59 / 120

新しい痕跡

退院してから始めての土曜日 あんなに楽しみにしてた悠稀が おかしい じ~っとスマホを見て テーブルに置いては 1分も経たないうちにスマホを手に取る ま、気になるよな… コーヒーを準備しながら、その様子を見る 俺が退院したと思ったら暁の心配 悠稀に気が休まる日は来ない 「悠稀…はい、コーヒー」 「あ…ありがと」 スマホをテーブルに置く 「スマホ、首から下げとけよ」 「ごめん…携帯ばっかり気にして」 「別にいいけどさ。悠稀のメンタルが心配」 「はぁ~~…俺が心配したところで、駆けつける訳にも行かないんだけど…」 「その彼氏は、男と付き合った事あんのかな?」 「さあ…どうだろう?」 ま、普通の高校生なら 好きな子家に呼んだらヤりたくなるだろうが 男同士だし 話聞いてる限りの暁のイメージだと すぐには手出せないか? 「通知音…」 「え?」 「もしも、寝てても気付く様に、最大にしとけ」 「あ…そっか…暁のだけ…」 ピコピコ  「ちょっと大き過ぎる」 ピコピコ 「この位…もうちょっと…」 ピコピコ ピコピコ ピコピコと悠稀… 可愛い 「これなら、寝てても分かる」 「ん」 「…凌久は…もしも俺と付き合ってから…暁との事知ったら…別れてたと思う?」 「ん~~…実際なってないから難しいな。今なら自信持って別れないって言えるけど…」 「なんで?」 「お互い、散々な事して、喧嘩しても別れなかったから」 お互い… 散々…今も… 「ああ…そっか」 「けど…そうなる前なら…自分の気持ち押し込めて…悠稀に気遣って…爆発して…まあ、喧嘩して仲直りかもしんないけど…どうだったかな?」 「うん…そうだよね…」 「……悠稀…暁の心配してるとこ悪いんだけど…」 「何?」 「あのさ…俺の手…触ってくんない?」 「手…?うん」 悠稀が、不思議そうな顔で 俺が差し出した右手を触る 結城の感覚が、時間と共に薄らいでいく もう…そろそろ…大丈夫なんじゃないかな? 「悠稀…」 「ん?」 「手…に…キス…してくれない?」 「えっ?で…でもそれは…」 「やっぱダメかもしんない…けど…いつまでダメかは…やってみないと分かんない…から…」 「……うん…分かった」 悠稀が、右手に顔を近づける 大丈夫 悠稀だ 口付け… 「凌久…」 キスする寸前で顔を上げた 「え?…何?」 「ふっ…凌久…キス…するね?」 めちゃくちゃ可愛い顔で言ってきた 「~っ…ん…」 手の甲に…優しくキスしてくる 厄介なのは… あいつも、優しくしてた事… 嫌でも…思い出す 「凌久…」 「ん?」 「凌久…ちゅっ…凌久…ちゅっ…」 「ふっ…1回ずつ…名前呼んでくれんの?」 「ん…俺の凌久…好きでしょ?凌久…」 「~っ…んっ…すげぇ好き…」 「うん…凌久…」 手の甲から…指の先に向かって キスを落としていく あいつも… 「凌久…」 「ん…」 あいつの記憶が蘇りそうになると 呼んでくれる けど… 「凌久…」 「んっ…」 手が…震える 「凌久…」 「悠稀……悠稀……悠稀……」 悠稀だ 思い出すな 悠稀なんだから 「凌久…俺…見て?」 「え…?」 下…向いてた 「凌久…」 俺の目を見たまま キスしてくる あ… 「…悠稀」 「ん…凌久…」 王子様なの? こんなの… 「…~っ…悠稀っ…」 悠稀以外居ない 「ん…凌久…」 「悠稀っ…」 悠稀に抱き付く 「凌久?…怖くなった?」 「~っ怖くない…悠稀はっ…別格だからっ…」 「ふっ…別格?」 「悠稀みたいな奴…居ない……俺の…推しだから…」 「おし?」 「そんな完璧な顔で…キスする奴居ないっ…」 「完璧な顔って、どんな顔さ」 「悠稀みたいな顔っ…」 全然違う 「悠稀っ…」 「ん…大丈夫だよ」 悠稀を見て あいつを思い出したくない 悠稀にされる事で あいつを思い出したくない 「悠稀…」 「ん?」 