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あの日の思い出
優琉と、数日ぶりのキスをした日の夜
悠兄との、いつもの時間
今日は、卵たっぷりプリンを買って来てくれた
「暁、どう?このプリン」
「美味しい」
「ふっ…暁は、どんなプリンでも、美味しいって言いそう」
悠兄に…
聞いてみようかな
「悠兄…」
「何?」
「悠兄は…凌久さんに、キスして欲しいって言った事ある?」
「ぅえっ?!…なっ…なんで?」
悠兄が…物凄く動揺した
あんまり、聞いちゃいけない事だったのかな
「ごめん。普通、そんな事聞かない?」
「えっと…暁…なんか困ってる?」
「……この前…優琉と寝た時に…俺……嫌な夢…見た」
「うん…」
「優琉と…セックスしてるんだけど……優琉が…初めてなのに気持ちいいって…俺…初めてじゃないんでしょ?って…」
「暁…」
悠兄が、俺を抱き寄せる
「そう言えば、俺の母さん…そういう仕事してたよね?って…俺も…っ…そういう仕事…するの?って…」
「間宮君は…そんな事言わないね?暁が…何処かで不安に思ってる事だね?」
「ん……俺…絶対あんな事したくないから、しないって言うんだけど…なんで?気持ち良さそうになってて…俺に…合ってるよ?って…」
「暁…そんな訳ない。そんな訳ないよ?暁…」
不思議…
悠兄の胸の中で
悠兄の声で聞くと
ほんとに、そんな気がしてきて
少し落ち着いてくる
「俺…うなされてみたいで…優琉、心配してくれて…俺…怖くなって……優琉に…話してない事あるるって…言ったんだ」
「…そっか」
「でも、優琉…そんなの、自分もだって。俺のは
、皆とは違うのに…優琉…俺の事心配して…怖い事とか、苦手な事は言ってね?って…」
「そっか。優しいね…」
そうなんだけど…
そうじゃなくて…
「けど…優琉、それから…キスしてくれなくなったんだ」
「え?」
「2人だけになっても…抱き締めたり…一緒に寝たりはするけど…キスとか…してくれなくなった」
「間宮君…きっと暁の事思って、少しそういうの、控えてるのかもしれないね?」
「でも俺…優琉にキスして欲しいって思う。優琉がしようと思ってないのに、そう思うのは…やらしい事?俺…母さんの子供だから…考える事…やらしい?」
「暁…」
悠兄が…物凄く驚いた顔をしていた
普通が…分からない
ずっと普通じゃなかったから
「暁…普通だよ」
「普通?」
「好きな人と一緒に居たら、誰だってそう思うよ?そりゃ…その時の気分とか、あるだろうけど…全然やらしい事じゃないよ」
「ほんと?悠兄も思う?」
「思う。凌久と会う度思う。凌久と会ってなくても思ったりするよ」
「そ…なんだ……そっか…」
会う度…
会ってなくても
それで普通なんだ
「暁…好きな人とは、少しでも一緒に居たいし、少しでも触れたいって思って当たり前だよ?暁は…色んな事経験してきたから、普通が分からないって、自信失くすの仕方ないかもしれないけど…暁は、ちゃんと皆と同じように、間宮君を愛せてるよ」
「…うんっ…悠兄…大好き」
「俺も大好きだよ…暁」
普通に近付けば近付く程
昔の自分が、どれだけ普通じゃなかったか分かる
そんな俺を…悠兄は
全部受け止めてくれた
びっくりして、関わらないようにする事だって出来た
気持ち悪いって…父さんと母さんに言って、施設に戻す事だって出来た
適当に話だけ聞くことも、無視する事も
でも
悠兄は、そのどれも選ばなかった
1番面倒で、自分まで傷つく方法選んだ
俺を救う為に…
俺の居場所…作ってくれる為に…
「悠兄…今日…一緒に寝ていい?」
「いいよ。一緒に寝よ?」
「うん」
もう…しばらく悠兄とセックスしてない
しなくても…大丈夫になってる
そんな自分に安心する
そんなに変わる事が出来てる自分が
ほんの少し好きになる
「悠兄…」
「ん?」
変わらない悠兄の胸の中
「突然できた弟が…セックスしたいって…凄くびっくりしたね?」
「暁……ふっ…そうだね?凄くびっくりした」
「うん…なんで…してくれたの?」
「俺には…他の方法が分からなかった。でも…俺より小さな暁が、必死で生きてるのを…なんとか手伝ってあげたかった」
悠兄にとっては
そういう風にするものじゃなかったのに
それでも…
「暁ね…したいとか…させてとか言ってきたけど……助けてって言ってくれなかったんだ」
「助けて…?」
