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お母さんの優しさ

「ただいま、暁」 いつもと同じ様に悠兄が帰って来る 「今日も、晩ごはん作ってくれて、ありがとう」 ほんとの笑顔で喜んでくれて 「暁、お風呂入っちゃいな?」 少しドキドキしながら、俺がお風呂から無事上がるのを待って 「暁、今日は焼きプリン買って来たよ」 俺の好きな物を持って、一緒のソファーに座る 「……暁?プリン…食べないの?どうかした?」 心配そうに覗き込む悠兄 ずっと… ずっとずっと、俺のせいで、辛い思いしてるのに どうして、そんな風に優しく出来るの? 「暁?!どうしたの?なんで、泣いてるの?」 そう言って、また俺を1番安心出来る場所に 優しく閉じ込めてくれる 「暁?何か言って?不安?何かして欲しい?」 「っ…悠兄…」 「ん…何でもいいよ…言ってごらん?」 「~~っ…ごめんっ…悠兄っ…」 「謝らなくていいよ?何して欲しい?」 どんな気持ちで悠兄は 俺に、そう聞いてたんだろう… 「っ…もっ……何もっ…してくれなくてっ…大丈夫だからっ…」 「え?…何でそんな事言うの?」 「ごめんねっ…悠兄っ……俺っ…悠兄が、何度も何度も言ってくれてたのにっ……ほんとの意味っ…よく分かってなかった…」 「ほんとの意味?…でも、大丈夫だよ…謝らなくていいよ」 謝るよ だって… 俺、救う為に 悠兄は自ら罪を作ったんだ 俺がいつか気付いたら、泣くって知ってて なのに 俺を救う為に、あの人と同じ事して 俺を救う為に、あの日だけって言ってたキス 何度も何度もしてくれて… いつか、こうやって俺が泣くの知ってて 俺を救う度に、罪を重ねてる気持ちになって… 「ごめんねっ…悠兄っ……俺のせいでっ…悠兄っ…ずっとずっと…悪い事してるって…思わせてきた…」 「暁…それは、暁のせいじゃないよ」 「今日…やっと分かったんだ……優琉に…言われて…初めて理解した…」 「何…言われたの?」 悠兄が、俺を抱き締める手に力が入る 優しいから…悠兄は、言葉を選んできたんだ 一度も俺に、被害者って言葉使わなかった だけど…だからこそ俺は 自分も悪いからってとこからしか、あの事を捉えられてなかった 「優琉に…好きな人と初めてするものを…勝手に無理矢理奪われた…被害者だって言われた」 「っ…暁…」 「大丈夫…悠兄……俺、初めて分かった……そういう事かって…初めて好きな人できたけど……よく分かってなかったんだ……でも、そっか…ああいう事…初めて好きな人としたら……それは、きっと……凄く嬉しくて…幸せだったろうなって…」 「~~っ…暁っ…」 こんな風に思うの 悠兄は最初から知ってた いつか、こうして2人で泣く日が来る事も 「悠兄はっ…最初から…こんな風に思うの、知ってたでしょ?」 「っ…ごめんね…ごめんね…暁…」 「悠兄は…俺が泣くの知っててっ…~~っ…それなのにっ…俺がっ…求める度にっ……ごめんねっ…優しい悠兄がっ…俺が泣くって分かってる事っ…するのっ……~っ凄く辛かったよね?……ごめんねっ…悠兄…ごめんねっ…」 「暁っ…~~っ…ごめんっ……ごめんねっ…」 「悠兄…ごめんねっ…」 人の言葉って凄い 世界を知ってくって凄い さっきまで、こうとしか思えなかったものが まるで違う様に、見えてくる あの時の俺は…こんな気持ち知らなかった ただの行為 ただの手段 悠兄が、好きな人とするんだよって教えてくれて 普通家族ではしないんだよって言われて 普通じゃない事させちゃってる 悠兄が、ほんとはしたくない事させちゃってるとしか、思ってなかった 悠兄に恋人が居るって知って 初めて、ちゃんとした罪悪感が出てきた 悠兄は、好きな人としかしたくないのに 俺がさせちゃってるから だけど… それだけじゃなかったんだ 「悠稀も辛いのに…暁の事ばかり考えてて……あまりにも暁の事ばっか考えてる悠稀にイラついて…」 凌久さんが言ってた事… 辛いのにって したくもないセックスしてる事だと思ってた けど…違った 俺が、優琉を好きになったから分かる気持ち 凌久さんは知ってた 凌久さんが好きな悠兄が 俺のせいで辛い思いしてる事 なのに… 「怖かったろ?よく、俺に会って謝ろうと思ったな?」 あんな… あんな風に… 「悠兄…」 「ん?」 「凌久さんもっ…知ってたね?俺のせいでっ…悠兄が辛い思いしてるって…知ってたね?」 