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檜山 奏

1泊2日会えなかった愛する弟に たっぷりと愛情を注いで可愛がって まあ… なんなら悠稀に会えなかった不安で、ヤッちゃってんのかもしんないけど? もし、そうなら… あいつ大丈夫かなぁ 声出なくなる程 暁との事気にしてくれてるとは思わなかった 『たっぷり暁孝行して、暁充電したか?』 そう送ると 『うん。ありがとう。ごめん』 と…帰ってきた ありがとう…ごめん まあ… 俺に対して、悪いと思ってるからなんだろうけど なんか… 『何?その、別れ話みたいなセリフ』 こう見えて結構繊細さんだよ?俺 ドキドキしちゃうからね だって絶対悠稀が別れる時 それ、言うだろ… って… え? ちょっと… なんで既読になってんのに返ってこないの? なんか…してんだろうけど… 冗談で送ったのに マジんなっちゃうだろが なんか送れよ 『ちょっと!ここで既読スルー怖い!』 いや、画面開きっぱなしで なんか、してんだろうけどさ トイレか? なんか返信してから行けよ! ………暁と…何かあった? 実は彼氏許せませんとか 暁とヤッて… また色々考えちゃったとか あり得る あいつ、ウダウダ考えるの得意だから それで… やっぱり別れた方がいいと思うとか勝手に… 勝手に決めさせてたまるか 悠稀が別れたいなら、しょうがない けど! 俺が…とか考えてんなら… 「もし…」 「もしもし!何?!怖いんだけど?!」 「あ…ごめん…」 泣いて…る? 「いや、ごめんじゃなくて!…え?ほんとに…別れたい…とか…なの?」 「あ…いや…そうじゃなくて…」 「そうじゃなくて…何?」 「何って…別に…」 そんなんじゃない! って、言ってくんねぇの? 別れたりなんかしないよ! って… そうじゃなくて、別にって…何? なんでそんな 泣きそうなの? 「……何かあったのか?」 「……ううん…なんか…上手く…言葉…まとまらないかも…」 まとめなきゃいけない様な… 何? 「…何か…俺に伝えたい事あるの?」 「……うっ…!…ぐっ…!」 ガッ!! え? スマホ…置いた?投げた? なんか… 吐きそうだった? 「悠稀…?」 どっか…行っ… トイレ? トイレで吐いてんのか? 何… どうした? 昨日は、普通に返してた 返してたけど… 顔見てないから、分からない 「悠稀…」 財布… 鍵… 急いで家を出る 走りながらスマホを耳に当てるけど 「悠稀…」 何も聞こえない 調子悪いだけ? それで、おかしかったのか? 分からない… 文字と…声だけじゃ… 分からない 走って、走って、駅に着いた頃 ガサ…ガサガサ 戻って来た! 「…はぁっ…はぁっ……悠稀!」 「り…凌久…」 「悠稀!…はぁっはぁっ…どうした?!何?どうしたの?!」 「凌久…ごめん…え?凌久…走ってるの?」 「はぁっ…はぁっ…ごめんじゃなくて!どうしたか言え!」 「あ……ちょっと…気持ち悪くなって…吐いてた…」 「はっ…吐いてた?…なんで?風邪?」 じゃないんだろうけど… 何が起こってる? 「…そう…かも…」 これは 声だけでも分かる 絶対、そうじゃねぇだろ 「あのさっ…何か…あったんだろ?」 「ううん…ほんとに、ちょっと風邪気味かも…ごめんね?心配かけて」 俺には言いたくない事? まさかの、ほんとに風邪? いや、じゃあ、なんで泣きそうだったんだよ 「……ほんとに?」 「うん」 聞きたいけど… あんま、問い詰めない方がいいのか? 「…はぁっ…なら…いいけど…」 「ありがと。凌久…走ってたの?」 「お前が突然、訳分かんない事するから、会いに行こうと思って走ったんだろが!」 「……え?」 声出なくなって 今度は吐いて? 大丈夫か?お前… 「え?…じゃねぇよ!たった1日で、思い当たる事もねぇのに、別れ話かと思ったら焦るだろうが!」 「ごっ…ごめん!」 「ったく……」 会って… 抱き締めたい 抱き締めてあげたい けど… 何があったのか分からない 暁との何かなら 会った方がいいのか分からない 「今、駅だけど?何かあったんなら、1分でも会いに行くけど?」 「~っ…大丈夫。風邪薬飲んで寝るね。ほんと、ごめん」 会わない方が… いいんだろな… 「……はぁ…分かった。ゆっくり休めよ?