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暁の星
「よし…夕食注文完了」
「凌久、ペアリングの候補見せて?」
「お、やっと真面目に見る気になったな?」
画面を出して、悠稀に渡す
「凌久とセンスが似てて良かった」
嬉しそうにスマホの画面を見ている
「悠稀さ…」
「ん~?」
「あんまり、携帯…気にして見なくなったよな?」
「あ…うん」
「あ、意識的?そんな訳ないと思うけど、今さら気を遣ってとかじゃないよな?」
「違うよ」
そう言って
スマホの画面から顔を上げた
「凌久、暁星 って知ってる?」
「行政?」
「ううん…夜明けなのに、消え残ってる星の事。有名なのは金星で、明けの明星 とか、暁 の星って言ったりする」
「ああ…明けの明星なら知ってる」
「夜が明けたら、ちゃんと消えてくれればいいのに…消えずに残ってるんだ」
悲しそうに
寂しそうに
「暁の事か?」
「……暁の中に、絶対に消えないものがある。それまでも…きっと俺には想像も出来ない辛い事、沢山あったんだろうけど、たった数年で…一生暁の中から消えない様なものを…刻み込まれた」
「……そうだな」
俺だって、ずっと消えないだろう
でも、俺はたった数日で
すぐに沢山の温かい人達に救われて
何より…
いつでも悠稀が居てくれた
暁は……
「凌久…ごめん、大丈夫?」
「悠稀…大丈夫だよ」
悠稀が、そっと隣から抱き寄せる
そっか
改めて話そうとすると
俺も思い出すから、避けてたのかな
「ほんとはね…その星…壊してあげたいんだけど……本物の星の光が、物凄く昔のものを見てるのと一緒で…今さらなんだ。俺が、事情を知った時には既に…全部終わってて…星を壊したところで…暁の中には残ってしまってる」
「うん…そうだな…」
悠稀が、抱き寄せた俺の肩を擦ってくる
「悠稀…俺は大丈夫だよ。話続けて?」
「うん…」
もう片方の手で、俺の手を悠稀の方に持って行き、手を重ねてから
また話し出した
「だからね…新しい星になろうって思ったんだ」
「新しい星…」
「うん。それまでの星より、ずっと明るい星…前の星は、消えないかもしれないけど…見えなくなる位…明るい星になったら…少しは、嫌な事思い出す時間減らせるかなって…」
「そうだな…」
俺も、それ…
実践してもらってるよ
「俺は…やり方間違っちゃったから…あまり、上手くはいかなかったかもしれないけど…」
「そんな事ないだろ?あの暁が、好きな奴の家で、楽しく過ごせてるんだぞ?その結果が全てだろ」
「うん…最善ではなかったけど…多分、安心出来る場所には、なれたかなって思う」
「安心出来る場所があるから、新しい事に挑戦出来んだろ」
「うん…」
まあ…
大切であればある程…
罪悪感は消えないよな
「俺が知ってる暁は、ほんの少しだけど…それでも凄く辛くて苦しくて…頑張ってきた暁を見てきたから…心配で…心配で…」
「そりゃそうだろ」
「だけどね…もう、俺じゃなくていいのかなって、思ったんだ」
「まあ…悠稀は、絶対必要だろうけどな」
悠稀ありきの挑戦だからな
「うん…そうなんだけど…例えば、昨日の夜…間宮君と何か話したり…もしかしたらセックスしたり…それで、どっちか…或いは2人して、泣いてたかもしれない」
「まあ…そうかもな」
その割りには、落ち着いてるな
「だけど…間宮君となら、大丈夫って思えるんだ。泣いたとして…きっと、2人で沢山話し合って…考えて…進む道ちゃんと考えるって思える。だからね…もう、間宮君に新しい星になってもらおうと思って…」
「なるほどな…それは、悠稀が暁を信用してるって事だな」
「え?」
きょとんとした顔で
悠稀が、俺を見る
「暁なら…暁が選んだ人となら、大丈夫だって思えるのは、暁を信用してる証拠だ」
「信用…そっか」
「そ。あんなにガッツリ保護者やってたのに、ちゃんと弟離れ出来て、偉いぞ」
悠稀の頭を撫でてやる
「そっか…そういう事なのかな」
「そういう事だ。あと…チェンジはしなくて、いいんじゃないか?」
「え?」
