90 / 110

奇跡

翌日、警察に行き話を聞くと 結城と、いつ同じクラスだったのか どの位親しかったのか 連絡は取り合ってたのか そんな事を、細かく聞かれて… 「ありがとうございました」 終わった… 「あの…」 「はい?」 「結城は…逮捕されてるんですか?」 「現在、事実確認中ですね」 「いえ…結城…少し前に起きた別の事件の犯人ですよね?」 「別の事件…ですか?」 「人を…監禁して……殺そうとしてますよね?」 警察官の人が驚いている まさか、俺がそんな事知ってるとは、思わないよね 「どうして、そう思われるのですか?結城とは、連絡取ってなかったんですよね?」 「その…監禁された人が、俺の知り合いだからです」 「その話が本当なら、結城を憎んでいましたか?」 え? 話が… 「その犯人が結城だと知ったのは…昨日です」 「昨日?」 「昨日…警察の人から電話がかかってきて…結城って誰だっけ?と思って、口に出した時…その知り合いが居て、驚いてたので……」 「……そうですか…ですが、それは別人じゃないですかね?」 「え?」 何言ってるの? だって、凌久を酷い目に合わせた結城が 悠稀君って言ってたんでしょ? 「そんな大事件の犯人という事実はありませんよ?同姓同名じゃないですかね?」 「……そんなはず…ありません」 「けれども、今回の事件に、その知人は絡んでないんですよね?結城を取り調べたら、何か分かるかもしれませんが…現時点でそんな情報は、私達の元には、入ってきてませんね」 なんで… 何十年も前の話じゃないよ? ちょっと前の… 凌久をあんなにした… なんで… 「それでは、本日はご協力ありがとうございました」 ご協力… 協力して…何になるの? 凌久が言ってた 凄くお金持ちだから、報道されないんだって けど… 警察の人も知らないの? じゃあ… 協力して何の意味あるの? 俺と結城の関係調べて… 凌久だって… あんな中、警察の人に話したのに… ご協力…ありがとうございました…… ひどく… 無機質な言葉に聞こえた ピンポ~ン 「悠稀…警察、行って来たのか?」 「……行って来た」 「?どうかしたのか?」 「…………」 どうか… どうかしてる なかった事になってる 「とりあえず中、入れよ」 凌久が…殺されそうになったのに 未だに震える程の思いしたのに 「何飲む?麦茶か……悠稀?」 冷蔵庫に向かう途中の凌久に、後ろから抱き付いた 抱き付いたら 「どうした?何か…嫌な事聞いてきたか?」 そう言って、俺の手に重ねてくれた 「凌久…」 「ん?」 「凌久の…」 事件… 「凌久が…」 あんな思いしたのに… 「~~~~っ!」 「悠稀?」 なかった事に… くるりと凌久が向きを変えて 「何聞いて来たんだ?」 ぽんぽんと背中に手を置く 「結城…」 「ん…」 「監禁とか……してたから、逮捕されてる?って、聞いたら……」 「ああ……そんな事実ないとか言われた?」 「……なんで」 なんで凌久が そんな冷静に言えるの? 「出来れば、あいつが過去にやらかした事とか…殺されてる人が居るなら、それだけでも調べてもらえないかぁ…と、思ったんだけどな」 「他の人の事は知らない…凌久が…あんな目にあったのに…」 「な?理不尽だよな?けど、それは俺…とっくに諦めてたから……俺の為に、そんな風に思ってくれて、ありがと」 俺の為にって… 俺のせいで凌久は巻き込まれて それで… 「俺は…許せない」 「うん…」 「なかった事になんて…許さない」 「うん…」 「凌久が!あんなにっ!…今でもまだっ…」 「……うん…な?」 「なんで凌久っ…もっと…!」 怒るでしょ? あんな目に合って なかった事にされて なんで… 「あいつん家行った時から、住む世界違うって 思ってた。あり得ない世界で生きてんだって思った。ほんとにあり得な過ぎて…まともに殺されたら、まだいいのかもとか…思った」 「~~っ…そんなっ…」 そんな思いまでして… 「けど、殺されなかった。悠稀んとこ戻って来れた。なかった事にされんのは腹立つけど、それと引き換えに、俺達は平穏な生活送れてる。悠稀と…あんな事嘘だったみたいな生活に戻れた。それだけで充分だ」 「でもっ…だって、そんなのっ…」 「言ったらキリがない。けど、1番大事なもの守れたから…あとはいいや」 「~~っ…凌久っ…」 許せないけど 絶対許したくないけど 凌久がそう言うなら 1番大事なもの… 守れたなんて思えないけど 1番大事なものが そう言うなら 今がいいんだって言ってくれるなら 「ごめんね…凌久…」 「だから、悠稀が謝る事じゃないんだって」 「でも…凌久が俺と居てくれるなら…凌久と居たいからっ…」 「ん…俺も悠稀と居れて幸せ」 そうだね…凌久… なんで?