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彼女とのペアリング
凌久を送って、凌久の家の近くのスーパーに向かう
「パン屋さんの、いい匂いがするね」
「いつも誘惑に負ける」
俺が凌久の家に来てる時
たまに、色々まとめ買いをする
今日は時間があるし…
「凌久、買い物の前に、何処か見る?」
「ん~…特に用事はないけど、ちょっと歩くか」
スーパーと同じ建物の中に、パン屋さんや、携帯ショップ、メガネ屋さんに、服屋さん…
あ…
「凌久、凌久…」
「ん?何か気になるもんあった?」
「ちょっと…あそこ寄りたい」
「あそこ…あ…」
そんな立派なジュエリーショップじゃないけど
でも、凌久と見たい
「見に行くか」
「うん」
女の人用の、髪飾りや、アクセサリーが多いので
ジュエリーショップと言うか、アクセサリーショップなんだろう
けど、一角には、結構本格的な値段の物も置いてある
「色々あるね…」
「ん…でも、やっぱシンプルなのがいいなぁ」
少し2人で見て歩いてると
「いらっしゃいませ。どうぞご自由にご覧下さい」
「あ…はい。ありがとうございます」
軽くだけ声を掛けて
店員さんは去って行った
「あっ…見て見て、凌久…これ、2つで1つの模様になるよ」
「そうだな」
「でも、もうちょっと細いのがいいかなぁ」
同じデザインだけど、色違いの物
全く同じ物
やっぱり実物見ると楽しいな
だけど、どれもペアで置いてあるのは
大きな指輪と小さな指輪
同じ位の大きさでペアになってるのが見たい
「宜しければ、お取りしましょうか?どういった物をお探しですか?」
店員さんが、戻って来て声を掛けてくる
「えっと…ペアリングを…ちょっと見てみようと…」
「結婚指輪ですと、こちらになりますが、そうではないペアリングですと、この辺りの物が人気になっております」
「……ありがとうございます」
せっかく実物見れるなら
2つ合わせて、どんな感じなのか見てみたいなぁ
「こちらが、少し凝ったデザインのタイプ。こちらが、シンプルなデザインとなっております」
「…あの…同じ大きさで、どんな感じか見る事は出来ますか?」
「?……同じ大きさですか?」
あ…意味分かんないかな
「あっ!悠稀…ほら、そろそろ時間!彼女と約束してんだろ?」
「……え?」
彼女?
何言ってんの?
「ほ~ら!すいません!失礼します!」
「凌久…ちょっと…」
凌久が、俺の腕をグイグイ引っ張る
「凌久ってば…」
「…………」
「凌久?」
「…………」
腕を離してくれた凌久は
買い物してないのに、建物を出てしまい…
「……凌久…怒ってる?」
「……怒ってない」
「うん…」
でも…
ちょっと前を歩く凌久は
いつもより足早で…
凌久の家…着いちゃった
凌久が、ドアを開ける
俺…入っていいのかな
何も言わず玄関に入る凌久の後に付いて、とりあえず玄関に入ると…
「えっ…」
ドアが閉まると同時に
凌久が抱き付いてきた
「凌久?」
「~~~~っ…ごめんっ……ごめんっ…悠稀っ…」
「凌久…泣いてるの?俺、怒ってないよ?」
「~~っ…ごめんっ…~~~っ…ごめんな…」
「凌久…」
何に対するごめんか分かんないけど
「うん…大丈夫だよ」
「~~っ…ごめんっ…」
「うん…大丈夫……凌久…謝らなくて大丈夫だよ」
「っ…悠稀……ごめんっ…」
「凌久…大丈夫……凌久…大丈夫だよ」
なんで、突然こんなに号泣したのか
突然、腕引っ張ったの…関係あるよね
あの女の店員さんと話したの…関係ある?
嫉妬してくれた?
それで…こんなに泣いてるの?
しばらくすると、ようやく泣き止んできた
「凌久…大丈夫?」
「……悪い…突然…ごめん」
「俺が、あの店員さんと話すの、嫌だった?」
「…そうじゃない」
「うん…凌久…中入って座ろ?」
とりあえず中に入って
2人してベッドに座る
「悪い…買い物もしないで、勝手に帰って来た」
「そんなのはいいけど…なんで泣いたの?」
そう聞くと…
「…悠稀が…指輪…同じ大きさで見たいって言った時……何言ってんだ?って…顔してたから…」
「ああ…説明してないから、俺達のを探してると思ってなかったんじゃない?」
「だから!まさか俺達のだなんて…思ってないって事だろ…」
「展示されてたのも、全部男女用のサイズだったもんね」
「……あの後の…あの人の反応……悠稀に見られるのが怖かったんだ」
あの人の反応…
俺に見られるのが?
