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最高の生徒達
「悠兄、ジェットコースターって、乗った事ある?」
朝食を食べながら暁が聞いてきた
「あるよ。そっか、宿泊研修の場所、そういうのあるもんね?」
「うん。皆が楽しみって言ってた」
「でも、高いとこが怖い人とか、急降下で降りるのが苦手な人とかいるから、ちゃんと初めて乗るって言うんだよ?そしたら、そんなに怖くないのから乗せてくれると思うから」
「うん、分かった」
ほんとは…
家族でそういうとこ行きたかったけど
家族で温泉とかは泊まりに行けたけど
外食…デパート…
人が多くてガヤガヤしてるとこに
少しずつ慣れてったから…
慣れた頃には受験近付いてて
受験終わったら、俺達の引っ越しやら何やらで
中学で…研修旅行も修学旅行も行ったけど
無事行って帰って来れたけど
全然…行く前も行ってからも楽しそうじゃなくて
多分学校も…
俺達を安心させる為だけに行ってたんじゃないかって思ってた
「暁、遊園地大丈夫かな…」
「大丈夫じゃなかったら、先生に言って休んでるよ」
「先生に、ちゃんと言える?」
「うん。柿内先生は、ちゃんと俺の話聞いてくれるし、何でも教えてくれる」
「…そっか」
柿内先生は…か…
そうじゃない先生も居たんだろな
「はぁ~…」
「悠兄、大丈夫だよ」
「俺も一緒に付いてきたいくらい…」
「…ふっ…悠兄が心配だから、付いて来ましたって言っても…先生もクラスの皆も、いいよって言ってくれそう」
あ…
ほんとに嬉しそうに…
「そっか。暁が、そんな風に思えるなら大丈夫かな」
「うん。悠兄、俺楽しみだよ?」
「…うん。今週末、色々買い物に行こうね?」
「うん!」
けど…一応…
先生には言っておこうかな
「?…悠兄、玄関まで行くの?」
「うん。遊園地とか、暁初めてだからさ。一応先生に、よろしくお願いしますって、言っておくよ」
「じゃあ…職員室一緒に行こ?」
「うん」
ちょっと嬉しそう
お兄ちゃんと一緒に居るとこ見られて
嫌じゃないのかな
嬉し
「水無瀬~…はよ~」
玄関を上がると、暁が声を掛けられた
「あ、長谷。おはよう」
「おはよう。長谷…君?」
「…え…お…おはようございます」
「悠兄、俺のクラスの長谷。長谷、俺の兄ちゃん」
初めて聞く名前
けど…凄く普通に話してる
「いつも暁がお世話になってます」
「い…いえ!」
「悠兄、長谷はね、嬉し涙教えてくれた人」
「うえっ?!ちょっと…水無瀬…そういうのいいから!」
「長谷…また顔赤くなってるよ?」
「イチイチ言わなくてよろしい!」
普通に…
学校の友達と楽しそう…
良かったね…暁
「うい~…長谷、何やってんの?お、水無瀬、はよ~」
「おはよう、古谷」
「…って…」
「おはよう、古谷君。暁の兄です。いつも、暁がお世話になってます」
「…あ…おはようございます…あ…あの…!水無瀬は…ちゃんと皆で守ってるので…大丈夫です!」
「古谷…?」
なんだか、また少し顔を赤くした
聞いた事ない子まで
暁に話し掛けて
俺に…暖かい言葉を掛けてくれる
ほんとだね
暁…大丈夫だね
「暁、職員室分かるから大丈夫だよ。もう皆と教室行きな?」
「……その方がいい?」
あ…
「どっちでも。暁がしたい方でいいよ」
「悠兄と…職員室行く」
「そっか。じゃあ…後でまた暁、宜しくお願いします」
ペコッと頭を下げると
長谷君も、古谷君も
「はい。水無瀬、後でな~」
「教室で待ってんぞ~」
「うん」
暁に普通に話し掛けてくれる
多分…話し方も態度も皆と違う
高校生になって
友達よりお兄ちゃん選ぶなんて変わってる
そういうの…
全然気にしてないみたいだった
「暁…ほんとに皆いい子達だね」
「うん。皆優しい」
あの…暁が…
凄く優しい人達に恵まれたのは大きい
けど…
どんなに辛くても
学校行き続けたからってのもきっとある
だって…
それじゃなきゃ、きっとこの学校来れてなかった
今居る人達に会えてなかった
「暁が頑張ったお陰だね?」
「?」
元々が喋らないから始まってて
何か学校であっても教えて貰える訳でもなく
普段見える場所に怪我はなくて
ただ…
1番話す様になった俺とも…
あまり喋らない日とか
抱いた時に見えた痣とか
何度か聞いたけど話してくれなくて
話さないなら思い返さない方がいいかと思って
あまり聞かなくなった
何があっても
