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ずるくて、汚ない心

名前聞いても、顔すらうろ覚えな同級生 その名前を出したら 何故だか凌久が、驚いて固まって 持ってたお菓子まで落とした 俺の小中学校の同級生の名前なのに 凌久が知ってて あの女の人も知っている 何が起きてるの? 警察の人が、話を聞かせて欲しいって言ってきたけど こんな凌久の傍、離れられない 明日にしてもらった 凌久が、明らかにおかしくて 全然大丈夫じゃなさそうなのに 何でもないふりをして…… 震えている 凌久が…震えている 凌久が震える理由なんて… じゃあ… 凌久を連れ去ったのは… なんでかなんて分からない けど、2つの事件はどっちも 俺の同級生が関係してる 俺のせいだ 凌久が今震えているのも そうなるだけ怖い思いしたのも 俺のせいなんだ 震えて…座り込んだ凌久 凌久は知ってたんだ 俺のせいだって知ってて こんなに怖い思いして それでも俺に言わなかったんだ たった一言も… 震える凌久を、ベッドの上で 暖める様に包み込む 顔もちゃんと思い出せない様な同級生 俺は、一体何をしたんだろう ここまでされるくらいの事しておいて 俺は、忘れてしまってたんだろうか… そう考えてると、凌久が 「結城は…悠稀の事が好きだったんだよ」 「……ずっと言ってた…悠稀君は…悠稀君が…って」 益々…理解出来ない様な事を言ってきた 俺の事が好き? どこを取っても…そうとは思えない行動ばかり ずっと言ってた? 悠稀君なんて…呼ばれた事ない 意味が…分からな過ぎるし… 凌久に…悠稀君って言ってたの? 凌久が…結城の理想とか… そうじゃないから許せないとか、説明する けど…いくら聞いても、全然理解出来ない 忘れてしまう位前の同級生が 俺の事好きで 凌久を誘拐して、凌久を…散々……して… 凌久を殺そうとして あの女の人俺に近付けて 聞けば聞く程 理解出来ない 「やっぱ何したって、悠稀の事は恨めないし、どこまでも男の自分が触れちゃダメだって思ってたらしいよ?」 分かんないけど じゃあ…俺を好きで、男の凌久が付き合って それで、恨みの方向が凌久に向かったってのは 何となく理解するよ? けど… 「……でも、なんで凌久と……~~っ…セックス…するの?全然…意味分かんないよっ…」 「悠稀…」 なんで? 俺の事が好きで 凌久を恨んでて それで… なんで凌久とセックスするの? 全然腑に落ちない せっかく結城って人物で全てが繋がったのに なんで凌久があんな… あんな事されなきゃなんなかったのか 全然理解も納得も出来なくて 理不尽が怒りに変わってしまいそうと思った時 「~~~~っ!」 「凌久?」 凌久が… 「ごめんっ……~~っ…ごめんっ…悠稀…」 泣きながら謝り出した なんで… 「凌久…なんで凌久が謝るの?謝るのは、俺だよ」 凌久が1番の被害者でしかない 俺のせいで凌久は… それなのに… 絞る様に声を出して きっと…ずっと思ってたんだ 「あいつにっ…褒められたいって……っ…思って……」 「凌久…」 言ったら俺を傷つけるから 言えなかった沢山の言葉 言葉に出来なくて ずっと1人で抱えてた、沢山の気持ち 「あいつが喜んでくれると…ほっとして……っ…悠稀じゃないのに…っ…あいつとヤってて……褒められて喜んでたんだっ…~~~っ…ごめんっ…」 信じられないよ? 信じたくないよ? 凌久が…俺以外の誰かと…して… 褒められて喜んでたなんて…… けど… そんなのきっと、凌久自身信じたくなくて 言えなかったんだ だって、それは… それ以上に信じたくない… 信じられない状況にさせられたんでしょ? だって 発見されて入院してから今まで ずっとずっと苦しんでたんでしょ? 