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優しくなくていい

「美味しかった。凌久の料理、オシャレだね」 「そうか?」 「結局、ほとんど凌久に作ってもらっちゃって、ごめんね」 「いいよ。その分、もっといいもの貰えたから」 「っ…後片付け…俺がやるから、凌久はゆっくりしててね」 悠稀が、食器を持って立ち上がる 「悠稀、こっち向いて」 「いっ…今、無理」 「無理な顔見たいんだけどなぁ」 「むっ…無理だからっ…」 可愛いなぁ あんなん、珍しい事じゃないのに 「悠稀、キッチンの床に倒しちゃったけど、体痛くしなかった?」 「うん。全然大丈夫だよ」 「キッチンの床でイクなんて、ヤラシイ兄ちゃんだね?」 「~~~~っ!」 ようやく、こっちを見てくれた、無防備な顔が可愛いくて ちょっと意地悪してあげたら、また、真っ赤になってしまった 片肘付いて、悠稀の顔を観察する 「凌久…ソファーで休んでていいよ」 恥ずかしさで、泣きそうになってんじゃん 「ん~…んじゃ、シャワー浴びちゃおっかなぁ」 「あ、お風呂、お湯溜めるね」 「溜めて来てもいい?」 「うん」 風呂場に行って、お湯を溜め始める 湯船の縁に座りぼ~っと見る 風呂…暁、不安になるんだっけ? なんか、悠稀居ないととか言ってたよな 風呂場で色々されたんかな それが今は、彼氏んとこ泊まりに行って 兄ちゃんに彼氏呼びなって言えるんだから すげぇ成長したよなぁ 「凌久?」 気付くと、悠稀が風呂場の入り口に立ってた 「おお。なんか入浴剤とか入れる?」 なんか… 悠稀、泣きそうじゃね? 「凌久…」 悠稀が、こっちに近付いて来る 「悠稀?」 「ごめん…大丈夫?」 「え?」 なんか… 抱き締められた 何事? 暁じゃねぇぞ? 「お風呂…溜めるの、怖くなかった?」 風呂…溜めるの… 「………ああ。全然…忘れてた」 そう言えば、そんな事あったな 「良かった…俺も忘れてて…でも…凌久がここに座ってるの見て…思い出した」 「そっか。心配かけてごめん。大丈夫だよ」 「凌久…今でも怖い夢…見る?」 「もう、ほとんど見る事ないよ」 「どんなに時間経ったって…怖い時、電話して?」 「ん…ありがと」 遠い昔の話みたいだ そう思えるだけ、あれから悠稀と色んな思い出作ったもんな 「さ、そろそろお湯溜まるぞ」 「うん…凌久、入浴剤使う?俺は、どっちでもいいよ」 「んじゃ、せっかくだから」 「どれにする?何色がいい?」 「ん~…柚子にするか」 「うん」 ちゃぽん… あんなに心配されるとは思わなかった 風呂…怖かったよな 今でもたまに、映像が浮かぶ フラッシュバックって言うのかな けど… あまりにも異常な世界だったせいで 夢だったんじゃないかって思う 「筋肉…ほとんど戻ったな」 夢じゃないってのは分かってる だって、悠稀と沢山苦しんだから 本能的に、嫌な記憶を消そうとしてるのか 本能的に、思い出すのをストップさせてるのか あの頃みたいに、ちゃんと思い出す事はなくなった でも、一緒に苦しんできた悠稀は まだ闘ってる 駅まで行くだけで心配して 湯船の縁に座ってるだけで心配して 早く悠稀の中からも消えてくれないかな 「悠稀、お風呂ありがと」 「うん…」 この顔は… また色々考えてたな 「こ~ら、すぐ考え込まない」 ソファーに座って、肩を寄せる 「うん…」 「悠稀が考え出すと長いんだよ。これから朝まで、悠稀に気持ち良くしてもらおうと思ってたのに、してくんないの?」 「……忘れてた訳じゃないけど、まだ夢見たりとか…思ってなかった。そういうの…気付いてあげられなくて、ごめんね」 くるくるした目が、うるうるしてる この可愛いのを泣かせたくないって思ってんのに どれだけ泣かせてきただろう 「ほんとにたまに、僅かに映像が出てくる位なんだ。それで、怖くて眠れないとか、そういうのは、もうないんだ。だから、悠稀にも言わなかった。ほんとに大丈夫だよ」 「……うん」 「お風呂、入っといで?」 「うん…」 「ふっ…ちゅっ…行っといで」 「うん」 軽くキスをすると ようやく、風呂へと向かった さて、悠稀が出て来るまで何しようか なんか動画でも見てるか 「何がいいかなぁ…」 ヒトコワ あなたの傍にも… ん~? ヒトコワ? どれどれ? 早送りで見ていくと… おお…幽霊の仕業かと思ったら、ストーカーかい なるほど 生きてる人間の怖い話ね 妖精さん… 見えてるって思い込んでるヤバい奴か 寝心地いいな、このソファー やっぱソファー欲しいなぁ なんか… 眠くなってきたな 「やめて!助けて!誰か!」 「残念だったね…いくら叫んでも誰も来ないよ?」 「お願い…助けて…」 「俺の言う事聞いたら…考えてあげてもいいよ」 「言う事…」 「そ。今死ぬ?言う事聞いてみる?」 「き…聞く……言う事…聞くから…」 「いい子だね…」 だって… 逃げられないんだ 言う事聞くしかないだろ? 