しい凌久
あれからも何度も気持ち伝えてくれて
大切にしてくれて
けれど
あまり、2人で出歩くとか
何て言うか
セックス以外の
恋人らしい事を
求めてこなかった
我が儘自体言ってくれないんだけど
言われたからって
色んなこと付き合えるかと言われれば
無理なんだけど
少し…不安になる
絶対そんな事ないと言える程
凌久の言葉も
触れ方も
眼差しも優しい
なのに
それでも
セフレ
そんな文字がちらつく位には
不安があった
その
見えない一定の距離を
俺から近づいてっていいのか
気を遣ってくれてるだけ?
恥ずかしいだけ?
それとも…
何か凌久にとってのトラウマみたいのがある?
明日も学校かとか
そういう話はするけど
明日は時間空いてるかとか…
聞かれた事ない
凌久は最初から俺優先で
暁優先で
だから…だと…思ってきたけど
凌久に布団を掛ける
「凌久…シャワー浴びさせてもらうね」
昨日…
今日の予定を伝えてデートっぽい事したくて
凌久が、前に言ってたお店に行こうと誘ってみた
予想外の…
とんでもなく喜んでくれてる凌久を見て…
後悔した
ぐずぐず考えてないで
もっと早くこうすれば良かった
「…くっ……はぁっ……はっ…うっ……はぁっ…はぁっ……凌久っ……凌久っ…くっ…っ…あっ…!…~~っ!」
シャワーを浴び終わっても
凌久は熟睡だった
「凌久…ごめんね」
チュッ
頰にキスをしてもピクリともしない
また…泣いた?
さっきちゃんと拭けてなかっただけ?
違う…
目頭の辺りに…
少しずつ涙が……
「…っ…ごめんっ…ごめんね凌久っ…」
優しく頭を撫でて
沢山キスをする
額に 鼻に 目に 頰に 唇に
夢の中でも俺…泣かせてる?
ごめんね
このまま隣で一緒に寝てあげたいけど
起きた時1人にしたくないけど
時間……
その辺からメモ用紙を見付ける
えっと…
えっと…
暁が帰って来る前に家に帰るね
こんな時すら一緒に居れなくてごめんね
「…っ…ごめんね…凌久っ……」
シャワー浴びさせてもらいました
目…腫れると思うから冷やしてね
後で連絡します
それから...
あと…
なんて書けば少しは安心する?
泣いて…起きて…
暗い中起きて…
なんて伝えたら……
愛してる
…書いてもいいかな
俺だったら嬉しい
けど…
凌久は?
もう…俺に疲れてたり…してない?
言われたら…迷惑じゃない?
「……はぁ~…」
何度かペン先を紙に置いてみては、やめて
結局、悠稀 と結んだ
もう帰らなきゃ
これが…ここに来る最後だったりして…
凌久の家…
仕方ない
それだけの事…してきた
「……っ…凌久…ありがとう」
最後に…少し長めのキスをして
凌久の家を出た
どうしよう
凌久、優しいから
疲れたとか
俺がおかしいとか
そんなの言わないで
自分が悪いとか言って……
別れるとか…
言わないかな
家に帰っても落ち着かず
起こすのも悪いかと思ったけど
『凌久、起きれた?』
『沢山泣かせてごめんね?』
『ちゃんと目、冷やしてね?』
ご飯…作らなきゃ
ご飯支度してても
全然効率良く動けない
凌久…
まだ寝てる?
それとも…
俺の名前だから見ない?
『凌久、怒ってる?』
『明日、学校で会えるよね?』
これで終わり?
もっと早くに
ちゃんと話せば良かった
どうしよう…
『凌久』
『俺の事、嫌いになった?』
凌久…
凌久…
嫌だよ…
このまま…
これっきり……
伝えたい事伝えないままなんて嫌だ
凌久…
『俺は、凌久の事好き』
『ほんとはメモに書きたかった』
『愛してる』
暁が帰って来たのは覚えてる
一緒にご飯食べた…よね?
体調も大丈夫って言ってたし
言ってたよね?
「暁、体調大丈夫?学校でも大丈夫だった?」
「…大丈夫だったよ?」
不思議そうな顔…
きっと、さっきも聞いたんだ
頭が…全然働かない
既読…ついたのに
凌久から全然返ってこない
暁がお風呂に入る
大丈夫かな?
ヴヴ ヴヴ
きた…
恐る恐る…
携帯を見ると…凌久の文字
ゆっくりと開く
『爆睡して、さっき起きた!』
『シャワー浴びたから、目冷やす!』
あ…
「はぁ~~っ…」
普通に返してくれた
シャワー浴びてたんだ
ヴヴ ヴヴ
『嫌いになってない!』
こんなに…
!に感謝する事ない
!が付いてるだけで…
なんか…いつもの凌久って感じがする
「…ふっ…嬉し…」
ヴヴ ヴヴ
『俺も好きだよ』
「…っ…うんっ……凌久……」
それは知ってるんだ
だって…凄く伝えてくれるから
でも…それに全然応えてあげられてないから
もう…辛いから……とか……
ヴヴ ヴヴ
『俺も愛してる』
「…っ!~~ぅっ…凌久っ…」
こんなんなっても…
応えてくれるの?