全部…俺が原因なのに そんなの一欠片も見せないで 凌久が、こんなに小さくなって 泣きながら謝らなきゃなんない事なんてない 俺を恨んだって当然なのに 優しくて…優しい凌久… ごめんね…凌久 けど、きっと… 俺が謝ったら、また凌久は傷つくのかな ぽんっ… 凌久を包んでる布団の上から 凌久の背中に手を乗せる ぽんっ…ぽんっ… どうしたらいい? どうしたら… 凌久は救われるの? 「……悠稀?…怒って…いいんだぞ?」 「怒らない」 「なんでだよ?!怒れ!悠稀が傷ついて泣くって、分かってて言ったんだ…怒れ!」 そんなの…真実なんだから、言って当然なんだよ? もっと… 俺に会った瞬間に お前のせいで、酷い目に遭った 殺されかけたんだぞ!って… 怒っていいのに 俺のせいなのに 俺が傷ついて泣くからって黙ってて 言ったから怒れって… 意味が分からないよ、凌久… ぽんっ…ぽんっ… 優し過ぎて 思考が…おかしくなっちゃってるんだ 「~~っ…理由が…何だろうが…許せない俺がいて……っ…悠稀に隠して…心配してもらってた」 許せないのは、俺の事なんだよ? 優しさで隠してるのは辛い事で 凌久が心配されるのは当然で それに罪悪感を感じてるなんて おかしな事なんだよ? けど、きっと 罪悪感を感じてしまう様な抱かれ方…したんだと思う 凌久が悪いんじゃなくても そう思ってしまう様な… 「俺っ…おかしくなってたんだっ……でも…俺がした事なんだっ…」 そう言わせてしまう様な… なんで凌久を… 「凌久…結城は…凌久を憎くて抱いたの?俺への嫌がらせ?」 「違う……悠稀の……」 「俺の?」 「~~~~っ…悠稀君の…~っ…痕跡っ……」 悠稀君の痕跡? 全然意味が分からない 分からないけど 凌久が…また怯え始めたのは分かる 「俺の…か…体中にある…はっ…悠稀のっ…痕跡っ……全部…全部っ!」 「凌久…大丈夫…大丈夫だよ…凌久」 凌久を抱き締める 凌久の体中にある俺の痕跡… 全部…全部… それだけで 結城の異常性が分かる様な気がした 多分、片鱗でしかないんだろうけど 俺と親しくもないのに 俺と付き合ってる凌久を監禁して 凌久の体にある俺の痕跡? とても…普通の考えじゃない 普通の考えじゃない人間に こんなに震えるだけの事されたんだ それなのに、俺にずっと罪悪感まで抱いて なんてものを 凌久に与えてしまったんだろう 「凌久…凌久…」 震えて… 凄く体に力入ってる あれから結構経ってるのに こんなに… 優しく凌久の体をさする 「凌久…もう、結城の痕跡なんか、全部消えたよ?また…全部俺になったでしょ?」 「ん…」 凌久が、どれだけ一生懸命闘って生きて俺のとこ帰って来てくれて 今、こうして、俺と居てくれてるのか 凌久が謝る事なんて何もないんだって伝えたら 「おかしくなっても…悠稀のとこ帰るの…諦められなかった」 諦められなかった… 諦めるくらいの状況に… 「~~っ…うんっ…」 「あいつに…何度も言われた……こんな事した俺が…悠稀んとこ戻ったら…悠稀傷つけるからって」 だから… 凌久はこんなにも… 「~~っ…結城に…言われたくないっ…」 「ははっ…だよな…」 究極の状況で 植え込まれたんだ 俺と結城のせいなのに 凌久が悪い事してるって 「悠稀…ほんとは…~~っ…ほんとはっ…ほんの少し…くらいは……」 「凌久?」 「きっ…気持ち悪い…とか…思った?」 凌久が… 凄く言いづらそうに 俺の服を、きゅっと掴みながら そう聞いてきた ……気持ち悪い?…って? 「見えてただろ?俺の…腕も…首も…足も……あんなに…キスマーク付ける様な…セックス…他の男としてきた俺……」 少しずつ…少しずつ… 怯えながら…葛藤しながらも また、俺に体を預けてくれる凌久が 愛おしくて…愛おしくて… それ…伝わってなかった? 俺…凌久が不安になる様な 抱き方した? 俺のせいで傷ついた凌久… 更に傷つけてた? 「~~~~っ…凌久っ……俺…そんな顔して…凌久の事抱いてた?」 「違う!