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キスして
俺が変な夢見て、優琉に変な事言っちゃってから…
優琉が…あまり触れてこない
抱き合ったり、キスしたりはするけど
それ以上の事してこない
別に…
しなきゃしないでいいんだけど
優琉と居るだけで幸せなんだけど
やっぱりこの前の事、気にしてるのかな
けど、何て聞いたらいいのか分からない
食べ終わった食器を片付けて
2人でソファーに座る
「暁…抱き締めていい?」
「うん」
気持ちいい
優琉に抱き締められると安心する
気持ち良過ぎて
すぐウトウトしてしまう
このまま眠りたい
「ふっ…暁、ベッド行って少し休む?」
「うん…優琉と居ると、すぐ眠くなる」
「そこまで気抜いてくれて嬉しいな。行こ?」
優琉とベッドへと移動して横になる
そのまま抱き締めてくれる
気持ちいいけど
このままでもいいんだけど
キス…してくれないかな
でも…優琉がしたくもない時に、そんな事言うの…おかしいのかな
キスとか、セックスとか…
好きって思われちゃうのかな
「……優琉」
「ん…寝ちゃってもいいよ」
頭撫でてもらうの気持ちいい
優琉の胸の中で寝るの気持ちいい
それだけで充分なのに
キスして欲しいって思う様になっちゃったの
少しずつ…
母さんに近付いてきてるのかな
だんだん…
キスとかセックスとかしたくて
我慢出来なくなってくのかな
やだ…
あんな風に…生きてくのはやだ
「暁?」
あ…
思わず、優琉の服ぎゅって握ってた
「ごめん…何でもない」
「暁、ほんとは…こうやって一緒に寝るの、怖かったりする?」
「…え?」
「今までしてたのにって思わないよ?何でも怖い事とか、ほんとは苦手な事とか、我慢しないで言って?」
「ううん…怖くない」
怖くないよ優琉…
全然怖くないから
また…
優琉にキスしてもらいたい
こんな時…言っていいの?
悠兄…普通が…分かんないよ
「じゃあ…何?」
「え?」
優琉が、ゆっくりと俺の頬を触って
顔を上げさせた
ちょっと困った様な
優しい笑顔
「暁…何か我慢してる」
「っ!」
「でしょ?俺には…言いたくない事?」
どうしよう
言ったら…優琉に嫌われない?
「……優琉…びっくりして……俺の事…嫌になるかもしれないっ…」
「えっ?ならないよ。びっくり…は、するかもしれないけど」
「お…俺……変わってるから…普通じゃないから…だから……気持ち悪いって思うかもしれない」
「思わない…大丈夫だよ」
優琉が優しく頬を撫でる
この優しい笑顔が
凍りついたらどうしよう…
でも…優琉と居たら
きっと…これからも、そう思っちゃうから…
「~~っ…キ…キス……」
「キス…あんまりしたくない?」
「違う!したい!」
「………え?」
あ…
固まった
優琉…びっくりして、固まってる
嫌われる
優琉が全然したいとか思ってないのに
自分からしたいとか…
やらしい
汚らわしい
汚ないって…思われる
「~~っ…」
優琉の腕から出て
背中を向ける
次に出る言葉が怖い
びっくりの次の表情を見るのが怖い
優琉は…何を思ってるだろう
「暁……キス…していいの?」
「…………え?」
優琉が…
ゆっくりと後ろから抱き締めながら
聞き間違いじゃないかな?って言葉をくれた
キス…していいの?……って?
「なんか…俺、暁の反応が可愛いくて、調子に乗って、会う度キスして、暁が嫌がらないのいい事に、どんどんそれ以上の事もしてっちゃったから…暁…怖くなっちゃったのかな?と、思って…しばらく…そういうの、やめた方がいいのかな?とか思ってたんだけど……違うの?」
え…
俺の為に…?
くるりと優琉の方に向き直す
「俺が…怖くなったと思ってしなかったの?」
「うん。暁…優しいから、あんまりして欲しくない事も…言い出せないで我慢させちゃってたのかなって…」
「違う!優琉にされる事で怖い事なんてない!怖いのは…俺が…」
そういうの…
どんどん好きになってしまう俺
そして…
優琉に嫌われてしまう事
「暁?」
「俺…が…普通じゃないから……もっと…普通じゃなくなってって……優琉に嫌われるのが…怖いっ」
「暁…」
優琉が、驚いた顔をして
それから
ふっ…と優しい笑顔に変わって
「暁が普通じゃないのなんて、初めて会った時から知ってるよ?」
「……え?」
「暁みたいに可愛い子…初めて会った。一目惚れ。俺の後ろでラッキーって思った」
「か…可愛いくなんかない…俺は…そういう人間じゃない」
「知らない。俺にはそう見えた。今も…そう見えてる」
嬉しそうに、俺の頬を触る
勘違い…
ほんとの俺に気付いたら…
「ね…暁には俺の事、どう見えてる?」
「俺みたいのに、最初から優しくしてくれて…俺が何しても…知らなくても……優しくて…こんな俺…好きになってくれて…俺とは真逆の綺麗な人」
「ぶっ!…くっくっ…暁、そんな人間、ここには居ないよ?」
「居るよ。優琉は、そういう人間だよ」
「暁…」
優琉が、優しく抱き締めてくる
「あのね、暁。自分が知ってる自分なんて、ほんの一部なんだよ?」
「え?」
「俺は暁が言ってくれる俺を知らないし、例えば長谷に聞いたら、また全然違った俺が出て来ると思う。でもさ、それも全部合わせて自分だし、自分も誰も知らない部分も、まだまだあって、当たり前だし…それは、皆同じだよ?」
全部合わせて自分…
皆同じ?
