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結城 隼人
「あの人…なんで、そんなに俺の事、気に入ったんだろ?」
いや…いやいや
そんなに気に入ってる人なんて、いっぱい居るからね?
お前見たさに、あの店行ってる客、結構居ると思うぞ?
「居ないよ。そんな人」
何故そこまで自信満々に答えれるんだ
謙遜とかじゃなく、ほんとに気付いてない感じだ
皆さんは、お気付きでしょうか?
あの事件があった時
あの女が居る間
悠稀は裏に隠されてたそうです
なのに…
悠稀が映ってる動画やら写真やらが
幾つもあげられてるのは何故でしょう?
彼ら…彼女らは…
一体、いつ、何の為に悠稀を撮っていたのでしょう?
明らかに、ちゃんとした正面からの映像がないのは、盗撮…というものではないでしょうか?
そんでもって
あんなに撮られてて
何故あいつは、全く気付いてないのでしょう?
生まれながらに、人の視線の中で生きてると
あんな風になっちゃうんでしょうか?
「はぁ…心配しかない」
そもそも結城の奴だって、悠稀目的だった訳で
よく今まで無事生きてきたな
いや…気付いてないだけだな
子供の頃すでに、幽霊に気に入られて、拐われそうになってたな
翌日、ほとぼり冷めるまで、バイトを休まされた悠稀が来た
そりゃそうだ
ってか、1人で出歩かないで欲しい
「凌久!」
見てよ
今、この辺の世間で有名な子が
にっこにっこして、ここに居るよ
悠稀と座って麦茶を飲む
「凌久が麦茶、珍しいね?」
「なんか飲みたくなってな。悠稀、麦茶大丈夫?」
「うん。実家居た時は、よく飲んでた」
「なんか、悠稀元気だな?もっと元気なくなってるのかと思ったから、安心した」
「そりゃ…凄く皆に迷惑かけて、俺のせいでほんと…申し訳ないなと思ってるけど…」
そりゃそうだし
ちょっと、怖くなったとかないのかな?
「でも、思いがけず、凌久と居れる」
うわぁ…
聞いた?
ねぇ、世界中の人、聞きました?
どうしてやったらいい?この子
かわい過ぎて無理でしょ
「悠稀、俺も嬉しいけどさ。ほんと、気を付けろよ?今回はたまたま、皆が居る様なとこで事を起こしてくれたけど、そうとは限らないんだからさ」
「もう、あんな事ないよ」
「ったく…どうしてお前は自覚がないかなぁ…」
多分、知らないうちに
それ以上は、近寄っちゃダメだぞオーラみたいの出してんだろな
だから、遠くから見てるってのが普通なんだろな
それに気付かない、ヤバい奴だけが寄って来る
「凌久?」
「んっしょっと…悠稀、おいで」
ベッドに上がり、壁にもたれかかって座り
足と手を広げると
嬉しそうに、俺の前に入って来た
後ろから、ぎゅっと抱き締めると
「凌久~」
「このっ…可愛い奴め」
「ふっ…凌久、凌久~」
「ん…悠稀…俺を選んでくれて、ありがと」
「凌久も、俺を選んでくれて、ありがと」
無数に居る俺のライバル達
その中で俺が選ばれているという現実
エグくない?
くるりと向きを変えて
皆が正面からは撮れなかった顔を
営業スマイルではない
ほんとの笑顔を
惜し気もなく見せてくれる
「凌久…」
俺だけのものにしとくのは
「……ちょっとだけ、勿体ない気もするけど…」
「?何が?」
けど…
やっぱ、少しも他の奴らには、分けてやりたくない
「あんまり可愛い過ぎてさ」
そう言って、頬を撫でると
気持ち良さそうに目を閉じる
これから貰えるであろう大好物を期待して
悠稀の大好物のキスを沢山あげて
いつもの様にトロットロにしてやろうと思ったのに
唇を重ねてすぐに、悠稀の携帯が鳴った
「ごめん、凌久」
「電話だな?」
「うん……固定電話…ちょっと出るね?」
そっと悠稀から離れると
敬語…バイト先か?