「いっ…しょに……風呂…入らない?」 「ん…入ろ?」 1つずつ 結城の記憶を悠稀で塗り替えてく 1つずつ 結城の感覚を悠稀に塗り替えてく 何度も何度も… 多分風呂に入れられてた たまに目覚めると洗われてたり 風呂に浸かってたり 悠稀君の痕跡が欲しいのに それを丁寧に丁寧に 洗って… 頭イカれてるから 意味が分からない 「……く…凌久!」 ビクッ! 「あ…ごめん。びっくりさせちゃった。お湯…溢れそうだから…凌久も濡れちゃうと思って…」 湯船の端に座ったまま、ぼ~っとしてたんだ 「ごめん、ありがと」 「大丈夫?ほんとに…お風呂入りたいの?」 「……うん…入ってみたい…」 「……分かった。入ろ?」 「あ…スマホは、持って来てドア開けとかなきゃな?」 「…うん」 風呂は… ベッドよりも あの白い衣装を思い出す 花が浮かんでて ほんとに死んだみたいで 「凌久…」 「あ…ごめん。また、ぼけっとしてた」 隣で風呂に浸かってる悠稀が 心配そうに覗き込んできた 「大丈夫?」 「ん…悠稀の顔見れば大丈夫」 「じゃあ…向かい合って座ろ?」 「ん…ははっ…悠稀の顔…」 「凌久……お風呂で…」 「悠稀?」 向かい合うと 俺の頬に触れながら、そこまで言って 言葉を止めた 聞きたい? 聞く? 悠稀が… 聞きたいなら答えるよ 「……お風呂で……~っ…」 「悠稀が…聞きたいなら、何でも答えるよ」 「凌久…」 「ん…」 「聞きたいんだけどね……まだ…未だに…~っ聞く勇気がないっ…」 「ん…」 「凌久は…あれから毎日、毎日…怖くても、頑張って進んでるのに…俺はっ…」 俺が、何かを乗り越えようとする度 悠稀は… 思ってるんだ 手にキスされたのかな どんな風に? どれだけ? 風呂に一緒に入ったのかな? 入って… 何されたのかな? 「ごめんっ…俺…自分の事しか考えてなかった」 「そんなの…凌久は自分の事で精一杯なんだから、当たり前だよ」 「悠稀…付き合わされる度、考えるよな?辛いよな?ごめんっ…」 「考えるけど…考えちゃうけど…せめて…俺と一緒に前に進んで欲しいから…それくらいは…したいから…」 「ありがと…悠稀…」 分かってるけど あんなのは、もうなくて 一緒に居るのは悠稀で 分かってるけど 1つずつ確認しないと 自信がない 「悠稀と…一緒にして大丈夫って思えると…凄く自信つくから…」 「うん…凌久…」 濡れた髪から 水が滴って すげぇセクシーな男が 前髪をかきあげた 何…これ… ほんとに3次元の人? その男が、すっげぇ優しい顔して 俺の顔触ってきた ほんとに? 俺の彼氏なの? 確かめるように、その手に手を重ねてみる 「凌久…」 だって、俺の名前呼んでるもんな 「は…るき…」 「ふっ…凌久…」 「薔薇より…綺麗だ…」 「…え?」 「悠稀のが…悠稀が風呂に浸かってる方が…ずっと…比べもんにならない……薔薇は…嫌いだ…」 悠稀に抱き付く 真っ赤な薔薇が嫌いだ 怖かった いつか 真っ赤に染まった風呂みたいに 俺の来てる白い服も俺も 真っ赤になるのかと思うと 「凌久…震えてる…大丈夫だよ」 悠稀が、優しく抱き締めてくれる 「悠稀の居る…風呂…安心するっ…から…」 「うん…凌久…もっとこっちおいで?俺の足の上、乗っかっていいから」 「悠稀っ…」 悠稀の上に乗っかって べったりとくっ付く 「…風呂っ…がっ…凄く怖かったから…」 「うん…もう、大丈夫だよ?」 「悠稀とっ…入りたかった…悠稀とのっ…記憶にしたかった…」 「うん…俺とのお風呂、2回目だね?ちゃんと…覚えておいてね?」 「んっ…こんな…イケメンとの風呂…忘れないよ」 「凌久…キスして?」 