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言葉の意味
翌日
今日も何人かで集まってると
「お、胡桃坂着いたらしいぞ」
夏休み、家族で海外に行ってた胡桃坂が、家に来た
「あ、俺鍵開けて来る」
ピンポ~ン
ガチャ
「胡桃坂、久しぶ…」
「水無瀬~~!会いたかった!」
「わっ!」
ドアを開けると、胡桃坂が抱き付いてきた
「胡桃坂、久しぶり。元気だった?」
「元気じゃない。水無瀬に会えなくて、寂しかった」
「ふっ…胡桃坂、大袈裟。でも、ありがと」
「水無瀬…水無瀬…あ~…本物の水無瀬だ~」
「本物の?」
「俺の想像とか夢の中じゃなくて、本物の水無瀬。く~~っ!可愛い~~っ!」
「くっ…胡桃坂…ちょっと…苦しいよ…」
俺なんかに会えて、こんなに喜んでくれて
凄く凄く嬉しいけど
ぎゅうぎゅう…ぎゅうぎゅう…
苦しいよ…
ガチャ
「暁?胡桃坂……な…暁っ?!」
「あ…間宮、久しぶり…って、えっ?水無瀬?」
ようやく、胡桃坂が力を抜いてくれた
「水無瀬?!大丈夫?」
「暁!暁!」
「大丈夫…ちょっと…ふぅ~……ふっ…胡桃坂、凄い力…」
「ごめん…嬉し過ぎて、力の加減出来なかった」
「ちょっと!暁、こっち!」
「わっ!」
今度は、優琉にぐいっと後ろに引っ張られた
「胡桃坂、ベタベタし過ぎ!」
「いや、現在進行形で間宮もベタベタしてんじゃん」
「おっ…俺はいいんだよ!」
「何でだよ?ずるいぞ!」
優琉と胡桃坂が言い争いを始めた時
「なんだ、なんだ?なんで、次々戻って来なくなるんだ?」
「長谷…」
「お、長谷も久しぶり」
「久しぶり…何騒いでんだ?」
「間宮がさ、水無瀬の事独り占めして、ずるいって話」
「あ?何、小学生みたいな事やってんだよ?さっさと、こっち来い」
長谷の言葉に、優琉と胡桃坂が、ちょっと顔を合わせてから
ゆっくりとリビングに歩き出す
それを見届ける長谷…
「長谷、長谷…」
長谷の服の裾を引っ張る
「なんだ?」
「ありがとう」
「……ふっ…無自覚小悪魔め」
「え?」
「何でもない。行くぞ」
小悪魔…
悪魔の…小さいの?
子供の…悪魔?
大きくはないけど
小さな悪さするって事?
俺…悪い事して、気付いてない?
皆、優しいから
言わないでいてくれてたの?
何だろう?
さっきの話?
それとも…
今まで、幾つも?
「じゃあな~」
「また、明日~」
パタン
優琉と2人になると
「暁、大丈夫?」
リビングに向かいながら優琉が話し掛けてくる
「何が?」
「なんか今日…ずっと、ぼ~っとしてたからさ。昨日の事…考えてた?」
「あっ!昨日…昨日、ありがとう優琉」
「ふっ…なんだ。そのせいじゃないんだ」
ソファーに座りながら、優琉が微笑む
胡桃坂が来るまでは
皆が居ても、その事考えてたけど
長谷に言われてからは…
優琉の隣に座って
……聞いてみようか
「優琉…」
「ん、何?」
「俺…何か気付かないうちに、皆に迷惑とか、嫌だなって思う事してる?」
「は?何?急に…してないよ」
「ほんとに?皆…優しいから、言わないだけじゃない?」
「暁…なんで、そう思うの?」
優琉が、優しく頬に触れてくる
長谷の言い方も、全然怒ってる感じでも、困ってる感じでもなくて…
悠兄もだけど
優しい人って、嘘吐くの上手いのかな…
「暁?」
「今日……」
「うん」
「長谷が…俺の事…無自覚小悪魔って言ったんだ」
「え?…ああ…俺が、胡桃坂にヤキモチ妬いてる現場、目撃されたからなぁ…」
「え?それ、関係あるの?なんか俺、しちゃいけない事した?」
「ふっ…そういうの、小悪魔系男子って言うんだって」
「え?」
そう言って、優琉が優しく抱き締めてくれた
そういうのって?
今、話した中にヒントがあるの?