「うん。こんなに苦しいから助けて…救ってって…言わないんだ。ただ…どうしたらいいのか、必死で考えて…探して……助けてって…言える人居なかったのかなって……だから、安心するって思ってもらえたら…助けてって言える存在になれるかなって、思ったんだ」
助けて…
そっか
助けてって言えばいいって
知らなかった
誰に言えばいいのかも
分からなかった
「今は暁…助けてって言えるね?家族以外にも、言えるよね?」
「うん……悠兄…ありがとう。俺は…救ってくれた父さんと母さんの事も…悠兄の事も…そういう…安心出来る人達だって思ってなかった……俺…病院から施設に入れられて…そしたら、毎日3食ご飯が食べられて……怖かった」
「えっ?」
「知らない人達が、そんなに良くしてくれるのが、怖かった」
「暁…」
悠兄が、ぎゅ~~って抱き締めてくれた
「そしたら…施設に居た高校生のお兄ちゃんが…お前、こういう事してたんだろ?って、口に…入れてきた」
「えっ?」
「俺は…ちょっと、ほっとした」
「……ほっと…した?」
「訳も分からず優しくされるのは怖かった。全然関係なくても、イコールじゃなくても…嫌な事に堪えると…少しは優しくされてても、いいんじゃないかって思えたから…」
「暁っ…」
悠兄が、俺の頭や背中を撫でてくれる
どんなに、どれだけ汚ない事してきたか
悠兄は全部知ってて、ここに入れてくれる
「だから…悠兄の家は…怖かった」
「~~っ…そっか…」
「優しそうな父さんと母さんが、他にも子供居るのに、何も喋らない俺を選んで連れてって、子供が居ない訳でもないのに…毎日毎日…優しくされて…俺は…いつ、誰に、何をすればいいのかって思ってた」
「暁はっ…俺の家に来た時っ…怖かったんだね?」
「うん…」
どう見ても幸せそうな夫婦
どう見ても幸せそうな家族
俺を入れる意味が分からない
意味の分からない優しさは怖かった
「あの人も…施設のお兄ちゃんも…誰も居ない時にしてたから…父さんも母さんも居なくなった時…きっと今日なんだって…悠兄になんだって思った」
「暁っ…ごめん…暁が、そんな事考えてるなんて…暁が、あの家で…ずっと怖がってたなんて…全然知らなかった…俺…無関心で……もっと早く話してたら…安心して…セックスなんてしなくても、良かったかもしれないのに…」
セックスは…
俺にとって特別だから
きっと…あの頃、悠兄と話せたとしても
言葉の意味…理解出来なかったんじゃないかな
そもそも…話せなかっただろうし
「きっと俺…悠兄とセックスしたから…悠兄の事ほんとに信じられて…頼れる様になったんだと思う」
「ん…俺が…そうさせちゃったから…」
「ううん…きっと…あの時、悠兄がセックス断ってたら…俺……多分もう…どんなに苦しくても…悠兄には言えなかった……きっと…ずっと1人で…堪えてた……だって…きっと…~~っ…どんな言葉掛けてもらっても…どれだけ抱き締められても…」
「暁…」
押し寄せる不安
置いてかれる…
たった1人…
繋がってたい…繋がりたい…
頭の中…そればっかりになってたから
「悠兄はっ…弟の俺とセックスするのが、どんなに普通じゃない事か知ってて…~~っ…悠兄…俺を救ってくれた…ありがとうっ…悠兄っ…」
「暁っ…それでも俺は、いい方法だったとは思わない。でも…暁を救えて良かった。俺の家で…1人で苦しめる事にならなくて良かった…」
たった3年前に出会ったのに
どれだけ、ここに入れてもらっただろう
どれだけ、こうして撫でてもらっただろう
どれだけ、抱き締めてもらっただろう
「父さんと母さんに、見付けてもらって良かった…悠兄のとこ、来れて良かった」
「暁…暁にね…教えてもらった事も沢山あるんだよ?俺のとこ来てくれて、ありがとう」
「悠兄…まだ、思い出しちゃって不安になる事はあるけど…楽しかったり、嬉しかったりしても…喜べる様になったよ?」
「そっか…」
「うん…あの家で……少しずつ…知ってったよ」
クリスマス…お正月…誕生日…
沢山の、知らなかった食べ物と飲み物
家族で食べる食事、家族で話しながらテレビを見て…
生まれ変わった様に…知らない世界を知っていく
父さんと母さん…
お兄ちゃん…
家族の笑い声
毎日の行ってらっしゃい、お帰りなさい
ファミレス…
パフェ…
プリン…
ロイヤルミルクティー……
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