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奇跡
翌日、警察に行き話を聞くと
結城と、いつ同じクラスだったのか
どの位親しかったのか
連絡は取り合ってたのか
そんな事を、細かく聞かれて…
「ありがとうございました」
終わった…
「あの…」
「はい?」
「結城は…逮捕されてるんですか?」
「現在、事実確認中ですね」
「いえ…結城…少し前に起きた別の事件の犯人ですよね?」
「別の事件…ですか?」
「人を…監禁して……殺そうとしてますよね?」
警察官の人が驚いている
まさか、俺がそんな事知ってるとは、思わないよね
「どうして、そう思われるのですか?結城とは、連絡取ってなかったんですよね?」
「その…監禁された人が、俺の知り合いだからです」
「その話が本当なら、結城を憎んでいましたか?」
え?
話が…
「その犯人が結城だと知ったのは…昨日です」
「昨日?」
「昨日…警察の人から電話がかかってきて…結城って誰だっけ?と思って、口に出した時…その知り合いが居て、驚いてたので……」
「……そうですか…ですが、それは別人じゃないですかね?」
「え?」
何言ってるの?
だって、凌久を酷い目に合わせた結城が
悠稀君って言ってたんでしょ?
「そんな大事件の犯人という事実はありませんよ?同姓同名じゃないですかね?」
「……そんなはず…ありません」
「けれども、今回の事件に、その知人は絡んでないんですよね?結城を取り調べたら、何か分かるかもしれませんが…現時点でそんな情報は、私達の元には、入ってきてませんね」
なんで…
何十年も前の話じゃないよ?
ちょっと前の…
凌久をあんなにした…
なんで…
「それでは、本日はご協力ありがとうございました」
ご協力…
協力して…何になるの?
凌久が言ってた
凄くお金持ちだから、報道されないんだって
けど…
警察の人も知らないの?
じゃあ…
協力して何の意味あるの?
俺と結城の関係調べて…
凌久だって…
あんな中、警察の人に話したのに…
ご協力…ありがとうございました……
ひどく…
無機質な言葉に聞こえた
ピンポ~ン
「悠稀…警察、行って来たのか?」
「……行って来た」
「?どうかしたのか?」
「…………」
どうか…
どうかしてる
なかった事になってる
「とりあえず中、入れよ」
凌久が…殺されそうになったのに
未だに震える程の思いしたのに
「何飲む?麦茶か……悠稀?」
冷蔵庫に向かう途中の凌久に、後ろから抱き付いた
抱き付いたら
「どうした?何か…嫌な事聞いてきたか?」
そう言って、俺の手に重ねてくれた
「凌久…」
「ん?」
「凌久の…」
事件…
「凌久が…」
あんな思いしたのに…
「~~~~っ!」
「悠稀?」
なかった事に…
くるりと凌久が向きを変えて
「何聞いて来たんだ?」
ぽんぽんと背中に手を置く
「結城…」
「ん…」
「監禁とか……してたから、逮捕されてる?って、聞いたら……」
「ああ……そんな事実ないとか言われた?」
「……なんで」
なんで凌久が
そんな冷静に言えるの?
「出来れば、あいつが過去にやらかした事とか…殺されてる人が居るなら、それだけでも調べてもらえないかぁ…と、思ったんだけどな」
「他の人の事は知らない…凌久が…あんな目にあったのに…」
「な?理不尽だよな?けど、それは俺…とっくに諦めてたから……俺の為に、そんな風に思ってくれて、ありがと」
俺の為にって…
俺のせいで凌久は巻き込まれて
それで…
「俺は…許せない」
「うん…」
「なかった事になんて…許さない」
「うん…」
「凌久が!あんなにっ!…今でもまだっ…」
「……うん…な?」
「なんで凌久っ…もっと…!」
怒るでしょ?
