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綺麗なお姉さん
暁の元に、また皆が遊びに来る様になって
俺のバイトも始まった
久しぶりに行ったバイトは
どうにも気が重いものとなった
ちょくちょく見かける、そのお客様は
俺より少しお姉さんな感じの
いつも、きちっとした身なりのその人は
自分で言うのもなんだが
俺を気に入ってるらしい
基本的に、用事がある時は
呼び出しボタンを押してもらう仕組みになっているが…
俺が、料理を運び終わった帰りに
俺が、水を汲んで歩いてる途中で
その人は、声を掛けてくる
目の前で声をかけられて
たいして急ぐ用事もないのに、無視は出来ない
そして、行くと…
余計な会話が必ず付加される
俺は、そのお客様が苦手だ
八神さんと店長は、なんとなく気付いてるのか
そのお客様が居る間
積極的にホールをラウンドしてくれる
が、しかし…
店長がオーダーを取りに行ってるタイミングで
その人が、レジへと向かった
行くしかない
「こちら、カードの控えと、レシートになります」
「ありがとう、水無瀬君」
「いつも、ご利用ありがとうございます」
「また来るわね」
「ありがとうございました」
良かった…
今日は特に…
あれ?
お辞儀をした目線の先に
今、レシートを置いたトレイ
その上に何かが乗っかっている
「お客様…お忘れ物…」
そう言った時には、ドアから出て行こうとしてて
慌てて、乗っかってる物を確認すると…
「……え?」
それは、花柄の綺麗なメモ用紙で
そこには…
出村 美咲 です
連絡お待ちしてます
そう書かれていて
電話番号と
IDが書かれていた
やられた
…と、思ってしまった
人の好意を、そんな風に思うなんて
人として良くないんだろうけど
だって、連絡なんて出来ない
だったら、出来ない状況のままの方がいいのに
受け取ってしまったからには
なんらかのリアクションを、返さなければならない
バイト終わりに、一応店長に報告する
店長は、気付いてあげられなくて、すまなかったねと、言ってくれた
連絡はしない方がいい
もしも、それで何か言われたら、相談しなさいと言ってくれた
店長は、かなり心配してくれてて
念のため、もしも万が一、何かあった時の為に、そのメモは取っておいた方がいいよと言われた
さっさと捨ててしまいたかったけど
一応、個人情報でもあるし
家に帰ったらクローゼットの奥にでも、仕舞ってしまおう
けれども、この後、凌久の家に行く
絶対の絶対に凌久には、見られたくない
だって、そりゃ…
俺がいくら、そんな気はないって言ったって
いい気分ではない
俺がバイト行く度に、そんな心配させたくない
ポケットは、落ちる可能性あるし
財布の中…
もしも、何か買い物とか、デリバリー頼むとか考えたら、凌久の前で財布出すかも
鞄の内ポケットが、無難かな…
二つ折りにして、鞄の内ポケットに入れる
次に、あの人に会う事を思うと
気が重くてしょうがない
何もなかった様に接するべきか
何か言い訳でもするべきか
はっきりと断わるべきか
ぐるぐる考えながら歩き
凌久の家の前に着いていた
一旦考えるの中止
今は、凌久の事だけ考えたい
ピンポ~ン
ガチャ
「悠稀…バイト、お疲れさん」
「凌久…」
一気に…
気持ちが軽くなった
「そろそろだなぁ…と思って、作っといたんだ。昼飯まだだろ?」
「うん」
「んじゃ、最後の仕上げ」
「何?」
凌久が居るキッチンに向かうと
お皿の上に、ケチャップご飯
そして、ジュ~ッといい音と匂いをさせながら
凌久が卵を焼いている
「わぁ…オムライスだ」
「そ。一緒に食べよ?」
「ありがとう、凌久」
凌久が作ってくれたオムライスは、凄く美味しくて
食べ終わってから、一緒に食器を洗って
重たい気持ちは、何処かに飛んでってた
食後に、凌久とペアリングの話
お互いがスクショしてた物を見せ合って
幸せ過ぎる悩みに
毎日2人で考えて
「なぁ、悠稀の財布のブランドって何だっけ?」
「ブランド?何だろう…あんまり、そういうの詳しくないから...ちょっと待って?あれは、大学の合格祝いに両親が買ってくれたんだ」
「そうなのか。確か、アクセサリーとかも売ってるブランドだったと思ったんだよなぁ…」
鞄から、財布だけ持って来るべきだった
鞄ごと持って来て
財布を取り出して
何気なく横に鞄を置いて
凌久と財布を見て、ブランド名確認して
検索し出した時…
ドサッ
「うわっ…ごめん」
鞄がベッドから落ちて、俺達の足元に、物が散乱した
「悠稀、足の上に何か落ちなかったか?大丈夫か?」
「うん。凌久は?」
「俺も大丈…夫…」
「?凌久?…っ!」
凌久が…手に取ったのは…
花柄の綺麗なメモ用紙
人って…ほんとに驚くと
何も言えないし
何も出来なくなる
何か…言わなきゃ
凌久が、不安にならない何か…
「凌久っ…」
「はい」
「……え?」
「ほんと、モテる男が彼氏だと困るわ」
「…凌久」
「なんて顔してんだよ?水無瀬 悠稀の彼氏だぞ?こんくらい、想定内だわ」
「……あ…あのね…この人…よくお店来る人で…」
「いいよ。言わなくていい。大丈夫。悠稀の事信じてるから」
そう言って
笑顔で、メモ用紙渡してくる
「店長が…何かあった時の為に…一応…取っておいた方がいいからって…」
「そっか。モテる男も大変だな?」
「そうじゃなかったら…すぐに捨ててたから…」
「うん。分かってる」
「凌久だけ…凌久だけだから…」
「分かってる。分かってるよ…」
じゃあ…なんで、そんな泣きそうなの?