そうですと、はい、ばっかり
なんか確認してんのかな
ちょっと、小腹が空いたな
う~~ん…チョコな気分
普通にチョコか、いちご味か…
チョコだな
普通の太さか、極細か…
極細だな
お菓子を手に、開け口を、ペリペリペリ~っと剥がしながら、ベッドへと向かう
俺が、もう少し早くベッドに戻ってたら
ベッドに戻ってから、お菓子の箱を開けてたら
少しは悠稀を騙せただろうか
ベッドの前まで来た時
ちょうど、お菓子の箱部分と蓋部分が離れようとした時
悠稀の口から、信じられない言葉が出てきた
「結城…隼人 …」
「……え?」
瞬間…手のバランスがおかしくなって
お菓子の箱が落下して
ペリペリと剥がしてた、切れ端だけが手に残った
なんで…悠稀があいつの名前…
誰…何処から…
なんで今…
一気に色んな事考え過ぎて
脳がフリーズしてる
フリーズした俺を見て
悠稀も、驚いた様に固まった
「…あっ!すいません…はい…多分、中学の時の同級生だと…はい……あ…すいませんが、今日はちょっと……はい…明日なら…」
とりあえず…何から考えればいいんだっけ?
見えてるのは…切れ端と、落下したお菓子の箱
そうだ…
まずは…これ、拾って…
それから…どうしたらいい?
馬鹿みたいに、お菓子の箱を左手に、切れ端を右手に持って、立ったまま、次の行動を考えてると…
「凌久?どうしたの?」
電話を終えた悠稀が、立ち上がって、目の前に居た
「……いや…これ…食べようかと思ったんだけど…」
じゃなくて…
悠稀、心配してるから
なんか…
安心出来る事…言わなきゃ
「凌久…結城 隼人…知ってるの?」
「…………」
なんて言えばいい?
知らない?
だって…知ってるって、何処でってなる…
答えは…知らないだ
「し…」
「なんで…凌久…震えてるの?」
「…え?」
そう言って、悠稀が抱き締めてきた
震えてる?
そうかも…
「凌久…もしかして…」
ああ…バレた
俺が…馬鹿みたいに呆けてたせいで
「凌久を連れてった奴って…」
悠稀の知り合いだって、バレたくなかったのに
せっかく…知らないままでこれてたのに
「結城 隼人なの?」
なんで肝心なとこで、ミスするかな
ほんと…これだから俺は…
「電話…」
声が…掠れる
「ん?」
「何処から?」
「警察から」
警察…
なんで…
「あの女の人…最初は、結城に依頼されて、俺に近付いたんだって言ってたみたいで…」
「…え?」
「そういう名前の知り合い居るかい?って…」
ああ…なるほど
辻褄が合う
だって、あいつ…イカれてるから
自分が悠稀と付き合いたい訳じゃなくて
悠稀が、男と付き合ってんのが、許せなかったから
俺が居なけりゃ…
悠稀も、あんな綺麗な女に優しくされたら
そりゃ…
付き合ってたかもしれない
「……はっ…ははっ…」
「凌久?」
「すげぇな…やっぱ……お坊っちゃまは…考える事が、ぶっ飛んでる…」
「凌久…やっぱりそうなの?結城が…」
ちゃんと、俺が死んだ後の彼女の用意までしてたんだ
あいつ…
本気で俺の事…
「~っ!」
「凌久?大丈夫?」
悠稀に、しがみ付いたら、お菓子の箱が落ちた
ほんとに…殺される予定だった
今…俺は生きてない予定だった
「~~っ…っ…」
「凌久?凌久?大丈夫?」
「~~っ…悠稀っ…」
「うん…凌久…大丈夫だよ…凌久…大丈夫だよ…」
ずるずると崩れ落ちた俺を、それでも抱き締めて
まるで、震えてるのが、凍えてるせいかの様に
暖める様に、悠稀は、ずっとさすってくれた
少し落ち着いてくると
「凌久…床…足痛いでしょ?ベッド上がれる?」
「ん…」
ベッドに上がると
さっき俺が、そうしてた様に
壁にもたれた悠稀が、
「凌久…」
手を広げてくれて
悠稀の胸の中に、向かい合う様に入ると
俺の背中から、布団を掛けてくれた
「凌久…凌久…」
頭や頬に、沢山キスしてくれる
「……怒んないで…欲しいんだけど…」
「ずるいよ…凌久……こんな状態の凌久…怒れる訳ないよ…」
「ごめん…けど…~~っ…どうしても…悠稀にっ…知られたくなかっ…」
「凌久っ…」
悠稀の胸に顔を埋める
だって…
優しい悠稀が、知ってしまったら
深く深く傷つくから
なのに…
せっかくバレてなかったのに
「俺の…せいなんだね?」
「違うっ…」
「全然…詳しい事分かんないけど…凌久がっ…殺されそうになったのもっ…」
「違うっ…」
「こんな…今でも震えるくらい…怖い思いしたのもっ…」
「違うっ…悠稀っ…」
「~~っ…俺のせいなんだね?…ごめんね?凌久」
最悪だ
なんで俺…大人しくベッドに居なかったかな
なんで俺…あそこで止まったかな
なんで俺…泣いてる悠稀の胸ん中で泣いてんの?
最悪だ…
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