義務かの様に、ご飯は食べて学校行くから
分かりづらかったけど
多分…苛められてたんだと思う
ほんとは学校行きたくなかったんだと思う
母さんも何に気付いたのか
休みたい時は無理しなくてもいいのよって
時々声掛けて
何度か学校に、そういう話しに行ってたけど
本人が何も言わないから…
明らかな怪我もなく…
結局、家で愛情を注ぐ事にしたらしい
暁が、職員室から先生を呼んできてくれた
「おはようございます。突然朝にすいません」
「おはようございます。水無瀬、なんか朝からニヤけてると思ったら、兄ちゃんと来たのか」
「はい」
ほんとだ
先生と嬉しそうに話してる
「あの、電話でも良かったんですけど、せっかく送ってきたのでと思って…」
「何かありましたか?」
「中学で修学旅行とかは行ってるんですけど、人混みが得意ではなくて、家族でも遊園地とか行った事ないんです。もしかしたら、ちょっと怖がるかもしれないので…」
「…そうでしたか。水無瀬、不安か?」
「先生も皆も居るから大丈夫」
泣きそう…
暁から…そんな言葉が出てくるなんて
「一応、注意して見る様にはしますが、水無瀬の周りには、優しい人達が沢山居るので大丈夫だと思います」
「さっき、長谷君と古谷君に声掛けられてて…少し安心しました」
「…間宮も、神田も…皆、水無瀬の事見守ってくれてます。自分で言うのもなんですが、なかなかいいクラスなんです。な?水無瀬」
「はい。先生と、皆のお陰で学校楽しいです」
あ…
もうダメだ
「…え?!悠兄なんで泣いてるの??」
嬉しいからだよ
「…って…なんで先生まで泣いてるの?!」
え?
先生も?
職員室の前で泣く俺と柿内先生を見て
人が集まってきた
「あ…あの、それじゃ俺…そろそろ帰ります」
「はい…水無瀬は、お任せ下さい」
「悠兄…大丈夫?」
「大丈夫。長谷君に教えて貰った嬉し涙だよ」
「あ…うん。そっか」
「じゃね、暁。失礼します」
大丈夫だ
きっと暁…
遊園地も楽しいって思える様になる
沢山沢山辛い事乗り越えて
頑張ってきたから
凄く優しい人達与えてくれたんだ
俺は、帰り道も
なかなか涙が止まらなくて
通りすがりの人達に
不審そうに見られながら歩いた
びっくりした
先生と悠兄が突然泣き出して
何事かと思った
「先生、大丈夫?悠兄が泣いたから?」
「それもある…けど…水無瀬がっ…学校楽しいって言ってくれたから…」
「柿内先生、どうしました?」
「カキピーめっちゃ泣いてるやん」
1回引けてたのに
また人が集まって来た
「俺は…いい生徒達に恵まれた~っ!水無瀬~っありがとう~っ!」
ガバッと俺に抱き付いて、頭と背中をワシャワシャと撫でた
嬉しい
「柿内先生!それは、ダメです!」
「カキピーがセクハラしてる~」
バッと俺から離れると
「せっ…セクハラじゃない!断じて違うぞ!」
また…出てきた
このセクハラのせいで
柿内先生の手は、いつも離れてく
「セクハラ…嫌い。先生が…撫でるのやめちゃう」
俺がそう言うと、一気に静まり返った
え…
俺…変な事言ったんだ
「ごめんなさい。俺、変な事言いました」
「水無瀬、先生に頭撫でられると嬉しいのか?」
「嬉しいの…変ですか?」
「…変じゃない!俺は、セクハラで訴えられようと、水無瀬の頭を撫でる!」
そう言って、優しく笑いながら撫でてくれた
「お~。カキピーが公然セクハラ宣言したぞ~」
「若いのに御愁傷様~」
「こ~ら。先生を、からかわないの!はい、散った散った!」
「げっ…!鬼の林だ!」
「林ババァだ!」
「くぉら…聞こえてるぞ~」
教頭先生が出て来ると、皆逃げてった
「教頭先生、ありがとうございます」
柿内先生が挨拶したので、俺も挨拶する
「教頭先生、おはようございます。ありがとうございました」
よく…分かんないけど
「はい、おはようございます。水無瀬君、柿内先生に頭撫でられるの嬉しいんだ?」
「柿内先生も、クラスの皆も、怖い人じゃないので、触られても大丈夫だし、先生に撫でられるの嬉しいです」
「…水無瀬……」
「…そう。学校楽しい?」
「はい。学校、楽しいので…毎日色んな話、兄ちゃんに出来ます。そうすると、凄く喜んでくれます」
ずっと…
話せる様な楽しい事なかったから
多分…
父さんも母さんも悠兄も
ずっと聞きたかったんだ
やっと…
少しは安心してもらえる
「そっか。じゃあ、今日も楽しい1日になりますように。水無瀬君が…生徒が楽しいと、先生達も楽しいし、嬉しいから」