明日、調子悪かったら、ちゃんと学校もバイトも休めよ?」 「うん…分かった。ありがと」 「おお、じゃな」 「うん…」 「~~~っ!なんっだよ!何が起きてんだよ!」 それすら… 教えてもらえないのか… 俺は あんなに気持ち確かめ合えたと思ったのに こんなに簡単に… 分からなくなる 明日は悠稀が午後から、俺は午前講義で こんな時にすれ違い どうして、こんな時に限って… 翌日、体調大丈夫そうと悠稀から連絡があった ほんの少し顔見るだけでもと、講義の後残って待った このまま… 訳分かんないまま フェイドアウトとか絶対ごめんだ 「悠稀!」 「…えっ?…凌久…なんで…」 「気になって待ってた………っつ~か、顔色!全然大丈夫じゃねぇだろ!」 「心配かけてごめん。でも、大丈夫だよ?」 痩せた? いや、やつれた? 「お前…今日バイト休め」 「え?…それはダメだよ。急にそんな…」 「…悠稀、俺には、今にもぶっ倒れそうに見える。そんな奴に料理運ばれて来て欲しくない」 ちょっとキツい言い方だけど こん位言わないとコイツ休まない 「っ!…そっ…だよね…迷惑だよね…分かった」 その場ですぐに電話し 何度も謝ってる 「ありがとう…じゃあ俺、行くね?」 「講義も休んだ方がいいと思うけど…」 「それは…ここまで来たから受けてくよ」 「……そっか…無理すんなよ?」 「ん…じゃあ…行くね?」 あ……今…… 絶対…何かあった 何も映し出さない ガラス玉の目… 適当に近くのベンチに座る 「…はぁ~っ…やっぱ暁がらみなんだろなぁ…」 ベンチの背もたれにもたれかかって、目を閉じる 高校で悠稀と付き合いだしてから 悠稀がバスケしてるのを見るのが 好きじゃなかった 3年の体育の授業でしか見てないが ただの高校ジャージなのに それはそれは格好良かった バスケ部のユニフォームなんて着て バッシュなんて履いちゃったりしたら そりゃもう相当格好良かったんだろう けど、俺は見た事がない 沢山の人が見てるのに  俺は見てない それを思い知らされてる様で あまり見たくなかった 体育館に行くと、高確率で 何故だかバスケをしてる奴が居る バスケをしてる奴が居ると あっという間に水無瀬君は連れ去られる 男女問わず 同級生も、後輩も バスケ部の水無瀬君が大好きなんだ 悠稀が連れ去られた時は よく、2階のギャラリーに上がって 見てるフリして、腕の上に顔を乗せて 目を閉じてた 別に… 悠稀に言えば その格好してくれたんだろう でも、そういう事じゃない 「ねぇ、ねぇ、水無瀬君。弟居るの?」 「え?…あ、うん」 「やっぱり!この前、一緒に歩いてるとこ見た!」 「え?!いいなぁ~。私も見てみた~い」 「水無瀬君がお兄ちゃんなんて、羨ましい~」 「絶対優しくて、いいお兄ちゃんだよね~」 あ… 一瞬…ほんの一瞬… 悲しそうな顔した 「ねえ、水無瀬君、弟君可愛い?」 「うん…」 「可愛いんだ~。お兄ちゃんの水無瀬君も可愛い~」 「絶対弟君も、お兄ちゃん大好きだよね~」 何… その目… 「あ~っ!」 ガタンッ 「悠稀!先生が、後で来いって言ってたんだった」 「…え?」 悠稀の前に行って、腕を掴む 「ヤッベ、忘れてた。行くぞ」 「え~っ!せっかく可愛い弟君の話してたのに~」 「この話終わってからにしてよ~」 「ちょっ…凌久…」 「うるせぇ。俺が怒られるだろが」 キーキー ギャアギャア言う女子共を残して さっさと悠稀を連れ出す 「……凌久?職員室、行くんじゃないの?」 「うん」 「……じゃあ…何処行くの?」 「…お前が元気になれる場所」 「……え?」 体育館に到着し、さっさと2階へと上がる 「ここ、はい、俺と同じ様にする」 「え?何?」 「いいから、両腕乗せる」 「うん…?」 「顔乗せる」 「え?」 「こうしてれば、泣いててもバレない」 「………え?」 全然顔乗せないで、ポカンとこっちを見てくる 「お前…ガラス玉みたいな目してた」 「え?」 「教室戻ったら、また、さっきの話の続きされるかも…泣きたいなら泣いとけ。泣きたくないなら、バスケしてる奴でも見てろ」 「っ…俺…そんな変な顔してた?」 「いや?俺は、暁の事知ってるし、そんな風に見えたけど、他の人は気付いてないと思うよ?でも、お前も気付いてなさそうだったから、そのまま泣いたら困るじゃん?」 