「んっ…」 悠稀の右肩と 水滴なのか、涙なのか 濡れている左頬に手を添えると 悠稀が、そっと俺の腰に手を添える 「悠稀…ありがとう…」 「凌久…んっ……んっ…ふっ……んっ…」 悠稀…悠稀…悠稀… 「んっ…ふぁっ……んっ…んんっ……はっ…」 悠稀の… 気持ち良さそうな顔 こんなん 他の何にも敵わない すぐに 俺の頭ん中なんて 悠稀でいっぱいにしてやる 「んっ…凌久っ…」 悠稀が、うっすらと目を開ける ん? いつも、目を開けたりしないのに 「んっ……んんっ!…んっ…凌久っ…」 また… 「悠稀?どうかした?」 「はぁっ…?…ど…か?」 「なんか…何回も目、開けるから」 「だっ…て……目…閉じてたら…凌久…怖がってるの…分かんない…」 「…え?」 「凌久…震え…止まった?」 「~~っ…止まった…止まったよ…」 悠稀をぎゅっと抱き締める キスされながら そんな事考えてくれてたの? 悠稀… キスで、すげぇ感じるから 目、開けるなんて余裕ないはずなのに 「凌久…?」 「ありがと…悠稀…ありがと……もう大丈夫だ」 「……うん。でも、そんなに焦んなくて、大丈夫だよ?ずっと一緒なんだから、時間かかっても…何回でも……ずっと一緒でしょ?凌久…」 「んっ…悠稀が…そう思ってくれてる間はね…」 「じゃあ…ずっとだ…」 少し子供っぽく悠稀が言った ずっとなんて分からない だって、水無瀬 悠稀だから あちこちに狙ってる奴が居る けど… 今、本人が言ってくれてるんだから 少しの間くらい 騙されたっていいじゃないか 風呂から上がって 服を着る度、安心する 自分の普通の服だ 「ふっ…」 そんな事考えるなんて おかしな話だ 「何がおかしいの?」 スマホを確認してた悠稀が聞いてくる 普通に服を着れる事が嬉しいんだよ 「…いや…普通が、嬉しいなと思って」 「……うん」 「♪︎~♪︎♪︎~♪︎~~♪︎~~♪︎」 「パンケーキ?」 「そっ…♪︎~~♪︎~♪︎~~♪︎」 「なんか、オリエンタルチックな曲だね?」 「ん…なんか、母さんがよく聞いてたから、古い曲なんだと思うけど、歌詞はよく覚えてない」 「凌久、鼻歌上手いね?」 「鼻歌は、誰だって上手いだろ?」 「でも…凌久の声だからかな?なんか、曲に合ってる」 「悠稀も、何か歌って?」 パンケーキを焼きながら言うと 「ん~…俺、そう言えば…カラオケって、ほんとに何回かしか行ってないし、あんまり音楽も聞かないから…ちゃんと歌える曲ってあるのかな」 「ちゃんとじゃなくてもいいよ…あ、じゃあさ、高校の校歌は?」 「高校の…校歌って、あんまり歌わなくなかった?」 「……確かに…ふはっ…一緒に歌おうかと思ったけど、俺もあんまり覚えてないや」 「ふっ…ね?」 「ご馳走さま。お腹いっぱ~い」 「結構食ったな」 「この紅茶美味しいね?」 「だろ?前に貰っててさ、かなり気に入って少しずつ飲んでたんだけど、最近ネットで見付けたから、飲んじゃおうと思って」 「へぇ~…凌久って、生活スタイルがお洒落だよね?」 「はあ?紅茶の話?」 「なんか…色々。格好いい」 「ぶっ…!格好いいって…」 格好いい奴が… そんな、目キラキラさせて 「なんで、笑ってるの?」 「だって…くっくっ…悠稀が言うからっ…」 「俺が言うから?」 「おかしっ…くっくっくっ…」 「ふっ…ねぇ…何で笑ってるのってば!」 悠稀が軽く足を叩いてくる 「悠稀がっ…くっくっ…格好いいって言うからっ…」 「だからっ…もうっ…何でそれで、笑ってんのって」 「おかしっ…からっ…くっくっくっ…」 「ふっ…」 悠稀がふわっと笑う 「凌久が…いっぱい笑ってるの…嬉しい」 「~~っ…何でどれも完璧なんだよ…」 「何?」 「何でもない!」 悠稀が食器を洗ってくれてる間に、母さんに連絡っと 悠稀が毎日来てるのは、相当安心するらしい 月曜日から、学校行くぞっと ヴヴ ヴヴ お、早っ… …って…奏?! は?! 何で?!