「暁の中の星…何個増えたって、別にいいだろ?沢山あった方が明るいぞ」
「…あ、そっか…そうだね?」
この末っ子みたいに笑う奴が
突然できた弟の為に
兄ちゃんやって、親代わりして
今…弟離れしようと頑張ってる
「悠稀…ほんとは寂しいだろ」
「え?」
「せっかく話せて、笑って、色んなとこ行けるようになったのに、自分から離れてくの…ほんとは寂しいだろ」
「…凌久が居なかったら…寂しくて引きこもってたかもしれない…けど、凌久が居るから大丈夫だよ」
引きこもり…
悠稀の、引きこもり生活…
想像出来ない
「弟に捨てられたら、すぐに来い」
「ふっ…うん。すぐに来る」
暁の中にも
悠稀の中にも
俺の中にも
消えないものがある
けど、そんなのに負けてられないから
そんなの忘れるくらい
人生楽しんでやる
「ご馳走さま」
「旨かった~」
「はぁ…名残惜しいな」
「ん…でも、また明日会えるだろ?」
「うん…明日もあさっても…」
「あさっても、しあさってもだろ?」
「うん…凌久…ずっと一緒」
泊まりが終わるとなると
俺以上に寂しがる
ほんとは、悠稀の家から俺が帰れたらいいんだけど…
「そ。毎日ペアリングどれにしようか考えて、決まったらペアリング買って、届くまで2人でわくわくしながら待って…」
「届いたら、大学じゃないとこ、2人でペアリング付けて歩いて…」
「ん…そのうち旅行行ったりなんかして…」
「旅行?凌久と旅行…行きたい」
「そのうち行こうな」
「うん…」
縋る様な…
いつまでだって、末っ子悠稀で置いときたいけど
兄ちゃん…弟迎えに行くんだろ?
「暁も楽しんだかな?」
「うん…帰ったら、話してくれるかな…」
「俺達の濃厚な夜を、自慢してやってもいいぞ」
「えっ?…しっ…しないよ……そんな…そんなの暁には…」
「ぶっ…冗談に決まってんだろ?」
「あ…そっか」
本気で話されたら
俺だってもう、暁に会えねぇわ
「1人になったら思い出して、抜いていいぞ」
「っ?!…~~~っ…うん…」
すっっごく、ちっちゃな声で、うんって言った
可愛い
「俺は、どんな悠稀思い出そっかなぁ…」
「え…あ…今…思い出さなくていいよ…」
「まずは、キッチンの床で可愛くなっちゃった悠稀だろ?」
「りっ…凌久…今思い出さないでってば!」
「ん?興奮しちゃう?」
「違うよ!恥ずかしい!」
真っ赤になって
困った様な顔
ずっと甘やかしててあげたいなぁ
「さ、そろそろ行かないと。暁迎えに行くんだろ?」
「……うん」
出た
垂れ耳
「そのうち、兄ちゃんはもう構わないでとか、言われる日が来るかもしんないし…」
「え…」
「いや、分かんないけどさ。そうなるかもしんないから、頼られてるうちは、兄ちゃん頑張ってやれ」
「うん……え?構わないで……」
うわ…
めちゃくちゃダメージ受けてる
「いや…暁に限って、そんな事言わないと思うけどな」
「…うん」
「いや…絶対言わないと思うぞ?」
「でも…彼氏も友達も出来たし…そうかもしれないよね……うん…少しは心構え…しとかなきゃね」
まずい…
更にテンション下げさせてしまった
「悠稀は別格だろ?クラス替えで、友達少なくなっても、彼氏と上手くいかなくて別れても…ずっと傍に居てくれる兄ちゃんって、思われてんだろ?」
「…そう…だと思う」
「それでいいじゃん。彼氏と上手くいってる時は、ほっとけって言われても、喧嘩したら兄ちゃんに泣いて縋ってくる。それって、かなり信用されてるし…普通の兄弟も皆、そんなもんなんじゃない?」
「………そ…そうかな……そうかも…うん」
くそ真面目で、純粋で、一生懸命で
だから、考えなきゃなんない事も
悩む事も
次から次と、山の様にある
「ほら、待ってるぞ?明日また、甘やかしてやるから、頑張って来い」
「うん…凌久…行って来るね」
「ふっ…ん…明日まで、行ってらっしゃい」
そうだな
何処からだって
また戻って来る
バイバイより
ずっと笑顔で離れられるな
また明日まで
明日の、お帰りまで
行ってらっしゃい…悠稀
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