悠稀が、俺と同じ様に腕を乗せ、顔を乗せ、こっちを見る 「…俺はっ…いいお兄ちゃんじゃないからっ…」 「ん…知ってる」 「~っうん…凌久は…知ってる」 「ん…悠稀が、そんなに悩みながらも、暁の事思ってんのも知ってる」 「してる事はっ…許されないっ…」 「ん…そうだな」 「~っ凌久……ありがとう…」 「…ん」 バスケ部の水無瀬君だって色々あるんだぞ? 何の悩みもない 順風満帆な人生とは、かけ離れてんだぞ? 弟は…ほんとの弟じゃないし ほんとの弟じゃなくても大切に思ってるのに 思ってるから 弟とヤッちゃってんだぞ? 何にもある訳ない前提で あんまり突っ込んだ話すんなよ コイツ… すぐ泣いちゃう兄ちゃんなんだから 学校じゃなかったら、抱き締められるのに 「悠稀、俺の事見えてる?」 「見えてるっ…」 「ん。んじゃ…」 自分の人差し指と中指を口元にずらし キスをし そのまま悠稀へ向ける 「後で…いっぱい本物あげる。今は出来ないから」 「っ!…~~~っ!」 少し顔を上げた悠稀の顔が ヤバ過ぎた 「なっ?!馬鹿!なんちゅう顔してんだよ!伏せろ!」 「~っ凌久っ…~っ好き」 顔を伏せたまま ほんとに、ようやく聞こえる声で伝えてくる 「あんな目になる前に、俺を見ろ」 「~っうん…」 「いっぱいキス飛ばしてやる」 「~っうん…」 しばらくそうしてると… 「水無瀬せんぱ~い!!」 下からバスケしてた奴が叫んでくる 「~っ…凌久っ…今っ…無理っ…」 顔を伏せたまま、悠稀が言う 「水無瀬先輩は、お疲れだそうだ!」 「え~っ?!」 「また今度誘ってやれ!」 「は~い!!」 そう言って、楽しそうにバスケを再開する 「凌久…ありがと」 ほんの少し顔をこちらへ向ける ほんとに嬉しそうな顔で 「おお」 体育館に居るのに バスケしてる奴居るのに バスケしに行くより 俺の傍に居る事を選んで こんなに嬉しそうにしてんのかと思うと とてつもない優越感 学校終わってから 俺の家に寄り めちゃくちゃ慰めた 「はぁ~……」 あの時みたいな目 何があった? 暁が、宿泊研修きっかけで 今まで以上に求めてくるとか? 今までにないプレーさせられるとか? 目を開いて空を見る もし、そうなら… 俺より、悠稀と、暁と、暁の彼氏が壊れちゃうんじゃないか? 「はぁ…」 下を向いてため息を吐く 俺がため息吐いても仕方ないんだけど… そもそも、ほんとに暁が原因なのかも分からないし 教えて…貰えてないし… 「どうした?」 ポンッ… と頭に手を乗っけられた 「…(かなた)…」 檜山(ひやま) 奏は、大学で再開した、小学校の同級生だ 小学生の頃は、割と仲良く遊んでた そして、男が男を好きになる事があるという事実に気付かせてくれた奴でもある 奏は、そんな事知らないだろうけど 「ラブラブな彼女に別れ話でもされたか?」 「……違う…と…思うけど…」 「違うと思うけど?何の話されたか、分かってねぇのかよ?」 「………」 そもそも、何の話もされてねぇんだよ 「ああ…あれか?ショックのあまり、全然話入ってこなかった的な?」 「……いや…」 入ってこなくなる話されてねぇんだよ 聞いてもいいのか… 「…分っかんねぇ~~~!」 「分かんねぇなら、聞けよ」 「聞いてもいいのかが、分かんねぇんだよ!!」 「はあ?」 ヤベッ つい、奏に… 「悪い。完全なる八つ当たりだ。気にしないでくれ」 「凌久が、そんなんなるなんて珍しっ…」 「……悪い…結構…余裕ない…」 「でもまあ、それはそれで羨ましいけどな」 「……ん?羨ましい?」 「そ。余裕なくなるだけ好きな人と付き合えてんだろ?ダメになるとしても、羨ましい。俺は、一生出会えないかもしれん」 奏は… 恋愛対象が男だ けど… 俺もそうだという事を、奏は知らない 「出会えるに決まってるだろ?」 「そんな簡単なもんじゃねぇよ。こんな風に話せる奴が居るだけ恵まれてる。なんか、訳分かんねぇガキのうちに言っといて良かった。ありがと、りっくん♪︎」 「りっくん言うな」 言った方がいいんだろうか 俺もなんだって でも、俺は好きな人と付き合ってて… 「そこは、いいんだよ?ひ-君だろ?可愛げのない奴だな」 「大学生にもなった男に、可愛げがあってたまるか!」 