「優琉…分かんないよ。優琉と胡桃坂が喧嘩しそうになったの、俺のせい?」
「まあ…広く言えばそうだけど、暁は悪くない」
「俺のせいなのに…俺は悪くないの?変だよ」
「ん…誰かを好きになるって、変になるんだ」
「変になって…誰かを傷つけるのは嫌だ…優琉…ちゃんと教えて?」
皆が俺に優しくしてくれて
皆で俺を守ってくれてるの分かる
でも、いつまでもそれじゃダメだ
「無邪気とか…無防備とか…」
「え?」
「純粋な子供みたいな男子の事らしいよ?」
「……何が?」
「何がって、小悪魔系男子だよ。暁が、聞いてきたじゃん?」
「………えっ?!」
優琉から離れて、優琉の顔を見る
?って、顔してる
俺の為に嘘吐いてる訳じゃなさそう
「な…なんで俺がそれだって思われたの?」
「なんでって…暁、そのものだからじゃない?」
「ちっ…違うよ!俺は、そんなのとは全然違うし、子供の頃だって、そんなんじゃないし、皆が知らない様な…凄く汚ない事しながら生きて…」
「暁…」
また優琉が抱き締めてきた
「優琉?」
「暁…すぐに自分を汚ないって言わないで」
「……だって…実際俺は……ほんとは…優琉に、こうやって触れてもらえる様な奴じゃないんだ…俺にいっぱい触れてたら…優琉…まで…」
「暁…俺は、他の奴らより暁の事知ってるよ?昨日の暁も知ってるよ?」
ビクッ
「あ...ごめん…」
体が勝手に…
「それでも、俺も思うよ?純粋で…汚ない世間の事知らなかった、自分の小さい頃みたいだな…いいな…綺麗だなって」
「そっ…それは俺じゃない!」
俺の小さい頃は
皆の小さい頃とは全然違う!
「暁だよ…目の前に居て、今抱き締めてる暁だよ。ねぇ、暁…汚なくない奴なんて居ないよ?皆、どこかで何かしらの汚ない事考えてる。そんなの当たり前だって生きてる」
「考えてんじゃなくて、俺は…汚ない事…してきた…」
「違うだろ?汚ない事したくないのに、させられたんでしょ?」
「っ…けどっ……それで…嬉しいって思ったり…~っ安心したりっ…してたっ…事あるっ…」
悠兄なんて…
嫌だって言ってたのに…
「暁…俺さ、童貞なんだ」
「……え?」
「高校1年、童貞。でも、そんなの別に珍しくないだろ?暁…幾つだった?それ…汚ない事だって理解してた?暁が断わる拒否権…あった?暁は…好きな人と初めてするものを…勝手に無理矢理奪われたんだよ?暁は…被害者だよ…」
被害者
俺…
勝手に無理矢理
そっか
悠兄も言ってた
ほんとは好きな人と…
よく…理解してなかった
つまり俺…
ほんとは優琉と初めてするはずだったんだ
俺の初めては…とっくの昔で…
「……あ……っ…」
とっくの、とっくの昔で…
何度も何度も挿れられて
「…っ…~~っ…あっ…うっ…」
「暁……」
初めて好きになってくれた
初めて好きになった
優琉との初めては
俺の初めてじゃなくて
「~~っ…ごめっ…っ…優琉っ…ごめっ…」
「謝らない。暁は悪くないんだから、謝らない」
「っ…優琉っ…」
「ん…暁は、悪くないよ?」
「~っ…優琉っ…」
「ん…暁…好きだよ」
「~~っ!…優琉とっ…初めてがっ…~~っ…良かったっ!」
ぎゅっと優琉に、抱き付く
「暁……~~っ…んっ…そうだね?そうだねっ…暁…暁は…今気付いたんだ……そんなの…知ってて、暁を好きにした奴…許しちゃダメだよ?」
「~~っ…優琉っ…せっかく…好きになってくれたのにっ……初めてじゃなくて…ごめんっ…」
「そんなの関係ないよ。でも…初めては、俺とが良かったって…思ってもらえただけでっ…~~っ…充分だよ、暁…」
やっと…分かった
悠兄が、何度も何度も…何度も何度も、言ってきた事
言葉では理解してても
ちゃんと分かってなかった
こういう事だったんだ
悠兄は知ってた
だから、あんなに…
初めてじゃなくても
あの優しい悠兄が
俺が、こんな思いするって知ってて、抱いてくれるのは…
どんなに辛かっただろう
優しい悠兄が
俺の初めてを奪ったって事が
どんなだかを知ってる悠兄が
その代わりをしなきゃならないのは
どんなに…どんなに…
「~~っ…優琉っ……初めてじゃなくてもっ…俺と…してくれる?」
「当たり前だろ?暁と違って、俺の頭ん中…煩悩だらけなんだから。暁…俺の頭ん中見たら、汚ないって、嫌いになるかも」
「ならないっ…ならないよ、優琉っ…」
「ははっ…良かった……暁…キスしたい。キスしていい?」
優琉が少し体を離すと
優琉も泣いてて…
「優琉…好き…好きなの……優琉の事が、好き…優琉…好き…」
「ふっ…暁……俺もだよ…暁が…暁だけが好き…暁だけにキスしたい…」
ああ…好きな人とのキス
気持ち良くて…気持ち良くて…
でも…
初めては、悠兄…
俺に…突然ズボン脱がされて
下…触られて
なのに怒りもしないで
きっと…心の中で泣いてた
俺が…こんな風に、いつか好きな人とキスする時
初めてが自分になってしまったって
泣きながら…俺にキスしてたんだ
でも、大丈夫だよ悠兄…
あのキスがなかったら、俺はあの時救われなかったし
あんなに気持ち良かったのに
全然違うんだ
好きな人とは全然違う
ふわふわで
体の奥まで何かに包まれてるみたいな
だから、これは優琉が初めてなんだけど
それでもきっと
悠兄は、泣いてたんだ
泣いてる俺を抱き締めながら…
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