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退院
「そっか。水無瀬君まだ知らなかったんだね」
「はい…なんか……なんか、その……」
「ちょっ…悠稀がそんな顔すると……」
「いや~…イケメン2人の照れてる顔…男の僕でも癒されるなぁ…」
「~~~っ…」
「ちょっと悠稀って!琉生さんも…あまり、いじんないで下さい」
「はいはい。えっと……」
琉生さんが、俺の顔を見て、悠稀の顔を見る
「いや、いいね~」
「琉生さん!」
「あっはっはっ…ごめん、ごめん。僕達の歳になると、こういう話も聞かなくなっちゃうからさ。さてと、凌久君、昨日の夜も眠れたかい?」
「はい。大丈夫です」
「そっか。ご飯は?」
「毎食完食です。寝る前に腹減るので、常に食い物置いてもらってます」
「さすが10代だね~」
おにぎりとか、パンとか
ほんとはカップラーメン超食べたいけど、お湯入れに行かなきゃなんないから
「なんだ、凌久言ってくれればいいのに。じゃあ今度、食べる物持って来るね?」
「おお。リハビリ疲れるからな。おやつも食う」
「今日もリハビリ室で歩く練習かい?」
「もう、ゆっくり歩くなら問題ないし、階段も大丈夫。走れるかって言われたら自信ないけど、退院出来ます」
「声も、聞き取れるようになったしね」
「はい」
「何か気になる事ないかい?」
気になる事…
もう、たいしてないけど…
「あっ…」
「何かあるかい?」
「母さんが、警察の人が、話聞きたいって言ってたって…」
「…そっか」
「話さなくていいよ!!」
びっくりした…
悠稀の…こんなデカイ声なんて
怒ってる?
「悠稀…」
「話したって…もうどうにもなんないもん…話すって事は……思い出さなきゃなんないでしょ?…どうにもなんないのに、思い出したら…ただ、凌久が辛くなるだけでしょ?そんなの…話さなくていいよ…」
それは、まあそうだよな
しかも
事実確認したところで
当の本人は
また、のうのうと生きてくのかもしんないし
「俺もそう思う。でもさ、あいつ…人殺してるかもしれないから」
「……え?」
「それだけでもさ…何でそう思ったのかだけでも、伝えたい。死んでんのに…死んでる事さえ気付かれてない人居るかもしんないから…あとは、話したくない事は話さない。そうする権利あるだろ?」
「そうだね。凌久君が話したいと思う事だけ話す。それならいいかもね」
このままだったら
また、俺みたいに被害に遭う奴出てくるかもしれない
俺みたいに、殺される前に発見されるとは限らない
「なんで…」
「え?」
「なんで…人殺してるって思ったの?凌久…殺されそうになったの?」
「そう思う様な発言してたから。俺は、そうなる前に発見してもらえたけど、もしかしたら、発見されないままの人、居るかもしれないから」
「…凌久…発見されなかったら、殺されてた?」
「さあ?あいつ相当イカれてたから、言ってる事も、どこまでほんとなんだか…」
全部妄想かもしれない
全然、あんな事した事なかったのに
おかしくなってて、口走っただけかもしれない
俺を殺す気なんてなかったのかもしれない
でも…
もしも、ほんとだったら
相当怖い思いして
亡くなったままの人居るなら
あんまりだから
「……凌久が…話したいなら……でも…話して凌久が辛くなる様なら…俺は…止めて欲しい」
「よし!じゃあさ、凌久君が言いたいと思った事だけ話す。そして、僕も同席可能なら、お話するって言ってもらったら?」
「え?…そんなのいいのかな?」
「いいんだよ。被害者は凌久君なんだから、なんだって凌久君優先なんだよ?」
「俺も…それなら賛成…」
「まあ…俺もその方が心強いけど…じゃあ、それで母さんに返事してもらうか」
あっさりと許可された面談?は
数日後に行われて
結城が、捕まった当初は