こんなに凌久に我慢させて
傷付けてきたのに...
離れないで…居てくれるの?
甘えていい?
信じていい?
この言葉に…
乗らせて貰っていい?
結局…
その後、暁がお風呂から出てきて
体調大丈夫か確認して
自分もお風呂入って
頭の中は、ずっと
俺も愛してる が浮かんでて
のぼせそうになって
ぼ~っとしたまま
寝てしまった
そして、朝から
そんなのが、どっかに吹き飛んでってしまう様な
暁からの衝撃的な話を聞き
電車に乗って思い返したら
なんか
凌久に会うの…
恥ずかしい様な
不安な様な
嬉しい様な
「悠稀!おはよ!」
え?
「りっ…り、り、り…凌久!」
ちょっと待って!
まだ…心の準備が…まだ……
「……え?ちょっ…悠稀…ちょっと…こっち!」
「えっ?なっ…何?!」
凌久が手を掴んで歩き出した
凌久…ここ…学校……
校舎の陰の、人気のない場所へと連れて来られる
え?…凌久……え?
ここで……え?
凌久が手を放すと
「っはあ~~っ…悠稀…お前…なんちゅう顔してくれてんだよ…」
「…え?顔?…俺の?」
「そうだよ!そんな顔、外でしちゃダメだろが!」
「……どんな顔になってるの?」
「……っメチャクチャ可愛い顔……そんなんっ……他の奴らに見せるなよ…な……」
えっ?
や…ヤキ…ヤキモチ?!
1回も妬かれた事ない
暁以外だけど…
そんなの…言われた事ない
「凌久!」
ガバッと凌久に抱き付く
「んなっ?!ちょっと…誰も来ないと思うけど…学校だから…ちょっと…悠稀…」
「凌久…ヤキモチ…妬いてくれたの?俺に?」
「っ!……ごめん…あんまり…色々言わないつもり……なんだけど…ちょっとさっきのは……我慢出来なかった」
凌久が…我慢出来なかった
ぎゅ~っと凌久を抱き締める
「…悠稀?嫌だった?ごめん」
「嬉しかった」
「……え?」
「凌久が…俺に我が儘言ってくれた…嬉しい」
「…ふっ…変な奴。怒るとこじゃねぇの?」
「嬉しい。いつも我慢する凌久が、我慢しないで…我が儘言ってくれて…嬉しい」
「………っ…変な奴」
「凌久…昨日のほんと?愛してるってほんと?」
「んなっ?!」
凌久が、バッと俺から離れた
……えっ?
「おまっ…お前……お前はっ……」
あれ……
俺…見間違えた?
言って欲しくて…
俺の妄想が記憶になってる?
「あっ…ごめんっ……なんか俺…変な事…」
「変な事じゃない!けど!TPOってもんがあるだろが!」
「……え?」
「すっとぼけた顔してんじゃねぇよ!お前!今日の予定を言ってみろ!」
「これから講義1個と、15:00~20:00までバイト」
「講義終わったら、俺ん家来い!」
「……いいの?」
昨日が最後かもしれないと思った
こんなすぐに
凌久の家に行けるなんて…
「だから!その顔!」
「だって…しょうがないよ。嬉しいもん」
「うぐっ……はぁ…お前はもう、なるべく下向いてろ」
「うん♪︎凌久がそうして欲しいなら、ずっと下向いてる♪︎」
そうして、講義の後
ご飯も食べずに凌久の家に行き
2人してベッドに腰かけ…
「凌久?話?」
よく見ると…
やっぱり少し目…腫れてるかな
「うっ…!だっ…だからっ……俺も………してる」
「…え?ごめん。なんか…最後なんて言ってるのか、聞き取れなかった」
「だ...だから!俺も!悠稀の事!あ……愛してる」
TPO
学校では…言えなくて…
わざわざ家まで連れて来て言ってくれてんだ
「……っありがとう…っ…俺もっ…凌久の事愛してる」
「聞いた。なんで、そんな普通に言えるんだよ?ってか、学校で言うなよ……たまたまでも…そんなセリフ…誰かに聞かれたくない」
凌久が…好き
「凌久……っ好き……大好き……うっ…離れたくないっ……愛してる……別れたくないっ…よ……」
「……泣くなよ。俺もそうだって言ってんのに、なんで別れ話だよ?」
「…っ…凌久っ……俺がして欲しい事はっ……凌久がしたくなくてもっ…我慢してするからっ……」
「……そんな風に思ってたのか……ごめん」
凌久が抱き締めてくれる
「凌久っ…悪くない……そうさせたのはっ…俺っ…」
「そうだなぁ…自分さえ我慢すればいいとか…自己満足だな。結局、悠稀の事、困らせちゃったし…ごめん。昨日、途中で終わらせたまま、寝ちゃった。悪かった」
「そんなの!全然…きのっ…帰る時っ……もう…ここに来れないんじゃないかって……っ思って…」
「…そっか。不安なまま1人で帰してごめん」
「凌久っ…がっ……やなっ…事とか……今日みたいに…言って……我が儘っ……言ってくれるとっ…安心するっ…」
「ははっ…じゃあ俺…ずっと悠稀の事不安にさせてたんだ……っごめん」
ぎゅ~…っと抱き締めてから、凌久が言った
「悠稀…我が儘…言っていい?」
「え?…うん!」
「俺以外の奴の前で…あんまり可愛い顔…して欲しくない」
「自分では分かんないけど…多分、凌久が居ないと大丈夫だと思うよ…」
「1時間とかでもいいから…どっか歩いたり、食べに行ったり…沢山したい」
…わぁ……デートだ
「うん!俺もしたい!」
「バイトまで…セックスじゃなくて…キスして、ずっと抱き締めてたい」
「……凌久…俺もっ……そうしたいっ…」
そうして1時間
繋がってる部分なんて
手と…唇と…舌だけなのに...…
セックスとは違う
幸福感に包まれて……
初めて…
今日バイト…休んじゃダメかな…
なんて、考えが浮かんだ
なんか…頭がふわふわ
「悠稀…大丈夫?」
「……え?」
「ふっ…やっぱりバイト先まで送ってっていい?」
え?