笑ってるのに…泣きそうだよ
「ごめん…凌久…不安にさせた……ごめん」
「泣くなよ。こんなの氷山の一角だろ?たまたま今日…俺が気付いただけで…別に、気付かなかったら、そんなの知らないままで…別に、そんなの珍しい事でもなくて…」
「違う!こんな事ないから!」
何言ってるの?
それじゃ、まるで…
いつも凌久に気付かれないとこで、こんな事…
「いいんだよ。悠稀は優しいから、俺にバレない様にしてくれてんだろ?そんなん…日常茶飯事だって、分かってる。ただ、ほら…なんの心の準備もなく、突然見ちゃったから、ちょっとビックリしただけで…」
「ほんとに違う!前にも言ったけど、大学でもそんなの言われた事ないし、バイトでも初めてだから!」
「……じゃあ…どうする?」
「え?」
質問の意味が分からない
どうするって、何が?
「どんな人なの?この人…」
「どんなって…何でそんな事聞くの?」
「めちゃくちゃ不細工とか、態度最悪とか?」
「え?いや…綺麗なお姉さん…だと思うよ?」
「じゃあ…綺麗なお姉さんの方が良くない?」
「……言ってる…意味が…分かんない」
「男の俺なんかより…綺麗なお姉さんの方が、絶対いいだろ?」
俺が…言わせた
俺の無神経な行動のせいで
凌久に…これ…言わせた
「~~っ…凌久っ…」
凌久に抱き付く
「うん…いいよ?何言っても大丈夫だ」
凌久は…
いくら言っても、俺が女の人と付き合ってたの知ってるから
だから、自分が男だって事が不安でしょうがないんだ
「凌久が好きっ……凌久だけ好き……あとは…男の人も女の人も…要らないんだ」
「悠稀…無理しなくていいんだよ?」
「無理じゃないっ…どうしたら…分かってもらえる?凌久だけっ…凌久だけなのに…」
「~~っ…ごめん…ごめん悠稀っ…俺っ…全っ然自分に自信ないから……信じてるって言いながら…いつ悠稀に捨てられても…しょうがないって…どっかで思ってる…弱くて…ごめん」
「凌久っ…」
最初からそうだった
凌久は、俺の事思って
自分の気持ち隠して
いつでも俺が困らない様に
でも…
「ねぇ、凌久……俺達、ちゃんと恋人でしょ?」
「~っ…そうだな?」
「もう…ちゃんと認めて欲しい。凌久の彼氏だって…恋人だって……男の凌久と付き合って大丈夫かどうか…お試し期間は…もう…卒業したいっ…」
「悠稀っ……でも…どっかで逃げ道作っとかないと…」
対象が、女の人になった途端
凌久は、すぐに手放そうとする
「やだっ…いつまでも…気を遣われたくないっ…碧の時みたいに…ヤキモチ妬いて欲しい…女の人だって…一緒だよ凌久…凌久のものなんだから…簡単に…離さないでよっ…」
「~~っ…いいのか?ほんとに?」
「いいに決まってるでしょ?!怒ってよ!なんで、こんなの貰って来るんだ?って…ヤキモチ妬いてよ!凌久の恋人でしょ?!俺、凌久の…んっ…!…んっ…んんっ…」
喋ってる途中で
凌久がキスしてきた
「怒ってるよ…俺じゃ、絶対敵わない女から…しかも…綺麗なお姉さんだ?なんで、そんなもん受け取って来るんだよ?」
「もっと…怒って…ヤキモチ…妬いて?」
「せっかく綺麗なお姉さんに、連絡先教えてもらったのに残念だったな?悠稀は…俺のものだ…俺だけの悠稀なんだから…その連絡先が使われる事はないよ」
「使わない…凌久だけ…こんな人…要らない」
もっと…もっともっと怒って
もっともっと愛して
男も女も関係ない
凌久だけなんだから
凌久以外…要らないんだから
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