「暁…」 「~~っ…なのにっ……なんでっ…あんなに優しくしてくれるのかなっ…凌久さんの好きな人っ…苦しめてるって…知ってるのにっ……~っ…悠兄っ…」 優しくて…優しくて… 俺の汚ないとこ知っても 受け止めて、優しくしてくれる優琉も 悠兄も、凌久さんも… 多分そういうの全部知ってて 相談しろって言ってくれた八神さんも… 「うん…優しいね……俺もね…優しくて、泣きたくなるんだ…」 「優しい人っ…沢山っ……気付いたらっ…俺の周りっ…皆優しくてっ…~~っ…いいのかな…こんな俺…」 「いいんだよ、暁…優しくしてもらって泣けるなら…暁は優しいを、ちゃんと分かってる。ちゃんと分かってるなら、暁も誰かに優しく出来るよ」 俺は、ようやく色んな事が分かってきたとこで 誰かの為に何かなんて きっと、まだまだ出来る事ないけれど なんて言うか… 世界が凄く広がった感じがする 槇田さんとしてきた事を 初めて外から見えた…そんな感じがする 「暁…今日、一緒に寝る?」 初めて一緒に寝た日 あの日から、悠兄の胸の中は、世界一安心出来る場所で あの日から、悠兄のキスは、俺を安心させて 「ううん…大丈夫。ありがとう、悠兄」 「夜中でも、眠れなかったらおいで?」 「うん。おやすみ、悠兄」 「おやすみ、暁」 無条件で、いつでも手を広げて 俺の全部を暖かく包み込んでくれた 俺が来たのは 悠兄が、今の俺と同じ高校1年の時 それからずっと…ずっと… 「~~っ…っ…」 今でも…ずっと… 「はぁ…」 人の優しさで、こんなに泣けるものなんだ いくらでも、溢れてくる 「~~っ…うっ…ふっ…う~っ…」 泣き声… 母さん…泣いてる? 「っ…うっ…~~っ…なんでっ…なんで私ばっかり…う~~っ…」 「……お母さん…大丈夫?」 「~~っ…お前もっ…こうなるんだよな…」 「?」 「っ…可哀想だな…生きてんの…辛いよな…」 よく分かんないけど お母さんが、優しく撫でてくれる 嬉しい 「死のっか…」 お母さんが笑ってる 嬉しい 「うっ…~~っ…っ…」 苦しい… 苦しいけど… 「ごめんっ…ごめんな?…辛いよな?」 お母さんが… なんか…優しい お母さんの手が 首…ぎゅ~ってして 苦しいけど ぎゅ~って両手で触ってくれて 僕だけ…見てくれてる 「っ……かはっ……」 だんだん苦しくなくなってきた お母さんの顔…見えなくなってきた 「私も…すぐ行くよ…」 行くって? 分かんないけど… お母さんの声…優しい… 「あ…」 忘れてた 凄く昔の…小さかった頃の記憶だ そんな事あったの、すっかり忘れてた よく覚えてないけど その後生きてるんだから、母さんは途中で止めたんだろな 母さんに殺されかけたのに あの時の母さんは 全然怖くなかった いつもの冷たい目じゃなく ちゃんと母さんの目の中に映ってて 俺だけを見て 俺の事だけ考えてくれてたから あの時は、意味が分からなかったけど 俺だけ殺そうとしたんじゃなく 一緒に死のうとしてくれてたんだ 「っ…っ…」 色んな優しさ知ったからかな 気まぐれかもしれないけど 殺されかけて感じるなんて、おかしいけど あれは、母さんの優しさだったんだって思える だから俺…嬉しかったんだ 「~~っ…ふっ…うっ…」 母さんは、自分みたいになる俺の事、心配してくれたんだ 自分が…生きてくの辛かったんだ 俺も自分みたいに辛い思いするの、可哀想って思って… 一緒に死のうとしてくれた 「~~っ…母さんっ…」 俺は何も知らなくて 何も出来なくて 一緒に居るのに、母さんは1人で きっと…凄く辛かったんだ 「うっ…ごめんっ……」 俺が、もう少し大人で 何か少しでも母さんを支えられてたら 母さんは、もう少し笑ってられたかもしれない 母さんは、今どうしてるだろう 誰かと居るだろうか 1人だろうか 「1人は…寂しいよな?」 「愛もな…寂しがり屋なんだぞ?」 槇田さんは、分かってたんだ 母さんも、本当は 寂しいんだって事 槇田さんは、分かってたんだ 1人が、どんなに寂しいか 大人だからって 色んな事分かってるからって 上手く生きられる訳じゃないんだ 皆…色んな気持ちと闘いながら 「暁にも…いつか分かるかな?」 「寂しいに負けると…傷つけてしまうんだ」 大人の槇田さんは どんな気持ちで、子供の俺に言ったのかな そんな風に思ってた槇田さんが 俺にあんな事するって どんな気持ちだったんだろう

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