怒り狂って、話になんなかった事
ようやく話し出すと
俺を返せってのと
悠稀がどれだけ素晴らしいかばかり話してた事
そのうち、クスリとアルコールの離脱症状で暴れ出し
今は、病院に収容され、全く状況が把握出来ていないままだった事を知った
そりゃ…
早く俺からも話、聞きたかったろうな
俺は、連れ去られてからの事は、ほとんど記憶がないと言って
連れ去られる前後の事を話した
それだけでも、だいぶ、ありがたがってた
クスリとアルコールの事
逃げようとした玄関での発言
目が覚めて、部屋の傍の人に助けを求めた時の事
最後に真っ赤に…って発言は覚えてるって事
それだけを伝えた
琉生さんは、何度も心配して、声を掛けてくれて
そのせいなのかどうかは分からないけど
警察の人も、無理に聞き出そうとはしなかった
「大変な時に、話していただいて、ありがとうございました」
「いえ…あの…」
「はい?」
「俺…ほんとに安心したんです。目が覚めた時は、訳が分からなくて怖かったけど、警察官の人…俺が怖がらない様に、跪いて、優しく声掛けてくれて…ほんとに…凄く安心して救われたんです。本当に、ありがとうございました」
立ち上がって、お辞儀をすると
「お礼を言うのは、こちらです。私達は、自分の仕事をしたまでです。君は…何も話さない事も出来た。わざわざ思い返したい事じゃない。それでも、話してくれました。君の優しい勇気を無駄にはしません。必ず、言って良かったと思ってもらえる様に頑張ります」
ああ…
凄いな
警察の人も
琉生さんも
看護師さんも
先生も
大変な事
何でもない様に…
一生懸命働いた結果
こんな風に誰かが救われるなら
だるくても、仕事休まず頑張ろうって思っちゃったりする
「お疲れ様、凌久君。大丈夫だったかい?頑張ったね?」
「琉生さん…」
「ん?疲れた?」
「俺…社会人になって働くの、だるいなぁと思ってたんですけど」
「ぶっ…正直だね~?」
「なんか、今回の事があって、色んな人が、あり得ない状況の俺に、信じられない位優しくしてくれて…1人1人が別の仕事でも…誰かを助ける事に繋がってるんだって思ったら…悪くないかなって」
しょっちゅう、こんなのがある訳じゃないんだろうけど
ただ義務的に働いてる訳じゃない人達が
結構居るんだって知れたから
「それは…僕達にとって、凄く嬉しい言葉だよ」
「琉生さんみたいには、なりたくないけど」
「えっ?!何で?!」
「毎日人の事ばっか考えて、遅くまで仕事して、自分の方が倒れそう」
「あ、そっちね?びっくりした~。僕、優しくなかったのかって思ったよ」
「まさか…これから、俺の生活がどうなるのかは分からないけど、琉生さんが居なかったら俺、今もまだ笑えてなかった自信ある」
ちょっと弱くて、子供みたいな琉生さん
看護師さんでも、先生でもなくて
皆とは違った琉生さんが居たから
俺は沢山救われた
「凌久君っ…何?僕の事泣かそうとしてんの?」
「ふっ…そうかも」
「凌久君の前で泣いてんのなんて見られたら、絶対また看護師さんに…」
コンコン
あ…
「凌久君、お話大丈夫だった?」
「はい」
「?深雪さん、なんか目…ウルウルしてない?」
「そ…そんな事ないです。ちょっと…あくびしただけです」
「あくび?!凌久君の前で?!仕事中に?!」
「あっ…いや…そうじゃなくて…」
結局怒られた
「ぶっ…!くっくっくっくっ…」
「あっ…凌久君…笑わないでくれ…」
「凌久君、こんな大人になっちゃダメよ?」
「くっくっくっ…はいっ…」
はいって言った!
とでも言いたげな顔
琉生さんが居たから笑えてる
ありがとう
「ほんとに、この子が大変お世話になりました」
「いえいえ。凌久君、人気者だったので、居なくなるのは少し寂しいですけど、退院おめでとうございます」
「お世話になりました」
なんか…
こんなに皆ここに居て大丈夫?