「……どういう事?」
「男同士のなんて考えもしない店員が…俺達のペアリングだって気付いた時……どんな目で…どんな態度になるか、分からない……そんなの…悠稀に見られたくなかった」
「凌久…」
「同じ人間じゃないみたいな…他の人と同じ幸せを望もうとするなんて…みたいな……そんなのっ…悠稀に見られたくなかった…」
「凌久…」
凌久を抱き締める
つまり…
凌久は、そういう経験があるんだ
凄く…傷ついたんだ
だから、俺を傷つけない為に
あんな嘘……
「ありがと…凌久」
「ごめん…もしかしたら…普通に対応してくれたかもしんない。今は、そういう店…増えてるって聞くし……けど……」
「ん…凌久は優しいから……でも、もっと別の嘘が良かったな…凌久が隣に居るのに…~っ彼女が居るとか…っ…思われたくなかった…」
どんな態度されたって
凌久と堂々と見たかった
けど、それは俺が凌久みたいな経験してないから、そう思えるのかもしれない
「ごめんっ…俺も…言った傍からっ…~~っ…自爆してたんだけどっ…っ……悠稀の事…彼女とのペアリング選んでる…格好いい彼氏って…思ってもらいたくてっ…~~っ…ごめんっ…」
「ん…でも、次回からは許さないから……誰にどう思われて、どんな顔されて、どんな事言われたって…~~っ…隣に居る凌久が恋人なんだって…知って欲しいっ…」
自慢したいくらいなのに
なんで隠さなきゃならないの?
もっと…羨ましい目で見てよ
「悠稀っ…ごめんっ……ごめん…」
「今日だけだよ…次があったら俺……その場で大声で泣き叫ぶから」
「…そんな彼氏…やだ…」
「じゃあ…2度と彼女居るなんて言わないで」
「ん…分かった」
凌久から少し離れて
凌久の涙を拭う
「んっ…もう、大丈夫だ」
綺麗な顔
泣いてて
こんな綺麗な人…居るかな
「凌久…泣きたいの、家まで我慢したの?」
「さすがに…あそこで泣いて、家まで帰んの、ヤバいだろ」
ちゅっ
「?…なんのキス?」
「ご褒美のキスだよ」
「?…泣くの我慢したから?」
「うん…俺以外の人に…凌久の泣き顔見せなかったから…」
「…………」
少しの間、ぽかんと見てた凌久が
ふっ…と笑う
「悠稀…結構俺の事好きだよな?」
まだ泣き顔の余韻が残る
ちょっと困った様な笑い顔
綺麗…
「凄く…好きで…好き過ぎて、怖くなる……そのうち…凌久に嫌われるかもしれない」
自分の気持ちだけ暴走して
凌久を泣かせる日が来てしまうんじゃないかな
「悠稀…なんて顔してんの?」
今度は、凌久が俺の頬に触れてくる
「嫌な俺になったら…凌久、逃げて」
「大丈夫。今んとこ悠稀が考えてる様な事は、とっくの昔に俺も考えてる」
そう言って抱き締めてくれた
そうかな
同じ事考えてたとしても
その中味は…違うんじゃないかな
俺だけ凄く重いんじゃないかな
「凌久…」
「ん…」
「俺…今まで何人かの人と付き合ってきたよ」
「?…知ってるけど?」
「だから…何人かの人と別れてきた」
「まあ…そうなるな」
「こんなに好きになったのも…嫌われるのが怖いのも……初めて」
「悠稀…」
皆は、そう思ってくれてたのかな
じゃあ…同じ思いを返せてなかったんだ
でも…わざとじゃないんだ
知らなかったんだ…こんなの
「俺もだよ…先輩と連絡取れなくなっても……まあ、かなり落ち込んだけど…そんなもんかって思えた……けど、悠稀と別れたら…かなり落ち込むじゃ、済まなそう…」
俺は、何人か彼女が居た
だから、凌久にこんな事思うのどうかしてるのに
いつまでも、出て来る人が
たった1人の先輩である事に
毎回同じ人である事に
凄く嫌な気持ちが涌き出てくる
「…凌久……ほんとに…俺…最低な人間になりそうで…怖い…」
俺を好きだって話なのに
先輩と別れて…落ち込んでる凌久を想像してしまう
「だから…大丈夫だって」
「……今度…バイト休みの日…何処か行きたい」
「え?何処かって?別にいいけど…」
「……~~っ…その…先輩とは行った事ないとこ…何処でもいい…」
「悠稀…」
俺としか行ってない場所なんて
きっと、今までもいっぱいある
そんなの分かってる
けど…
「分かった…何処か行こ?」
「……怒った?」
「怒る訳ないだろ?」
「す…少しは…~っ嫌いになった?」
「なる訳ないだろ?悠稀の嫉妬…嬉しいよ」
怖くて、しがみ付くと
頭と背中撫でながら
耳元で優しく、そう言ってくれた
まるで小さな子供みたいだ
恋愛した事なくて
初めて付き合った彼氏みたいだ
「っ…凌久に…嫌われたくないのに…格好悪くて……嫌なとこ…どんどん出てくる…」
「恋愛って、そんなもんだろ」
「だって…凌久は、いつも格好いいもん…」
「んな事ねぇよ…悠稀が特殊なフィルターかけてっから、そう見えるだけだ」
「……よく…分かんないよ」
泣いてる凌久も
笑ってる凌久も
可愛い凌久も
格好いい凌久も
「凌久だけ…何してても大丈夫なんて…ずるい」
「はあ?…俺も、言ってる意味、よく分かんないけど?」
だって凌久は気付いてないから
自分がどれだけ魅力的か
気付こうとしないから
「もう…これ以上格好良くならないで…」
「あのなぁ…それ、そのままそっくり、お前に返してやるよ」
ほらね
絶対認めないで、すぐ俺の話にすり替える
気付かないと止められないのに
俺の彼氏…
どんどん格好いい彼氏になってっちゃう…
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