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悠稀の胸ん中

悠稀と布団に包まれた中… 悠稀が話し出す 「結城…確かに、中学と…小学校の時も同じクラスになった事あったと思う…けど…こんな事される位……俺…恨まれる様な事…したかな……」 ああ…そっか 悠稀にしてみたら、そうとしか考えられないよな 「結城は…悠稀の事が好きだったんだよ」 「……………え?」 「だよな?あいつ…相当頭イカれてるから…そうは思ってもらえない行動ばっかしてるよな?けど、ずっと言ってた…悠稀君は…悠稀君が…って」 「……は…悠稀君…なんて…呼ばれた事ない」 「はっ…そうなのか?ほんと…イカれてる」 なんだよ、あいつ 妄想ん中で悠稀君って呼んでたのか? 「待って凌久…それじゃ…なんで凌久を誘拐して…凌久に……それに、あの女の人近付けたり…全然…意味が分からないよ」 「だよな?」 そりゃそうだ 好きな奴の恋人とヤるって意味分かんねぇよな? んで、女近付けさせたり… 「あいつにとって、悠稀は自分の理想の悠稀で居て欲しかったんだ」 「理想…の…」 「彼女が居ても、皆の人気者で…だから、男の自分なんかが近寄っちゃダメだって、思ってたらしいのに…俺と付き合ったのが、相当許せなかったんだろな」 「許せないって…じゃあ、なんで俺じゃなく凌久なの?」 なんで… イカれてるから でもさ、なんか分かるよな だって浮気とかもさ よく、恋人じゃなく浮気相手恨まれるじゃん? 「やっぱ何したって、悠稀の事は恨めないし、どこまでも男の自分が触れちゃダメだって思ってたらしいよ?」 「…じゃあ、凌久を…誘拐とか…こ…殺そうなんて……思ったり…は…何となく分かる……でも、なんで凌久と……~~っ…セックス…するの?全然…意味分かんないよっ…」 「悠稀…」 初めて…ちゃんと言葉にした 意味分かんなかったよ俺も… 意味分かんないし、意味ないし… あんなとこで、あんな生活してて 俺みたいにしたの初めてじゃなくて 金持ちのお坊っちゃまの 一時の快楽の為に… 散々ヤられて…殺されるんだって… 考えも、環境も 全てが現実離れし過ぎてて ああ…もう何が起こってもおかしくないんだって思って 悠稀の居ないとこで 悠稀じゃない奴にヤられて死ぬなんて 地獄でしかないのに ないのに…俺……俺…あの時…… 「~~~~っ!」 「凌久?」 結城に…褒めてもらいたくて 「ごめんっ……~~っ…ごめんっ…悠稀…」 「凌久…なんで凌久が謝るの?謝るのは、俺だよ」 違う… ずっと…ずっとあった罪悪感… 「~~~~っ…俺っ…俺っ…」 「凌久?大丈夫…大丈夫だよ?」 「あいつにっ…褒められたいって……っ…思って……」 「凌久…」 「あいつが喜んでくれると…ほっとして……っ…悠稀じゃないのに…っ…あいつとヤってて……褒められて喜んでたんだっ…~~~っ…ごめんっ…」 やっと謝れた ずっと謝りたかった これを謝るって事は 悠稀を傷つけるって事 言えなかった でも… もう隠してるの限界 隠して騙して 悠稀に心配してもらって ぽんっ… ? ぽんっ…ぽんっ… 悠稀が、布団の上から、俺の背中ぽんぽんしてきた 「……悠稀?…怒って…いいんだぞ?」 「怒らない」 「なんでだよ?!怒れ!悠稀が傷ついて泣くって、分かってて言ったんだ…怒れ!」 ぽんっ…ぽんっ… 「優しい凌久が…俺を傷つけたい訳ない。俺を傷つけるって事は、凌久も傷つくって事。俺は今聞いたけど、凌久は…~~っ…凌久は、あれからずっと…傷ついてたんでしょ?言ってしまいたくても、言えなくて…」 「~~っ…理由が…何だろうが…許せない俺がいて……っ…悠稀に隠して…心配してもらってた」 結城に従順な…素直な… 結城の笑顔に安心して 最終的には、結城が見当たらない事に不安さえ覚えた 「俺っ…おかしくなってたんだっ……でも…俺がした事なんだっ…」 「凌久…結城は…凌久を憎くて抱いたの?俺への嫌がらせ?」 「違う……悠稀の……」 「俺の?」 「~~~~っ…悠稀君の…~っ…痕跡っ……」 「え?」 「俺の…か…体中にある…はっ…悠稀のっ…痕跡っ……全部…全部っ!」 「凌久…大丈夫…大丈夫だよ…凌久」 なんで今更、こんなに体が震えるのか 自分でもよく分からない 考えてみたら あの時の方が もう恐怖からは遠ざかってた気がする 「凌久…凌久…」 勝手に震えて ガチガチに力が入ってる俺の体を 悠稀が、優しくさすってくれる 「凌久…もう、結城の痕跡なんか、全部消えたよ?また…全部俺になったでしょ?」 「ん…」 「拉致監禁されて…変な物飲まされて…殺されそうになって…っ…訳の分からない理由でっ…好きにされてっ…っ…そんなのっ…普通で居たら…壊れちゃうよっ……凌久は…生きる為に自分…守ったんだよ?…こうしてっ…また俺と居れるって信じてっ…1人で闘ってたんだよ?謝る事なんて何もないよ?