「凌久君!良かった…間に合った!退院おめでとう!」
「先生…ありがとうございました」
「先生、お世話になりました」
「凌久く~ん!待って!僕も…」
「琉生さん!」
「はぁ~…間に合った。向こうから行ったら、凌久君もう部屋に居ないから焦った…」
「琉生さん、本当に本当にありがとうございました」
「うちの息子がお世話になりました」
「いえいえ。凌久君に会えて、僕もまた仕事頑張ろうって思えたよ。ありがとう……あっ…と…ちょっと…」
琉生さんが、俺の背中を押して、皆に背を向けちょっと離れる
「凌久君、水無瀬君とお幸せに」
「っ!…ありがとう…ございます」
「その…色々難しい事とか、上手くいかない事、あるかもしれないけど…周りの色んな人の力借りて。1人で頑張らないで。僕で良ければ、外来に来て言ってくれれば、いつでも話聞くから」
「…~っ…はいっ…ほんとにっ…ありがとうございますっ…」
琉生さんは、知ってるから
俺と悠稀にとっても
これから大変なんだって分かってるから
「ちょっと!深雪さん、何言ったんですか?!凌久君、泣いてるじゃないですか!」
「え?いや、僕は別に…」
「別にって、泣いてるじゃないですか!」
「凌久君、深雪さんに言われた事は気にしなくていいからね?深雪さんは、こっち!」
最後まで
俺の為に元気で明るくて
優しい人達…
「ほんとにっ…ありがとうございました」
いくら大丈夫だって言っても
心配だからって、母さんは退院後、2、3日こっちに居る事になった
散々心配かけたから、あまり強く言えない
「母さん、ホテル代ヤバい事になってない?」
「ん~…なってるかも」
「俺、ソファーに寝るから、あと帰るまでここに泊まれば?」
「え~…お母さん、お邪魔虫にはなりたくないわ~。凌久の元気な顔確認して、家の中の事出来ればいいんだから」
「え?俺、彼女居る事になってんの?」
「……えっ?」
「えっ?」
何?
俺、言ったっけ?
そんな話した事なかったはずだけど…
「……あら?お母さん、てっきり…そう…」
「あのさ、彼女居たら、流石に見舞いくらい来るだろ?」
「来てたじゃない、毎日」
「はあ?何言って……」
え?
何、その自信満々の微笑み…
あれ?
来てたじゃない、毎日……
え?
いや……まさか……
「あんたが居なくなったって教えてくれたのは、悠稀君」
「……え?」
なんで…
ここで悠稀の名前が…
「悠稀君と、悠稀君のお母さん、一緒になって、凄く探してくれた。その時の悠稀君の様子が…ね、なんか…そんな風に感じたから、聞いてみたの」
「っ!…あ…母さん…」
「そしたら、そうだって答えてくれて、やっぱり結構びっくりはしたんだけど…」
「ご…ごめっ…ごめんっ…」
そんな究極な状況の時に…
物凄くショックだったはずだ
「そしたらね、その後、悠稀のお母さんが話し掛けてきてくれて…なんか凄く幸せそうに…羨ましそうに話すのよ。だからって、すぐには理解出来なかったんだけど…ただでさえパニックだったし…」
「~~っ…うんっ…ごめんっ…」
一気に色んな事…
起こり過ぎだよな
「けどね、ほんとに…私達と同じ位心配して、一生懸命なのよ。だから…悠稀君が、ほんとに凌久の事思ってるんだっていうのは…分かったから…」
分かっても…
理解するのは難しいよ
「ずっとね、一緒に心配して、不安になって、協力し合って…なんか…男の子だからって理由で、悠稀君のこの気持ちを否定するのは、違うんじゃないかって思って…」
「っ母さん…」
「もう疲れ果ててたでしょうに…悠稀君にとっては…見たくない物もあったでしょうに…毎日凌久に会いに来てくれたでしょう?今は、もう…ほんとに感謝しかないわ」
そうは…言っても
絶対色んな事諦めて
受け入れられない事いっぱいあって
「~~~っ…それでも、ごめんっ…母さん…俺…~~~っ…女の人…好きになれないんだ…ごめんっ」