「りっくんは、今でも可愛いよ♪︎」 「じゃあ、傷心のりっくんで遊ぶな」 「ぶはっ!お前…自分でりっくんヤメロや!」 「うるっせぇ!お前が言い出したんだろが!お前も言え!ひー君ひー君!ほら、言え!りっくんの命令だ!」 「凌久?」 え? この声… 「悠稀!」 瞬間…何とも言えない後ろめたさで その場に立ち上がった 別に…何も後ろめたい事なんてしてない けど 悠稀が落ち込んでんのに 他の奴と楽しそうにしてたの見られたのが… 「あっ…ごめん。ただ、凌久がまだ居たから、びっくりして声掛けただけ……じゃ、帰ってゆっくり休むね」 「……悠稀、昨日…」 何があった? なんで吐いた? 今日は吐いてないの? 俺の家来て、話聞かせて… 「昨日?電話の途中で、びっくりさせてごめんね?」 「あ…いや…」 そうじゃなくて… 悠稀が、奏の方にチラッと視線を送り 「あ、じゃあ俺もう帰るね。せっかくバイト休んだし。大人しく寝てる」 「……ああ…そうだな。ゆっくり休めよ?」 「うん。ありがと…じゃあ」 そう言って去って行った 情けない 待てよ! そう言って引き留めた方がいいって 思えるだけの情報が何もない 暁じゃないと どうにも出来ない事かもしれない 俺が関わると 益々苦しめるのかもしれない 情けな… あ… 一瞬、奏忘れてた 「さてと、俺は帰るわ」 「そ。俺も帰るわ。凌久の家に」 「は?何訳分かんない事言ってんの?」 「いいじゃん?お前の家で、ゆっくり話聞かせろよ」 「……話せる事なんて…たいしてない」 「なんで。今のだろ?お前の彼女」 っ!! 一瞬…息止まった なんで… そんな感じの会話だったか? 友達同士に見えなかった? 「……何言って…」 「りっくん、嘘吐く時の癖、直ってないんだ?」 「なっ…!…は?!」 「ふっ…ば~か。そんな青ざめた顔すんな。俺の事知ってんだろ?あ、黙ってたからか?」 「……っどっちも…」 黙ってた上に 付き合ってる人居んの隠すって なんか、上から目線みたいな 「別に、お前らのプレー聞かせろなんて言わねぇから、安心しろ」 「はあ?!」 「まあ、りっくんのエッチ、興味はあるがな」 「ばっ…馬鹿じゃねぇの?!!」 お前が言うと シャレになんねぇんだよ! 「声デカイって。そういうのじゃなくても、彼女なら出来る話、なかなか出来ないだろ?今日じゃなくても、訳分かんなくても聞いてやるっつってんの」 「……俺…さっき、そういうの分かる感じで、悠稀と話してた?」 電話とか言ったから? それとも…態度? 「分かんねぇんじゃね?普通の人には。俺は常にイイ男探してるから、彼氏居んのかどうかの識別能力が高い」 「いっ…イイ男探してる…」 「せっかくイイ男に出会えたと思ったら、りっくんのものだった」 「ぉぉおお前!悠稀に近寄るなよ?!」 「りっくん束縛ヤローか。キスマークとかめちゃくちゃ付けちゃうタイプ?ん~…イイ」 めちゃくちゃ笑顔で 親指立てた 「イイじゃねぇよ!お前が、めちゃくちゃ気のありそうな事言うから…」 「はいはい。そこまで。こんな話ずっと此処でしてたら、さすがにマズイって」 「……確かに」 「よし、じゃあ、さっさと凌久ん家行くぞ」 「は?!」 「愚痴でも、ノロケでも聞いたる」 愚痴…ノロケ… 悠稀の… 「……説明なんか出来ないぞ?」 「別にいいって」 「説明聞いても理解出来ないんだから、説明しないと、ほんと、訳分かんないぞ?」 「俺に関係ないから、分かんなくても困らん」 「…っお前…人のそういうの聞いて…辛くないのかよ」 「辛く?………ああ!あのさ、俺、自分が本当に好きな奴に出会えてないだけで、今まで恋人居なかった訳じゃないから」 ……は? いや… 「お前…絶対居なかったって思われる言い方してたろが!いつも、好きな人欲しい。好きな人と付き合いたいって…」 「だから、付き合って楽しいけど、こう……心の底から好きだと思える様な相手に巡り合いたいじゃん?って事」 「分かんねぇわ!ややこしいな」 「まあまあ、俺の事はいいから、さっさと行くぞ」 なんで、お前が先頭になって歩いてんだよ くそっ… だったら、もっと早くに言えば良かった いや… それはやっぱ傲慢なのか… 俺は… 何をやってんだ?

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