「…はい」
「水無瀬、教室行ってろ」
「はい。失礼します」
多分…ほんの少し前までは
全然理解出来なかった
なんで、俺達が楽しいと、先生達も楽しくて嬉しいのか
だって、先生達は仕事で学校に来てるだけ
けど…
柿内先生に会って
なんか…そういうだけじゃないって
まだ…ちゃんとは分かんないけど…
なんとなく分かる
俺達が楽しいと、先生達が楽しい
そう思ってもらえるのが
嬉しいって思うから
「お、来た来た」
「水無瀬、兄ちゃん、めちゃめちゃイケメンだな?」
「やっぱり、そうだよね?」
俺だけに、そう見えてるのかと思った
「何だよ?やっぱりって。どう見てもイケメンだろ!」
「大学生か?」
「うん」
「いいなぁ~!あんなイケメンの大学生、毎日合コン引っ張りダコだろ?」
ごうこん…
「ごうこんって…宴会みたいのだよね?悠兄まだ、お酒飲めないし行かないよ?」
「え~っ?嘘だ!あんなの、合コン誘われ放題だろ!っつか、合コンは、彼女作るのが目的だから、酒は別に飲めなくてもいいんだよ」
誘われ放題…
「分かんない…夜居るから、そう思ったけど、日中とか…行ってるのかも…あと、悠兄…多分彼女居るから…あんまり関係ないのかも」
「ぅお~!あんなイケメンで彼女一筋、合コンも行きませんって?ズル過ぎだろそれ!」
「マジか?!性格までイケメンかよ!」
よく…分かんないけど
悠兄が、褒められてるのかな
もう…席に着いていいかな
「おはよう、間宮」
「おはよう、水無瀬。朝から大変だったね?なんで、今日兄ちゃん来たの?」
「俺、遊園地みたいなとこ、行ったことないから…初めて行くから、一応先生にお願いしておくって」
「ああ…宿泊研修のね。皆居るから大丈夫だよ」
「うん。俺が…普通じゃないから、心配なんだ」
ガラッ
「お~い、席に着け~ホームルーム始めるぞ~」
先生…いつも通りだ
皆も…いつも通り
良かった
今日も楽しい1日
その…少し前
ガラッ
「長谷、古谷、はよ~」
「……見た」
「見ちゃった」
「なんだ?2人して…トイレの花子さんでも出たか?とりあえず手洗って来いよ。それから、花子さんの容姿を詳細に…」
「神田…花子さんじゃねぇよ…とんでもねぇイケメンだ。な?古谷」
「マジか。花子さんの正体イケメンか。つまらん」
「じゃなくて!水無瀬の兄ちゃんだよ!長谷と挨拶してきたんだよ!めちゃめちゃイケメンで…優しかった…惚れる」
「へぇ~?水無瀬の兄ちゃん来てたんだ」
「そんなイケメンなの?」
「マジ?今出て来る?」
「いや、これから職員室に向かうと言っていた」
「それは、ほんとか長谷。では、偵察隊第1号。山田、行って参りま~す!」
「お、間宮来たな」
「はよ~、古谷。何?」
「今、水無瀬のイケメン兄ちゃんが、学校に来ている」
「えっ?そうなの?何で?」
「何でかは知らん。女に餓えてる俺達は、せめて美しい男を見ようと、順番に偵察に行っている」
「おっ…俺も行く!」
「よし、では、偵察隊第4号5号と交替だ。広瀬と行け!」
「交替か。堪能した。では、成功を祈る」
何?
俺のクラスの奴ら皆
中2病なの?
そっと廊下の角から覗き込むと
カキピーが出て来て
水無瀬の隣の兄ちゃんに挨拶してる
あれが…
水無瀬の兄ちゃん
ほんとだ…綺麗なイケメン
「おい、間宮…なんか…イケメン泣いてね?」
「ってか…カキピーも泣いてない?」
どういう状況?
「広瀬、間宮、交替だ」
え?
短くない?
「間宮。帰ってこの状況を報告だ」
「…うん」
教室に戻ると、広瀬がペラペラと全部喋ってくれた
その後も、続々と報告が入り
学校から帰ってく、水無瀬の兄ちゃんを
窓から皆で見送り
カキピーが、いい生徒達に恵まれたと水無瀬を抱き締め、水無瀬の頭と背中を撫で
水無瀬が嬉しそうにしてたのに
セクハラだと騒がれ
撫でるのをやめると、水無瀬が落ち込み
カキピーが、デカイ声でセクハラで訴えられても頭を撫でる宣言をし
また皆に騒がれ
そこで鬼の教頭林登場
偵察隊も退散
…って、凄くない?
うちの隊員の情報収集能力
そして、皆で話し合った
水無瀬が嬉しいなら
カキピーが頭を撫でても、あまり騒がない様にしよう
若いのに人生懸けて、水無瀬を喜ばせようとするなら
皆でカキピーを守ってあげよう
俺のクラスの奴らは
最高だ
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