「なかなかね、ちょっと、すぐには受け入れられない事もあるけど、やっぱりお母さん、悠稀君の事、人として大好きだから。それに…ほんとに凌久…もう戻って来ないんじゃないかって…思ったから…」
「っ!ごめんっ…」
そうだよな
失踪って言ったって
生きてるかどうかも分かんないんだから
「凌久が…元気で、幸せならいいかなって…あんなに想ってくれる人と居るなら…幸せだと思うから」
「ごめんっ…母さん…~~~っ…ごめんっ…」
「もう…謝らないでよ。凌久は、帰って来てくれた。凌久には、想い合える人が居る。それで充分」
「ありがとう…いっぱい…ごめんっ…」
俺が思ってる以上に
皆心配してたんだ
俺に気を遣って言わなかったけど
皆、死んでるかもと思って
待ってたんだ
「てっきり、悠稀君から聞いてると思ってたのよ」
「あいつ…完全に忘れてんな。そんな大事な事、忘れやがって…」
「…………」
「?」
「ふっ…なんか、友達は友達なのよね~と思って。不思議な感じ。幼馴染みが付き合い出したみたいなものなのかしら?」
「え?…さあ?どうだろう?」
俺だって、ちゃんと付き合ったの、悠稀が2人目な訳で
1人は先輩だったから、今とは全然違った付き合いだった訳で
「凌久と、恋バナ出来る日が来るとは思わなかったわ~」
「んなっ?!…はっ?!恋バナなんてしてねぇし!キモいからやめろ!」
「なんかね~…悠稀君だから、いいかなって思える部分は大いにあるのよ」
「あ?」
「悠稀君、体はまあ、しっかり男の子だけど、顔なんて、その辺の女の子より可愛いじゃない?」
「はっ?!」
「だからね~…まあ、好きになっちゃうかぁ…って…」
息子がゲイだって知って
ショック受けてたの、何処行った?!
こんなすぐ
息子の彼氏の顔可愛いとか言えるもん?!
「凌久が大学行く前の準備中に、お母さんも何回か悠稀君に会ったじゃない?」
「ああ…一緒に、こっちにアパート探す時とか来たな」
「その時ね~…いい男だなぁ。可愛いなぁって思ってたのよ」
「……はあっ?!いっ…いい男?!」
「あ、大丈夫よ。そんな、息子の彼氏取ったりしないわよ」
「かっ…彼氏…取る?!」
「ただ、凌久と趣味似てるんだなぁって、後から思ったのよ。ふふっ。楽しいわね~」
いや…
ちっとも楽しくねぇよ
俺の感情、振り切れっぱなしで
おかしくなりそうだよ
「父さん、悠稀と全く似てねぇじゃん」
「そんな事ないわよ。雰囲気は似てるわよ?」
「雰囲気?」
「そ。柔らかい雰囲気って言うか…もう、優しさが溢れちゃってるみたいな」
「っ!」
それは…
確かに悠稀です
「あら?凌久…顔真っ赤」
「はっ?!赤くねぇし!」
「凌久も、悠稀君の事そう思ってるんだ~」
「~~~っ…」
「じゃあ…」
「…は?何?」
母さんが抱き締めてきた
「そんな優しい悠稀君、傷つける様な事になって、凌久は相当傷ついたね?」
「…っ!」
「大丈夫。凌久、父さんに似てイケメンだもん。すぐ、いい人見付かる」
「なんで、悠稀にフラれる前提なんだよ」
「フラれるんじゃなくて、凌久が悠稀君から離れるんじゃないかと思って…」
その方がいいんだって思う
そんなの毎日思ってる
けど…
そんなの多分悠稀も分かってる
悠稀が頑張って一緒に居ようって思ってくれてんのに
俺が先に離脱するのはおかしいだろ
母さんから離れる
「…それは思うけど、でも…悠稀が頑張ってくれてる間は、俺も頑張ってみるよ。悠稀の為って離れるのは…頑張り切った後にする」
「そう。どっちを選んだって辛いだろうから、こうしなさいなんて言えないけど、目一杯好きな様に生きなさい?」
家に帰って、昼食って横になると
もうウトウトしてきた
「久しぶりに外出て歩いたんだから疲れたんでしょ?寝てなさい?」
外出て歩いたって…
病院の前からタクシー乗って
アパートの前から歩いただけなのに?