凌久…一緒に行ってくれるの?
「いいの?」
「悠稀がいいならな」
少し…困った様な顔で、笑ってそう言った
凌久の家を出て駅へ向かう
「あっ...また、可愛い顔してんぞ!」
「だって、凌久とバイトまで行けるなんて、デートみたい」
「うっ…!破壊力あり過ぎだ...抑えろ」
「凌久も、俺のとこでバイトする?」
「バイトなぁ…しようかなぁとは思うんだけど、なんか踏み出せず…だな」
「凌久が一緒のバイトなら、バイトまでも、バイトでも一緒だよ」
そんなの…毎日が幸せでしかない
「そんな顔で誘惑するな!俺は、悠稀みたいに、何でも覚えてテキパキ動けないんだ」
「俺だってそうだよ。先輩達に聞きながら、たまにミスして注意されながら、やってるんだよ?」
「うぇ~っ…怒られるの苦手~。悠稀、怒られて泣かないの?」
「ふっ…泣かないよ。それに、怒るんじゃなくて、注意ってか指導だよ」
「ふ~ん…?」
あっ…
でも……
「やっぱり、凌久と同じとこでは働きたくない」
「えっ?!それはそれで、なんで?」
「凌久に、ミスしてるとこ…見られたくないし……凌久に、その気がなくても...…他のスタッフとか…お客さんに…凌久がモテてるとことか……おんまり…見たくない」
「…は?俺が、いつそんなにモテた?」
「…凌久が……知らないだけだもん」
しょっちゅう色んなとこで
楠 君、合コン来ないかな?
楠誘ったら、女子来るんじゃね?
声が…聞こえてくる
ただ、なんとなく歩いてるだけで
すれ違う視線が…凌久を見てる
凌久は…全然気付いてない
「お~い」
「?」
「電車乗ったけど、何処で降りるんだ?乗り過ごすなよ?」
電車…乗ってたんだった
「…うん」
凌久を見る視線が嫌で
凌久と歩く時
なるべく前だけを見る
電車から降りて歩いてると
「悠稀さ~…俺で、ヤキモチ妬いてたら、俺なんか、ヤキモチ妬き過ぎて、悠稀と付き合ってくの、不可能レベルなんですけど」
「……?」
何の話?
「なあ、電車の中でも、じ~っと悠稀の事見てた、女の人居たの気付いてた?」
「それは、俺じゃなくて凌久を見てたんだよ」
「なんでそうなるかなぁ?じゃあ、今すれ違った人が、悠稀を見てったのは?気付いた?」
「俺は…凌久と歩く時は、前だけ見てる事にしてるの!色んな人……勝手に凌久の事……見てくから…」
俺の恋人なのに
ただの友達じゃないのに
男同士だから分からないんだ
「ふっ…俺は…密かに自慢してる」
「えっ?凌久…モテたいの?」
「そうじゃない。悠稀をさ、いいなぁ…って目で見てく奴らに、いいだろ?こいつ、俺と付き合ってんだぞ?お前らの知らない顔も声も、知ってんだぞ?って、心の中で思って、笑ってる」
「凌久…そんな事思ってたの?」
「じゃないと、やってけないだろ?!バスケ部の水無瀬君は、モッテモテなんだから!」
また!
バスケ部の水無瀬君って言っとけばいいと思って!
「やめてよ!そのバスケ部のってやつ…もうバスケ部じゃないし、馬鹿にされてるみたい」
「馬鹿になんかしてないよ。同学年だけじゃなくて、後輩からもキャーキャー言われてた水無瀬君が、俺の彼氏なんだなぁ…って幸せに浸ってるの」
「……ほんとに、そういう意味?」
「ほんとに、そういう意味」
「……なら、いいや」
「あっ!また…そうやって、簡単に笑うんじゃない!」
「凌久と居るんだから、無理だよ」
そうして、幸せな気持ちのまま
俺はバイトへと行った
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