なんで?って… ずっと辛い思いしてるより… 「凌久…凌久…」 「ん…」 凌久の髪…耳…頬… 凌久を確かめる様に… 「凌久…凌久…」 凌久の首…背中…腰… 「そんな風に触られたら…シたくなる」 凌久が俺の首に腕を回してくる 「~~っ…凌久が許すなら…凌久がこれでいいなら…っ…俺もいい事にするっ…」 「いいよ…これで…俺にとっては奇跡だから」 「~~っ凌久…」 奇跡 今が奇跡 「悠稀…キスしていい?キスしたい」 「いい…っ…凌久のキス…好き……っ…また…凌久にキスしてもらえるっ…凌久…」 凌久のキス 他の誰でもない 凌久のキス 凌久だけの仕草 凌久だけの…キス 「んっ…凌久……」 「悠稀…」 「はっ…ん…凌久…」 「ふっ…悠稀のその顔…ヤバッ」 だって… 凌久… 凌久とキスしてるのも 奇跡だから 凌久が 乗り越えて 許して だから今 俺は穏やかに過ごせてる 凌久だから… 凌久がくれた奇跡だよ 「ふっ…大丈夫?」 「~~っ…んっ…」 「このまま続きしたいとこだけど、実は今日さ、やりたい事があるんだ」 「…やりたい事?」 「ちょっと待って」 凌久が俺から離れると キッチンから、何か… 「へへっ…これポチっと買ってしまった」 「たこ焼きプレート!」 「そ。悠稀と買い物行って、たこ焼き作って食いたいなと思ってさ」 「楽しそう!」 「だろ?買い物…行かない?」 買い物… あれから俺が何も言わないから 凌久は、コンビニ位しか行ってないんだと思う あとは…ネット注文とか… これは… 凌久からの優しいサインだ いつまでも、こんなままじゃ居られない 俺の知らないとこで、買い物行ったって、バレないのに 多分…そうじゃなくて 俺と前に進もうとしてくれてる 「行く。行こう」 ありがとう…凌久 2人でカートを押しながら歩く 「まずは、たこ焼きの粉とソース、タコと、天かすと、小ネギ、卵、かつお節…」 「キャベツ、桜えび、紅ショウガも好き」 「あ、俺も。あった方がいいな。タコの他になんか入れる?」 「う~ん…チーズ」 「いいね。豚肉も少し買ってくか」 「うん」 凌久を見る人達が怖かった 凌久の傍を通る人達が怖かった また… 凌久を連れてっちゃうんじゃないかって そんな事あり得ないけど あり得ない事が起こったから だけど… 「粉、どれにする?」 「何が違うのかな?」 「出汁?あとは…長芋入ってると、ふわふわとか違うらしい」 「出汁…色々あるんだね?」 前みたいに気にならない 不安がない訳じゃないけど 時間…だけじゃない その時間で 2人で1歩1歩進んで来たからだ 「デザートも買ってこ♪︎」 「入るかなぁ」 「デザートは別腹だろ?プリン…エクレア…シュークリーム…なんにしよっかなぁ」 「プリンくらいなら分かるけど、エクレアとかシュークリーム、入らないよ」 「そっか?あ、アイスもあるな」 「アイス、ここからだと溶けちゃうよ」 普通に出来てた事 皆が普通に出来てる事 それが出来なくさせられた 理不尽さ けど 1番理不尽な凌久が 楽しそうに笑ってるから 1番怖い思いした凌久が 前に進もうとしてるんだから 「結構、色々買っちゃったな?買い過ぎた」 「……凌久」 「ん?」 「買い物…やめさせてごめんね?」 「……いや…あの時の俺…まだ、結構おかしかったし…あんなん見たら、そりゃ心配になるわ。それに、便利な時代だから、別に不自由してないし」 でも、2人で買い物ってのもあるけど きっと、実際に来て買い物するの 楽しかったんだ 凌久…凄く楽しそうに、色んな物沢山買ってた 「俺に合わせてくれて、ありがとう。また、買い物行こ?」 「おお。2人で買うと、一気に買って来れるしな」 「うん」 「何より、楽しい」 「うん!」 いつかの買い物の帰りは、凌久の筋肉褒めて それを、通りすがりの人に聞かれて 真っ赤になって その筋肉 なくなっちゃうような事あって 苦しんで 2人して沢山泣いて 今また、楽しく買い物してる なんで?も 理不尽も 沢山…山の様に… けど… その全ての上に 今がある 今…この幸せがあるんだ 「よ~~し!美味しいたこ焼き作るぞ~」 「うん!」 分からない事なんて知らない 乗り越えた悲しい過去はもう、さよなら 今日もまた…奇跡は続いてる

ともだちにシェアしよう!