ダメだ
明日から散歩だ 筋トレだ
ピンポ~ン
……誰か来た
久しぶりの自分ベッド
寝心地良くて起きたくない
……あ、母さんの声
そうだった
母さん、頼んだ
体力つけなきゃ
学校行くだけで疲れそう
「凌久…ちゃんとこの家に戻って来れたね」
あれ?
この声…
「ほんとに良かった…お帰り、凌久…」
ぱちっ
「あ…起こしちゃった…ごめん」
「悠稀!」
「顔見に来ただけだから、寝てていいよ」
「いや、バッチシ目覚めた」
「久しぶりに、自分の部屋で眠れるね?」
こいつ…
完全に忘れてやがる
「悠稀…お前、なんか俺に言い忘れてる事なかった?」
「?…言い忘れてる事……お邪魔してます」
「んな訳あるか!お前!俺達の事、母さんに知られたの、全然言ってくんなかったろが!」
「……俺達の事……凌久のおばさん……あっ…えっ?!…あっ!…そっか……そうだった…ごめん…そうだよね?凌久と…その話してない…」
そうだよ!
超重要事項じゃん!
「さっき母さんから聞いて、すっげぇビックリしたんだからな!」
「そうだよね?ごめん…なんか…凌久が戻って来てからは…色んな事いっぱい考えてて…ごめん。すっかり忘れてた」
「うっ…いっぱい考えさせて悪い…けど、これはなかなかの最重要事項だ。忘れんなよ」
「ごめん…あれ…あと何か忘れてなかったかな…」
悠稀が、上を向きながら考えてると
「さてと、お母さんちょっと買い物行って来るから」
「え?母さん、買い物行く場所分かる?」
「そんなの、近くのスーパーで検索したら出て来るでしょ?お母さん、何歳だと思ってんのよ?」
「え…あ、そう。宜しく」
「おばさん、俺一緒に…」
「いいの、いいの。悠稀君は、ゆっくりして行ってね?」
そう言って、母さんは買い物に出掛けた
「凌久、もう1回寝てていいよ?」
「どんだけ寝せようとしてんだよ?明日から、散歩だ散歩」
「……じゃあ、散歩の時間、俺来るよ」
「はあ?いいよ。んな長くなんか歩かねぇよ」
「…長く…歩かなくても……凌久が1人で外歩くの…心配だから…」
「悠稀…」
そんな風に思うだけ
心配させたもんな
「こっち来い。んじゃ、家ん中で体動かす事にする」
「……うん」
ポンポンと、隣に呼んだのに
なんか…微妙な距離が…
「悠稀?この微妙な距離は?」
「あ…えっと…」
そう言って視線を逸らす
「あのさ、いくらわざとにじゃなくても、俺、悠稀に何されてもいいだけの事した」
「っ!」
「見えてたよな?首元とかさ。弁解の余地なんかない。軽蔑されても、罵られても…捨てられたってしょうがないと思う。むしろ、今こうして普通に話してんのが、奇跡みたいなもんだ」
「だって凌久は悪くないでしょ?!凌久は…」
辛そうな顔
両手をぎゅっと握りしめて…
「どんな理由があっても、どんな状況だろうと、悠稀が見た物含めて、なかった事には出来ない。これからも俺と付き合ってくって事は、そういう事。ずっと悠稀、怒りたいのに怒れなくて、許したくないのに許すしかなくて…それでも、俺と付き合ってく?」
言わないと悠稀からは言えないから
自分を騙して許して
笑って
こんなの俺の方から言う事じゃないけど
悠稀は言わないから
「…………」
「悪い。別に今すぐ決めろなんて言ってない。ただ…悠稀は……え?」
顔を上げた悠稀が…
見た事もない
怒ってる
の、表情をしていた
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