何?! あれからも、全然連絡なんて取り合ってなかったのに なんで、今日?! チラリと横目で見ると まだ皿洗い中だな… 何だってんだよ?! トラブルメーカーめ! 『なんか、学校休んでるって?』 『ついに別れたか』 『俺が責任取ってやろう』 なっ?! どうして、こいつはすぐに そういう方向に! 『別れてねぇわ!』 『月曜から学校行くし!』 「…ったく…」 ヴヴ ヴヴ わっ! …って、今度は母さんかい! ああ…はいはい 無理はしませんよ~っと ヴヴ ヴヴ げっ! 奏は、もういいって! なんだってんだよ?! 『新しい りく 付けに行っていい?』 こいつは~~~~っ! 「だめだよ」 「わぁっ!…はっ…悠稀!」 しまった… 母さんと奏の陽動作戦で 悠稀への注意を怠った! 「奏って…そういう字なんだね」 「えっ…う…うん」 「凌久…奏とよく連絡取ってるんだ」 「取ってない!あれから1度も取ってない!」 「でも…簡単に…そんな事…言えちゃう仲なんだ…」 「え?」 「りく 付けるって…この前のキスマークの事でしょ?」 「悠稀…」 泣いて… 「奏…そんな…新しいの付けに行っていい?とか…言う…仲なの?」 「違う!違うから!ほんとに!」 「だって…ただの友達…そんな事言わないでしょ?」 「あいつ馬鹿なんだ!大体…毎日悠稀と居るじゃん?」 「ずっと…居る訳じゃないもん」 「悠稀…」 そりゃそうだ… これ見たら… 見たら…… そっか! 「悠稀、これ見て?」 「っ…え?」 「奏とのやり取り…見て?」 「見てっ…いいの?」 「ん...あの日も、たまたま大学で会って…って感じだったから…今日連絡来るまで…ずっと連絡取り合ってないだろ?」 「……4月に…何回か…だけ?」 「そ。再会した時ね。あとは、大学で会ったら話してたけど…俺の家に来たのも、ほんとにあの時だけ。誓って、嘘は吐いてません」 あの馬鹿の行動のせいで 普通は考えられない行動のせいで 信じてもらうの大変じゃねぇか ヤベッ また奏から… 『既読スルーすんなよ』 『今からひ~くん慰めに行こうかな』 『りっくん、今、家?』 ここで、その呼び方持ち出すなよ 最悪だ! 「ほっ…ほんとに…こいつ…ふざけた奴で……気にしないで欲しい…んだけど…」 「……………」 怖っ… 悠稀の無言… すげぇ怖っ… 「凌久…」 「はい」 「奏に電話して」 「……えっ?…なん…今?」 「今すぐ…」 怖っ! 「わ…分かった…」 奏… 知らねぇからな 自業自得だ 「もしもし~?りっくん?」 「奏、お前…」 「貸して」 ひ~~っ! 声、低っ… 「はい…」 「もしもし~?何だって~?」 「もしもし…」 「あ?あれ?凌久じゃねぇのか?」 「凌久は…俺のだから」 「あ?何?誰だ?」 「凌久は!俺のだから!!手出さないで!!」 「……へ?あれ?あんた…」 「凌久!切って!」 「はい…」 すごっ… 悠稀… こんな事出来るんだ 「……~~っ…凌久っ…」 「えっ?!何で悠稀が泣いてんの?!」 「俺の事っ…嫌いになった?」 「はっ?!何で?」 何?何? おこりんぼ悠稀が見れたと思ったら 今度は泣いてんの? 「うっ……凌久のっ…大切な友達にっ……あんな事言ったからっ…」 「きっ…嫌わないよ…嫌う訳ないだろ?嬉しかったよ」 「嬉しくはっ…ないでしょっ…?」 「嬉しいよ。悠稀が、あんなに怒るだけ妬いてくれたんだろ?嬉しいよ」 「ほっ…ほんとに?俺の…嫌なとこ見てっ…嫌いになってない?」 「ほんとに…可愛いとこだよ…嫌いになんかならないから…泣くなよ」 悠稀を抱き寄せて 背中を、ポンポンとすると 「~~っ…俺っ…こんなに怒る奴じゃなかったのに…嫌だ…」 「俺の事好きだからだろ?」 