知らない部分…
これから出て来るかもしれない…汚ない俺…
「優琉…」
「ん」
「前に…男の人に襲われそうになった時…言ってた事、覚えてる?俺の…ほんとの母さんの事…」
「……うん」
「俺の母さん…男の人とセックスして…お金貰ってた」
「うん…」
優琉が、ぎゅっと抱き締めてくる
「俺は…そのお金で生きてたし……俺にとって、その世界が普通で…当たり前だった」
「うん…」
「俺は…今の世界を知って……あれが異常だったって知ったけど…」
「うん?」
「俺は…母さんの子供だから……母さんの血が流れてるから……いつか…母さんみたいになるかもしれない……そしたらっ…きっと……優琉に嫌われるっ…」
「暁……」
だって、あの人にも悠兄にも、セックスしてもらって安心してた
そんなの優琉は知らない
ほんとの俺はあっちで
優琉とも、そういうの多くなってったら
今みたいに優琉と居るだけで嬉しいとか
抱き合ってるだけでふわふわするとか
忘れちゃうのかもしれない
「~~っ!」
セックスばっかり
したくなっちゃって
優琉…傷つけちゃうかもしれない
「暁…」
ちゅっ
優琉が、額にキスしてくれた
見上げると
「暁は、暁だよ?お母さんの子供って人じゃないよ?暁は…この世に、たった1人だ。お母さんの血が流れてても、暁は今、全く違う環境で水無瀬 暁として生きてるんだよ?自分で…勝手に未来決めちゃダメだよ?」
そう言って…
優琉が涙を流した
「あ…ごめん……優琉…泣かないで」
「暁…親が教師だから、子供も教師になる訳じゃないよ?親が犯罪者だから、子供も犯罪者になる訳じゃないよ?生きてる環境と、暁が何を感じて考えるかが大切なんだよ」
「何を…感じて…」
俺は…正しく生きてる?
せっかく最高の環境与えられて
正しい方向に向かえてる?
「暁さ、まだ俺とそんなに話す程、仲良くなかったのに、隣の席の長谷が調子悪くなった時、俺に教えてくれたの覚えてる?」
「覚えてる。俺…どうしたらいいか分かんなくて…俺じゃなかったら、もっと早くどうにか出来たのに…優琉、すぐに先生に言ってくれて助かった」
「俺は、あの時…暁って、凄く優しい奴なんだなって思った」
「…え?」
俺…何にも出来てない
優琉にも…ちゃんと説明出来てない
「きっと、授業中に俺に知らせるのだって、あの時の暁は、凄く勇気のいる事だったろ?」
「うん…全然言葉で説明出来なかったのに…優琉、すぐに察してくれた」
「あともう少しで授業終わりそうだったし、見て見ぬふりも出来たのに、クラスメイトが苦しそうなの、ほっとけなくて、すっげぇ頑張って俺に伝えたんだろなって思った」
俺の頑張りは、その程度だ
皆が頑張らなくても出来る事
ほんとは、長谷に声かけたり
先生に言うのが、頑張るって事だ
俺は…優琉の制服引っ張っただけ
「優琉は…優しいから、そう思うんだ。あんなの皆、もっと出来る」
「皆は関係ないよ。暁が…色んな事あって、前の席の俺にすら声掛けれない暁が、必死だったって事が大切なんだ。暁は…クラスメイトの為に、必死になれるんだよ?暁は…優しくて心の綺麗な人間だよ?」
「っ…違う……俺は…そんなんじゃない」
優琉は…知らないから…
知ったら…
「暁…完璧な人間なんて居ないよ?例えば、暁の兄ちゃん。完璧にしか見えないけど、それでもきっと、誰かを傷つけてしまったり、悲しませたり…した事あると思うな」
「悠兄…が…」
でも…
凌久さんとの事とか聞いてると
確かに…
あの悠兄でも、色々難しかったりするんだなって思う
「暁がさ、そう思ってしまう経験を多くしてきたなら、そう考えてしまうのも仕方ないと思う。でも、少しは俺達が見てる暁も信じてよ」
優琉が見てる俺…
そんな綺麗な俺…
少しは信じていいの?
いいよ
大丈夫だよって顔で
優琉が頭撫でてくれる
「……優琉」
「ん」
「~~っ…優琉のキス…好き……気持ちいいからして欲しいって言って……気持ち悪くない?」
「気持ち悪くない。嬉しいでしかない。キスしていい?」
「~っ…うんっ……んっ!…んっ…」
気持ち悪くない
嬉しいでしかない
何が正しくて
何が本当で
ほんとの俺はどんなで
これから、どうなってしまうのか
けど
優琉のキスが
いつもと同じく優しくて
ほんとにほんとに大切そうに触ってくれるから
ああ…
ほんとに気持ち悪いって思われてない
嫌われてないんだって分かって
俺は…考えるのをやめた
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