ただ…悠稀は、優し過ぎるから…今だって、俺の気持ちの事ばっかで…だから…俺の為なら上手に嘘くらいつけそうだし…」 優し過ぎるのは凌久 今だって、俺の気持ちの事ばっかは凌久 いつも…いつもいつも どんな時も、自分がどんな状況になっても… そんな凌久が大切で…大切で… どうしよう 凌久の優しいが大き過ぎて 俺なんか全然勝てない どれだけ話しても 凌久の、どこまでも続く優しいに 勝てないよ 「けどさ…退院して…すっかり元気になったらさ、色々考え出すだろ?そんで…実際…俺の体に触れたり……挿れたり…するの……やっぱ少しは、気持ち悪いとか……汚ないとか…」 「思わない!思わないよ、凌久…」 どうすれば伝わるの? どうしたらいいの? ずっとずっと優しいは 凌久が疲れちゃうよ 凌久が傷ついちゃうよ 「凌久が、こうして悩むのも、苦しむのも、傷ついてるのも、全部俺のせいなんだよ?」 「悠稀を好きな、結城のせいだろ?」 「けど、俺と結城の問題なんだ。なのに…凌久は巻き込まれただけなのにっ…凌久が1番傷ついて…ごめんっ…ごめんね?凌久っ…」 全然伝わってない気がする 全然俺のせいだなんて思ってない気がする 俺のせいにして、沢山文句言ってくれればいいのに まるで、そんな気にはなってなさそうで 俺は一体凌久に 何をしてあげればいいんだろう すりっ… ? 凌久が、俺の胸に擦り寄ってきた 「凌久?」 「悠稀…」 そう言って すりすりと、顔を擦り寄せてくる さっきまでの 焦燥感や、罪悪感や、沢山の解決出来ない気持ち達が 一気に収まっていく 「凌久…」 優しく凌久の頭を撫でる 凌久が、俺に甘えてくれる それだけで、ほっとする 頑張ったり、泣いたりじゃなく 甘えてくれると… ほんとに許されてるって思える 優し過ぎる凌久は… もしかしたら、それすらも考えてるんじゃないかとか、思っちゃうけど 「悠稀…」 俺の胸に顔を擦り寄せたまま 俺の名前を呼ぶ 「凌久…何か…言いたいの?」 「……ん」 「言っていいよ?何でも言って?」 何でも… 頭の端っこに 考えたくない事が浮かぶ でも… 仕方ないと思う こんなになりながら それでも俺を思って頑張ってきてくれた凌久 疲れちゃうよね? 「……ここに」 「?…ここ?」 あれ? なんか… 「悠稀の胸ん中…」 「うん…?」 なんか… 思ってたのと…違う? 「入れてくれるの…俺にしてくれて…ありがとう」 あまりにも、予想と違い過ぎる言葉に ちょっと思考が追い付かなかった 何て…言ってくれた? 悠稀の胸の中…って、俺の胸の中 入れてくれるの…俺にしてくれてって、凌久って事 俺の胸の中に、凌久を入れて…ありがとうって言われたの? ありがとうって…そんなの… 俺が、ありがとうだよ どれだけ、ありがとうだと思ってるの? 凌久… ぽたぽた… 「あ…」 涙…落ちちゃったと思ったら 凌久は、気持ち良さそうに眠ってた ほんとに… 今の言葉が、ほんとだよって言う様に 幸せそうな…満足そうな顔して… 「~~っ…凌久…ありがとう…っ…ありがとう…」 俺が何も知らないで心配してた凌久は 心配してる俺のせいで、あんな目に遭ってた あんな目に遭った凌久は それでも俺を傷つけない様にって事ばかり考えてた きっと、あのタイミングで 凌久の目の前で、結城の名前を出してなかったら 優しい凌久は ずっと俺に隠してたんだろう 「っ…凌久っ…」 それでも俺を選んでくれる凌久 それでも、ここがいいって安心して眠ってくれる凌久 俺と付き合ってなかったら、こんな事になってなかった きっと、俺が恋人じゃない方がいいんだろう でも凌久…ごめんね? 俺は…凌久ほど優しくないんだ 凌久が、まだ少しでも俺を好きで居てくれるなら 凌久が、まだ少しでも、ここを選んでくれるなら 俺は…凌久の優しさに甘えて 少しでも長く…凌久と居たいんだ すっかり眠った凌久を ベッドに横にして 少し離れた俺の胸に、擦り寄ってきた凌久を 優しくて綺麗な凌久を ずるくて、汚ない心で抱き締めた

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