凌久…」 理屈はそうだけど、頭で理解したって 気持ちは許せないと思う でも、それでも… 俺が言い訳に思ってた事…悠稀が言ってくれて なんだか…一気に気持ちが軽くなった 「悠稀…」 「んっ…」 「おかしくなっても…悠稀のとこ帰るの…諦められなかった」 「~~っ…うんっ…」 「あいつに…何度も言われた……こんな事した俺が…悠稀んとこ戻ったら…悠稀傷つけるからって」 「~~っ…結城に…言われたくないっ…」 「ははっ…だよな…」 でも… それでも、何度も夢に見た 悠稀を傷つけてしまう夢 「結局、沢山悠稀傷つけて…泣かせた…」 「凌久のせいじゃない」 「悠稀…ほんとは…~~っ…ほんとはっ…ほんの少し…くらいは……」 「凌久?」 「きっ…気持ち悪い…とか…思った?」 「……え?」 「見えてただろ?俺の…腕も…首も…足も……あんなに…キスマーク付ける様な…セックス…他の男としてきた俺……」 あまりにも悲惨で、可哀想な状況だったから 生きるか死ぬかみたいな状況だったから まずは、治療に専念する時間があって そういう事話し合う前に、キスマークも消えて ほんとに、ちゃんとセックスするまでは、だいぶ時間も空いたから それでも… 他の男と、散々してきた奴抱くって… どんな気分? 「~~~~っ…凌久っ……俺…そんな顔して…凌久の事抱いてた?」 「…え?いや…」 「そんな…凌久が不安になる様な、抱き方した?」 「違う!ただ…悠稀は、優し過ぎるから…今だって、俺の気持ちの事ばっかで…だから…俺の為なら上手に嘘くらいつけそうだし…」 「凌久が生きてた…凌久とまた一緒に居られる…それだけで奇跡なんだよ?」 それは分かるけど 家族とは違う 恋人は、そんな綺麗事だけじゃない 「凌久の体がキスマークだらけで、喉使い過ぎで声出なくなってて、けど…体力はなくなってるのに、どこにも怪我してなくて……色んな事、考えなかった訳じゃないよ?」 「……うん」 「だけど…病院行って凌久に会うと、もうそれだけで幸せで…そんなのっ…そんな事考えてるより…少しでも凌久と居る時間楽しみたくて…」 きっと、ずっと大変だったはずだ なのに毎日…毎日… 「けどさ…退院して…すっかり元気になったらさ、色々考え出すだろ?そんで…実際…俺の体に触れたり……挿れたり…するの……やっぱ少しは、気持ち悪いとか……汚ないとか…」 「思わない!思わないよ、凌久…」 悠稀は、絶対そう言う だから、ほんとが分からない 「ありがと…悠稀…」 だから…こう言うしかない 「ねぇ、凌久…気付いてる?」 「何が?」 「凌久が、こうして悩むのも、苦しむのも、傷ついてるのも、全部俺のせいなんだよ?」 「悠稀を好きな、結城のせいだろ?」 「けど、俺と結城の問題なんだ。なのに…凌久は巻き込まれただけなのにっ…凌久が1番傷ついて…ごめんっ…ごめんね?凌久っ…」 だから、知られたくなかった 最終的に、悠稀が泣きながら謝る事になるから あいつの、勝手な妄想と行動で 悠稀の知らない所で起きた事なのに 俺の浅はかな考えで 軽率な行動で起きてしまったのに 俺じゃない方がいいんだろなって思う 俺じゃなきゃ、悠稀が、こんなに泣く事ないんだろなって思う 思えば、悠稀と付き合い始めた時は 幾つかの心得なんて物作って いつ終わりがきても 笑ってありがとうって言えるって思って それが、こんな泣かせてんのに 別れたくないとか 随分我が儘で強欲になったもんだ 悠稀の胸に擦り寄る 「凌久?」 どんなに何があっても ここを、俺だけの場所にしてくれてる悠稀 悠稀にとって、今まで何人居たか分からない彼女達とは、まるで違う恋人 戸惑いも…不安も…窮屈も…理不尽も… 俺が相手だから、思わなければならない、幾つもの負の感情 けど、それでも俺に会うと 幸せが溢れ出る様な笑顔を見せてくれる 「悠稀…」 悠稀の胸に、顔をすりすりとすると 「凌久…」 優しく頭を撫でてくれる 数え切れない程の、あり得ないの上に 不安定に乗っかってるこの奇跡 遠くから見てた時より なんとか1回ってお願いした時より 勘違いでもいいからって思ってた時より どんどん…どんどん…好きになってる 「悠稀…」 悠稀の鼓動を聞く様に 胸の上に耳を当てる それでも悠稀の為なら別れる覚悟はある だって、付き合ったその日から、充分過ぎるを 沢山貰ってきたから 悠稀が離れたいとか 俺と居る事で悠稀が苦しむなら どんなに嫌で泣いたって 笑顔にはなれないかもしんないけど ありがとうって別れてやる 「凌久…何か…言いたいの?」 「……ん」 「言っていいよ?何でも言って?」 いっぱい考え過ぎて 今、何言えばいいのか分かんなくなった 「……ここに」 「?…ここ?」 「悠稀の胸ん中…」 「うん…?」 「入れてくれるの…俺にしてくれて…ありがとう」 何言ってんだろ なんで、そんな事言ったんだろ? あれこれ考え過ぎて 頭ショートして、出てきたのが そんなんだった 震えて…泣いて… 力抜けて… こんな心地いい中で 頭ショートするまで色々考えたから 俺は、世界一の特等席で眠ってた

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