「そうだけど…自分の事しかっ…考えてない…なんか……嫌な人間だ…」 「悠稀が、そう思うくらい変わった原因が、嫉妬だなんて、嬉し過ぎるんですけど」 こういう 汚ない様な本気の感情 今まで感じた事なかったんだろな きっと、いつも好かれる側で… ……って、考えたら やっぱ、悠稀の初めての本気の嫉妬ってやつで すげぇ嬉しいんですけど 「凌久っ…」 「何?」 「あとで…挨拶もしないで、突然怒鳴って悪かったって、俺が言ってたって送っといて?」 「ぶっ…!それじゃ、俺、奏とやり取りしなきゃなんないじゃん!」 「それは必要だから、いいよ」 「いいんだよ。少しガツンと言わないと分かんないんだから」 「でも…」 悠稀が、俺から離れて、じっと見てくる 「凌久の彼氏が、あんな感じだと思われたくない」 「あいつに、どう思われたって関係ないよ」 「許せないけど…小さい頃からの…あんな事までしちゃう様な仲なら…やっぱり、心配な人と付き合ってるって思ったら心配するもん」 「ふっ…分かった」 せっかく少し一般人に近づいたと思ったら やっぱキラキラ王子様か 根っからの王子様が、一般人みたいに振る舞おうとしても、限界があんだよな 「王子様も大変だな?」 「王子様?何の話?」 悠稀の話だよ 悠稀の前で、悠稀に言われた通りに奏に送る ヴヴ ヴヴ 『名乗られても困る』 『上手くいってんなら用はねぇよ』 はぁ… なんで、こいつはこうなんだ 「な?イカれてるだろ?」 「……変わってるね……りくの痕…消えてたね?」 「ん...でも、悠稀が噛んだ痕なら、ほんの少しだけ残ってる」 「ほんと?何処?」 「んっと…んしょっ…」 服を上げて自分の胸を、見下ろす 「ここと…ここと…これもそうだよ?」 「……え?…これが…そうなの?」 「そうだよ?」 「……凄いね…凌久…俺には…お風呂で擦った痕かな?ってくらいにしか見えない」 「だって…すげぇ見たもん」 「触れても…いい?」 俺の胸を見てた悠稀が、見上げて聞いてくる 「どうぞ」 「怖くない?」 「ん」 恐る恐る 悠稀が、手を伸ばす そっと痕になってる所を触れると 「ふっ…」 と笑って 「噛んどいて良かった…」 と言いながら、次の場所に触れる 「ん…俺も。ずっと、悠稀のだけが消えないの、すげぇ嬉しくて、安心した」 「でも…それが奏のお陰だっていうのが…やっぱり少しムカつく」 困った様な顔で見上げる 「あいつを、使ってやったって思えばいいんだよ」 悠稀の頭を撫でながら言うと 痕を指で、さわさわと触りながら 「……そこまで、そんな風に言っても…俺よりずっと長い間友達で居れるの…ムカつく…凌久が…1番初めに好きになった奴ってのが…すっごくムカつく…」 「ほんの小さい頃の話だよ」 「分かってる…」 そいつと ヤッちゃったからな そりゃ、ムカつくわ 悠稀の頭を軽く押して 俺の胸に近づける 「え?…凌久?」 「噛まれるのは…痛いけど、何でもいいから、また悠稀の痕付けてよ」 「で…でも凌久…そういうの怖いでしょ?」 「怖いかも…でも、怖くないかも。突き放したらごめん」 「……ん…分かった」 何度も何度も 悠稀の痕をなぞる様に… たったこんなの付けられるだけでも イッてたと思う 「……っ…」 「凌久?怖い?」 「怖くない…ごめん…悠稀…ほんとは…いっぱい…謝らなきゃならない…」 「凌久は悪くないって言ったでしょ?」 「……んっ…でも…ごめん…」 「…ん…凌久…」 結城じゃなくて悠稀 楠じゃなくて凌久 「凌久…」 悠稀… 悠稀君の痕跡だから… ビクッ! 「凌久?大丈夫?」 「っ…だ…い丈夫…」 「ほんとに?」 「ほんとに」 ここで、思い出すなよ 悠稀君、悠稀君、言ってたからな 心配そうに見上げる悠稀の額にキスをする 「ほんとに無理な時は、ちゃんと言う」 「…んっ…ほんとだよ?」 「ん...」 真新しい悠稀の痕跡が広がってく もう 誰にも触れさせない

ともだちにシェアしよう!