あんな目に合って
なかった事にされて
なんで…
「あいつん家行った時から、住む世界違うって
思ってた。あり得ない世界で生きてんだって思った。ほんとにあり得な過ぎて…まともに殺されたら、まだいいのかもとか…思った」
「~~っ…そんなっ…」
そんな思いまでして…
「けど、殺されなかった。悠稀んとこ戻って来れた。なかった事にされんのは腹立つけど、それと引き換えに、俺達は平穏な生活送れてる。悠稀と…あんな事嘘だったみたいな生活に戻れた。それだけで充分だ」
「でもっ…だって、そんなのっ…」
「言ったらキリがない。けど、1番大事なもの守れたから…あとはいいや」
「~~っ…凌久っ…」
許せないけど
絶対許したくないけど
凌久がそう言うなら
1番大事なもの…
守れたなんて思えないけど
1番大事なものが
そう言うなら
今がいいんだって言ってくれるなら
「ごめんね…凌久…」
「だから、悠稀が謝る事じゃないんだって」
「でも…凌久が俺と居てくれるなら…凌久と居たいからっ…」
「ん…俺も悠稀と居れて幸せ」
そうだね…凌久…
なんで?なんで?って…
ずっと辛い思いしてるより…
「凌久…凌久…」
「ん…」
凌久の髪…耳…頬…
凌久を確かめる様に…
「凌久…凌久…」
凌久の首…背中…腰…
「そんな風に触られたら…シたくなる」
凌久が俺の首に腕を回してくる
「~~っ…凌久が許すなら…凌久がこれでいいなら…っ…俺もいい事にするっ…」
「いいよ…これで…俺にとっては奇跡だから」
「~~っ凌久…」
奇跡
今が奇跡
「悠稀…キスしていい?キスしたい」
「いい…っ…凌久のキス…好き……っ…また…凌久にキスしてもらえるっ…凌久…」
凌久のキス
他の誰でもない
凌久のキス
凌久だけの仕草
凌久だけの…キス
「んっ…凌久……」
「悠稀…」
「はっ…ん…凌久…」
「ふっ…悠稀のその顔…ヤバッ」
だって…
凌久…
凌久とキスしてるのも
奇跡だから
凌久が
乗り越えて
許して
だから今
俺は穏やかに過ごせてる
凌久だから…
凌久がくれた奇跡だよ
「ふっ…大丈夫?」
「~~っ…んっ…」
「このまま続きしたいとこだけど、実は今日さ、やりたい事があるんだ」
「…やりたい事?」
「ちょっと待って」
凌久が俺から離れると
キッチンから、何か…
「へへっ…これポチっと買ってしまった」
「たこ焼きプレート!」
「そ。悠稀と買い物行って、たこ焼き作って食いたいなと思ってさ」
「楽しそう!」
「だろ?買い物…行かない?」
買い物…
あれから俺が何も言わないから
凌久は、コンビニ位しか行ってないんだと思う
あとは…ネット注文とか…
これは…
凌久からの優しいサインだ
いつまでも、こんなままじゃ居られない
俺の知らないとこで、買い物行ったって、バレないのに
多分…そうじゃなくて
俺と前に進もうとしてくれてる
「行く。行こう」
ありがとう…凌久
2人でカートを押しながら歩く
「まずは、たこ焼きの粉とソース、タコと、天かすと、小ネギ、卵、かつお節…」
「キャベツ、桜えび、紅ショウガも好き」
「あ、俺も。あった方がいいな。タコの他になんか入れる?」
「う~ん…チーズ」
「いいね。豚肉も少し買ってくか」
「うん」
凌久を見る人達が怖かった
凌久の傍を通る人達が怖かった
また…
凌久を連れてっちゃうんじゃないかって
そんな事あり得ないけど
あり得ない事が起こったから
だけど…
「粉、どれにする?」
「何が違うのかな?」
「出汁?あとは…長芋入ってると、ふわふわとか違うらしい」
「出汁…色々あるんだね?」
前みたいに気にならない
不安がない訳じゃないけど
時間…だけじゃない
その時間で
2人で1歩1歩進んで来たからだ
「デザートも買ってこ♪︎」
「入るかなぁ」
「デザートは別腹だろ?プリン…エクレア…シュークリーム…なんにしよっかなぁ」
「プリンくらいなら分かるけど、エクレアとかシュークリーム、入らないよ」
「そっか?あ、アイスもあるな」
「アイス、ここからだと溶けちゃうよ」
普通に出来てた事
皆が普通に出来てる事
それが出来なくさせられた
理不尽さ
けど
1番理不尽な凌久が
楽しそうに笑ってるから
1番怖い思いした凌久が
前に進もうとしてるんだから
「結構、色々買っちゃったな?買い過ぎた」
「……凌久」
「ん?」
「買い物…やめさせてごめんね?」
「……いや…あの時の俺…まだ、結構おかしかったし…あんなん見たら、そりゃ心配になるわ。それに、便利な時代だから、別に不自由してないし」
でも、2人で買い物ってのもあるけど
きっと、実際に来て買い物するの
楽しかったんだ
凌久…凄く楽しそうに、色んな物沢山買ってた
「俺に合わせてくれて、ありがとう。また、買い物行こ?」
「おお。2人で買うと、一気に買って来れるしな」
「うん」
「何より、楽しい」
「うん!」
いつかの買い物の帰りは、凌久の筋肉褒めて
それを、通りすがりの人に聞かれて
真っ赤になって
その筋肉
なくなっちゃうような事あって
苦しんで
2人して沢山泣いて
今また、楽しく買い物してる
なんで?も
理不尽も
沢山…山の様に…
けど…
その全ての上に
今がある
今…この幸せがあるんだ
「よ~~し!美味しいたこ焼き作るぞ~」
「うん!」
分からない事なんて知らない
乗り越えた悲しい過去はもう、さよなら
今日もまた…奇跡は続いてる
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