逃げられないのに… 出来る事なんて 殺すの…やめようって思ってもらうしかない 言う事…聞くしかない 「いい子だね…」 良かった 「可愛いね…」 良かった 良かったって…思いたくない こんなの… こんな奴に 褒められたくなんかない 助けて… こんな事したくない 助けて… 誰か 助けて… 「凌久!」 悠稀の声… 何度も夢の中に出て来てくれる 「凌久!起きて!凌久!」 起きて? 「……え?」 「凌久!」 悠稀が抱き付いてきた 「うわっ…悠稀…何泣いてんの?!」 「凌久!凌久!」 「悠稀…どうした?!」 「凌久が…泣いてるから」 「あ?俺は泣いて…え?」 あれ? 泣いてる 夢見て泣いた? 「凌久っ…大丈夫だよ…夢だから」 げっ… もう、ほとんど夢なんか見てないって言ったばっかなのに なんちゅうタイミングで 「分かってる。悠稀、大丈夫だから」 「凌久っ…もう…大丈夫だよ」 「分かってる。大丈夫だよ、悠稀」 「凌久…」 「ごめん…俺、寝ながら泣いてたのか?」 「~~っ…助けてって…誰か…助けてって…」 うわぁ… 言っちゃってるじゃん…俺… 何故に今… 「怖っ!じゃあ、それ…計画されてたって事?!」 「最初から、計画的犯行だったって事ですね」 「怖っ!」 これか… こんなもん見ながら寝てしまったから… 「悠稀、もう大丈夫だから」 「んっ…凌久…」 悠稀が、俺の頬拭ってくるけど 悠稀の方がグショグショじゃん 「なんか、ヒトコワの動画見ながら寝ちゃったからだわ」 「ヒトコワ?」 「そ。事件とかさ、ミステリー的な…多分、そんなのがBGMになったから、あんな夢見ちゃったんだ」 「そんなのっ…見ないでよっ…」 「だな?もう見ない。ほら…俺、全然落ち着いてるだろ?」 「んっ…」 悠稀の頬を拭ってやる ごめんごめん 「びっくりさせたな?ごめん」 「俺が居るのに…1人で怖い思いさせちゃったからっ…」 「ははっ…1人で怖い動画見るもんじゃないな」 「俺が…傍に居る時にしてっ……俺が知らないところで…助けてって言っても…~~っ…分かんないからっ…」 「分かった。ごめん。もう見ないから…泣き止んで」 悠稀を、ぎゅっと抱き締める 泣かせてばっかだな 泣かせようなんて思ってないのに 「ごめんな…悠稀」 知らないところで 助けてって言ってると思って 探してくれたんだもんな 「悠稀が、一緒になって乗り越えて来てくれたから…悠稀との沢山の思い出増えたから…あの時の事、だいぶ頭から消えたんだよ」 「んっ…」 「悠稀が泣きながら…俺と一緒に進んでくれたから、その1つ1つが大切な思い出になって…あんなの覚えておくスペース、無くなってく」 「んっ…」 「ありがと…悠稀……悠稀が好きだよ」 「んっ…凌久…」 俺の首に手を回して 思いっきりキス待ち顔してくれる この可愛いのにキス出来るのが 俺だという奇跡 今でもたまに…信じらんないよ 「凌久…いい?」 「んっ…挿れて…」 「んっ……大丈夫?」 「はぁ…大丈夫…」 「もう少し…挿れるよ?」 「もっと…はっ…挿れて…大丈夫だから…」 「うん…」 もう数えきれない程してきたのに 毎回不安そうな、心配そうな顔 だから…最初は、なるべく顔が見える様にする 「はぁ…悠稀……気持ち…いいから…もっと…挿れて…」 「うん…もう少しね…痛かったら言ってね?」 そんなに心配したら 萎えちゃうんじゃないかってくらい… 「んっ…はっ…はぁ…」 「大丈夫?凌久…」 「大丈夫…もっと…」 「うん…」 だから… (たが)を外してやりたくなる そんな心配や、気を遣うなんて、吹っ飛ぶくらい 理性なんて、手離してしまうくらい 欲望に飢えた悠稀を見たいと思ってしまう 「凌久…入ったよ?大丈夫?」 「大丈夫…悠稀…動いて…」 俺の事気にしないで、好きに動いて って、言いたいけど、そんな事してくんないから 「ん…凌久…」 「悠稀…今日…んっ……いっぱい…イカせて欲し…」 「っ!…いい…けど……凌久が無理しない位ね?」 「んっ…少しっ…くらい…無理でも…いっ…からっ…」 「無理は…だめだよ」 無理でもいいんだよ 今日は特別なんだから 「ぁっ…お願い……悠稀…悠稀…にっ…はぁ……無理なくらいっ…イカされたいっ…」 「~~っ…そっ…そんな事言われたら…っ…凌久に…優しく出来るか…分かんなくなるからっ…」 暁の事、恨んでなんかないけど 暁の事、応援してるけど でも、やっぱり… ここで、暁としたのかなとか…考えるよ 「んっ…んっ…や…優しく…なくて…いっ…」 「だめだよ…凌久を大切にしたい」 「悠稀ん家…で……んっ…めちゃくちゃ…抱かれたい…から…」 「………凌久」 悠稀が、一度抱き締めてきた 意味…分かった? 「凌久……凌久……どうして欲しい?凌久の…したい様にするよ」 「もう…イケないってくらい…抱いて欲しい……優しくなくていい…」 「うん…」 「優しい兄ちゃんは…要らない……欲望に…堪えきれない…恋人が欲しい…」 「っ…分かった…分かったよ…凌久」 ここで…俺を… 恋人として…抱いて

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